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ブラサカGK特集|見えない選手の背中を守る。和地梨衣菜選手

見えない選手の背中を守る。
ブラサカのゴールキーパーは奥が深い!

ブラインドサッカーのピッチ上にいる選手の中で唯一、目が見えている選手ーーーそれは、ゴールキーパーです。

ブラサカのゴールキーパー(以下、GK)の役割は、ゴールを守ることだけではありません。ピッチの後方3分の1のエリアで味方ディフェンスに指示を出したり、キーパースローで攻撃の起点になったりして、後方からチームを支えています。

今回は、和地 梨衣菜 選手(わち りいな/晴眼/buen cambio yokohama所属)を紹介します。和地選手は、男女混合で行われる国内大会でGKとして活躍し、ブラサカ女子日本代表にも選出されています。

そんな和地選手に、どうしてブラインドサッカーをするのか、ブラサカのGKは試合中どんな工夫をしているのか、そして印象に残っているチームメイトとのコミュニケーションなどについて聞きました!

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障がいの有無に関わらず、ひとりでも欠けたらゴールが生まれないのがブラサカの魅力

ーーまずはサッカー経験について教えてください。

サッカー経験は、高校の3年間です。
6歳くらいの頃にテレビで初めてサッカーを観たとき、日本代表の中澤佑二選手に憧れました。女子ということもあり、周りの理解を得られずすぐにサッカーができませんでしたが、どうしても諦められずに高校でサッカーを始めました。

最初はディフェンダーをしていて、ゴールキーパーになったのは1年生の終わり頃なので、サッカーのキーパー歴は2年弱です。

ーーブラインドサッカーを初めて知ったのはいつですか?

ブラインドサッカーという競技があることは、中学生のときから知ってはいましたが、初めてプレーの映像を観たのは大学2年生のときです。大学では体育学部に属していたため、障がい者スポーツに関する授業があり、そこでブラインドサッカー男子日本代表の試合を観ました。

ーーブラインドサッカーを選手として始めようと思ったきっかけは何ですか?

見えない選手が見えているGKを相手に得点を挙げるということがすごいと思って、競技に関心を持ったのがきっかけです。
それから、当時住んでいた場所から1番近かったbuen cambio yokohamaというチームに入りました。

ーー晴眼者である和地さんが、ブラインドサッカーをする理由、ブラインドサッカーの魅力は何ですか?

障がいの有無に関わらず、それぞれに役割があり、ひとりでも欠けたらゴールが生まれないところに、この競技の魅力を感じます。個人的には、サッカーの1点よりもブラサカの1点の方が同じ1点でも重みがあるように思います。

また、男女に扱いの違いがなく平等であることも、私にとってはおもしろいなと感じる要素です。国内大会は男女混合の形式で行われているので、憧れの先輩である日本代表やナショナルトレセンのGKたちと同じ土俵で戦えたり、近い距離で学べたりするのはとても魅力的です。男子日本代表強化指定のGK・佐藤大介選手(たまハッサーズ)と泉健也選手(free bird mejirodai)は、私にとっての大きな目標です。

ブラサカゴールキーパーの心得

ーーサッカーのGKとブラサカのGKの違いは何ですか?

サッカーのGKは、ゴールを守ることが役割の9割を占めていると思います。
一方、ブラインドサッカーのGKはまず、5.82m×2mのエリアでしかプレーできない制約があります。そのうえで、ゴールを守るだけでなく、広い視野と数多の指示でピッチ後方の味方を動かしたり、キーパースローで攻撃の起点にもなったりすることが役割の半分以上を占めます。

ーー見えない味方選手に対するコーチングのコツはありますか?

まずは、練習のときから選手とコミュニケーションをとることがとても大切です。選手一人ひとり感覚が違うので、どんな言葉遣いで、どういう声かけをすれば動きやすいのか、把握しておく必要があります。それから、どの選手がどの位置に立つべきかなど、チームの中での決め事も頭に入れておかなければいけません。

そしてブラサカのスピード感ある試合中では、具体的かつ的確な言葉の選択が必要になります。私は、チームのキャプテンや男子代表の先輩GKからアドバイスをもらって、指示を出す際の言葉の取捨選択を意識するようになったら、試合中に余裕を持てるようになりました。

ーー言葉の取捨選択とは具体的にどのようなことですか?

例えば、相手にボールを奪われたときにファーストアタックの選手を指示したら、あとはセカンドアタックの選手のポジション修正に多くの言葉をかけるようにしています。つまり、ファーストアタックの選手への細かい指示は捨てて、セカンドアタックの選手への指示に集中しています。なぜなら、ファーストアタックの選手に対して「付いていけ」「もっと寄せろ」という当たり前の指示は、目の見えない選手に対してでも必要ないからです。

他には、「右上で誰が持っていて…」のように状況を全て丁寧に説明するのではなく、「取られた。誰下げろ。右1枚降りてきた」など、必要な言葉だけを発することで、かえってより多くの情報を伝えられるようになったと思います。

ーーブラサカGKの難しさはどのようなところにあるのでしょうか?

ブラサカのおもしろいところでもありますが、予期せぬ展開が多いところです。見えない選手が相手なので、シュートのタイミングが読みづらかったり、通常のサッカーにはないような動きに惑わされたりします。
そのようなことに対応できるよう、GKは試合中にチームで一番冷静でいることが求められると思います。

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ーーブラサカのGKはキーパースローで攻撃の起点となることもあります。キーパースローに関して工夫はありますか?

私の場合、男性GKよりスピードが劣るので、スピードよりもバウンドさせる位置や回転のかけ方を工夫しています。

バウンドさせる位置は、相手に取られにくくなるように、ハーフラインのギリギリを狙ったり、相手選手の体の横ギリギリを狙ったりしています。

回転のかけ方は、ボールがフェンスに当たった後、フェンスに沿って転がるような回転を意識しています。フェンスに当たってからボールが跳ね返ってしまうと、味方が取りにくくなってしまうからです。

また、GKはスローのタイミングでゲームスピードをコントロールすることもできます。試合の流れを読んで、スピードを上げたいときは早く投げ、落ち着かせたいときはゆっくり投げることを意識しています。

良い意味で障がいを意識しないようになった

ーーbuen cambio yokohamaには視覚障がいのある選手も晴眼の選手もいらっしゃいますね。チームの雰囲気はどのような感じですか?

視覚に障がいがある人というだけで、チームメイトには良い意味で特別な意識はありません。チーム内では、障がいの有無に関わらず、それぞれがお互いに苦手な部分を補って、支え合っています。
チームの雰囲気は明るくて、冗談を言い合ってみんなで笑っています。週に1回程度しか会わないのに、私にとっては家族みたいな存在で、居心地の良い場所です。

ーーブラサカを始めて、変わったことや気づいたことはありますか?

”障がい”を意識しなくなりました。ブラサカを始めるまでは、聴覚障がい者や知的障がい者などは身近にいましたが、視覚障がい者とは関わりがありませんでした。

当初私は、視覚障がい者に対しては一から十まで助けないといけない、というような印象を持っていました。しかし、実際にチームに入ると、その必要はないことがすぐに分かりました。それだけでなく、視覚障がいのメンバーに支えてもらったり、助けてもらったりすることがたくさんありました。

印象深いのは、初めてブラサカ女子日本代表の合宿に参加したとき、同じbuen cambio yokohamaに所属している加賀選手(ブラサカ女子日本代表・全盲)が、「何を持ってくるといいよ。当日はこんな感じだよ〜」とメールを送ってくれたことです。初めてで分からないことも多く不安があったので、わざわざ連絡をくれたことがとてもうれしかったです。

視覚障がいのあるチームメイトに関して、見えていないのにすごいと思うことや尊敬することはありますが、特別な感情が良い意味でなくなりました。

ーー和地選手はブラインドサッカー女子日本代表でも活躍しています。現在の女子ブラサカについて感じている課題はありますか?

世界的に女子のブラサカ競技人口はまだまだ少ないです。
日本国内では、女子だけで試合を行うことができず、男女混合の試合になっていますが、それに抵抗や怖さを感じてブラサカを始めることができない女性もいるのではないでしょうか。今後、男女混合の大会に加えて、女子だけの大会が開催されるくらい競技人口が増加してほしいと思います。

ーーブラサカ女子日本代表のGKとしての目標は何ですか?

ブラインドサッカー女子代表での目標は、「世界大会優勝」と「女子ブラインドサッカーの普及」です。世界大会で優勝して、視覚障がいを持つ女性の背中を押せるような存在になりたいと思っています。

ーー和地選手の今後の目標を教えてください。

buen cambio yokohamaで日本一になること。そして、技術面・精神面でも、日本代表やナショナルトレセンの先輩GKたちに少しでも近づくことです。

ーー最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。

いつもブラインドサッカーの応援をありがとうございます! 私は、ブラサカ選手としてまだまだ未熟で課題もたくさんありますが、進化し続けるブラサカの一時代に貢献できる選手になれるよう頑張りたいと思っています。今後とも応援をよろしくお願いいたします!

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編集後記

最後までお読みいただき、ありがとうございます。ブラサカマガジン担当の貴戸です。

今回特集したゴールキーパーというポジションには、ブラインドサッカーのおもしろさが詰まっています。見えない選手とのコミュニケーションや、ゲームを動かすキーパースローのテクニックなど。これらは、ブラサカのフィールドプレーヤーが視覚を閉じているからこそ生まれるものです。

”見えない”ということを「不便な障がい」として捉えるのではなく、「おもしろさを生み出すためのルール」に変えることができる。それがブラインドサッカーの良さであり、スポーツの力であると思います。

皆さんもぜひ”見えない”からこそ生まれるおもしろさを体験してみてください!

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