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なぜ人々はトランプの言葉に操られてしまうのか? 『悪魔のスピーチ術』


この記事を書き始めたのは1月6日。大好きなアメリカがカオスと化している様をニュースでみて、いてもたってもいられなくなった。結果的に書き終えるまでに2ヶ月あまりもかかってしまった理由は、知ってることをどこまで細かく話すべきか、載せたら非難の声が出るのではないか、と葛藤があったからだ。しかしながら、何とか私が話したいことをまとめて書き終えた。どうせすぐに削除されてしまうので、その全貌を余すとこなく存分にお楽しみいただきたい。


まず初めにこの記事をご覧になっていただいてる皆様へ、私が決してアンチ・トランプでもなければ彼の熱烈な支援者でもないこと、あくまで中立的な観点からコミュニケーション術というカテゴリーに注視して書いたものであるということをご理解いただきたい。トランプ元大統領は、ビジネスマンとしては非常に優秀で、アメリカ合衆国という国において、大統領という職には不向きだったというだけで。


おわりのはじまり


新年早々、アメリカでトランプ支持者たちが、連邦議会に乱入し、大統領選の投票結果を認定する議会の手続きが一時停止する、という前代未聞の事件が起きた。アメリカ合衆国の民主主義は崩壊したと全世界のメディアで報じられていたのが、まだ記憶に新しい。なぜここまで大々的に報じられる事件となってしまったのか?トランプ支持者らを反乱・テロリズムへと駆り立てた一つの要因として報じられているのが、トランプ元大統領自らがホワイトハウス前で開いた集会である。自分は決して敗北を認めないと約4000人あまりのサポーター達に向かって演説し、強い口調で「連邦議会議事堂へ向かい、我々が正しいということを証明しよう!」と促していたのだ。よって多くのメディアはこの事件がトランプ自身による自主クーデターであると報道。支持者を意図的に煽る演説を行ったトランプ氏への批判が高まり、議長を務めたペンス副大統領、ミット・ロムニー上院議員ら共和党陣営からも暴力への批判や選挙結果の正当性を認める発言が多発した。結果的に、これが引き金となってトランプ政権内部からも辞任する者が後を経たなかった。

司法省は議事堂に侵入した者は約800人程だと推定、民兵による関与や現役の軍人の参加なども国防総省が確認していて、2月下旬までに少なくとも31人の侵入者が逮捕されている。アメリカのみならず世界中でカオスと民衆主義の完全崩壊を目にした恐怖心とアメリカ合衆国終焉の声が一夜にして広がった。トランプ元大統領へ全米からの痛烈な批判の声を受けて、トランプ元大統領本人は1月7日夜にTwitterに投稿した動画で「整然とした」政権移行を約束。前年の選挙についての事実上の敗北宣言をして一連の騒動は幕を閉じた。4人の命が失われたこの衝撃的な出来事で、これまでのトランプマジックが解け、まっとうな共和党員は距離を置き、トランプ氏の政治的影響力にも変化が出てきていると言われている。その一方で、私が最も心配しているのが、残った支持者達が今後ますます「カルト性」を強めていくのではないかという点。一体なぜ、ワシントンの集会に集まった群衆は、トランプ氏のスピーチによって言葉巧みに操られ、このようなテロを起こしてしまったのだろうか?



洗脳大国アメリカ


2020年は米国の政治的歴史史上における最もカオスと化した一年のひとつであったと言えるだろう。そんな中、今全米で大ヒット中の一冊の書籍がある。『トランプのカルト:カルト教団専門家が教える大統領のマインド・コントロール術』と題された、その本の表紙は、元大統領の姓と彼の支持者たちがよく身に着けている赤い野球帽が大きく描かれている。中央にあえて浮き彫りにされた白文字の『カルト』という言葉が目立つ。この本は元アメリカ大統領の実績を称賛したものでもなければ、政治志向を批判するものでもない。これは全米中が今最も注目を集める、ひとつのカルト集団についての話である。


私自身がトランプ元大統領のマインドコントロール術を研究し始めるようになったキッカケとも言えるこの本は、カルト信者に焦点を当てたトピックを長年の間にわたってタブーとしてきた、我々日本人にとっても今非常に重要な読み物かもしれない。確かに、一般世間ではもちろん、メディア、一部の精神科医、および他の多くの専門家によって、これまで様々なトランプ元大統領の言動について意見が飛び交ってきた。その一方で、敢えて標的を作り身内の結束を固めようとする彼のスタイルは、心理的に人々を洗脳する上で強烈な効果をもたらし、彼に従い、彼に投票し、彼の為に行動し、そして良くも悪くも、非常に強く執着し続けるように人々を駆り立てることに成功した。『トランプのカルト』に出てくる優れた説得力のある解説を読んだ後でも、実際にトランプを教祖とする「カルト集団」があるかどうかについては議論の余地があるものも、カルトとその仕組みについて、現在科学的に証明可能な知識に触れておくことは、アメリカのみならず私たちの国を含む世界がいかにマインドコントロールで溢れているかという現状を理解するのにとても役立つ方法であると言えるだろう。


心理学という医療

私は世界中の心理カウンセラーらと触れ合う機会に恵まれてきた。今現在はエンターテインメントの分野に特化した心理学の仕事をしているので、カウンセリング等は行ってはいない。しかし脳科学から精神医療、催眠療法に至るまで、光栄なことにありとあらゆる分野のトッププロ達から直接、広範なトレーニングをご指導頂くことができた。そんな経験とバックグラウンドから、トランプ元大統領自身の精神状態をプロファイリングすることによって、カルトとはどのような構造で成り立っているのか、またいかにして彼は群衆を操ることに成功したのかを紐解いていきたい。

何度も言うようだが、これは私の政治的見解やその類の偏見などによる情報の特定は一切無く、あくまで独自の観点からトランプ元大統領の行動、発言、そして彼がアメリカに及ぼした影響に基づいて、長期間にわたって非常に体系的に研究してきた、その内容の一部である。



政治と心理学

アメリカにはアメリカ精神医学会 (APA)が定めた医療倫理原則というものがあり、その第7条に、『ゴールドウォーター・ルール (GR)』という有名な取り決めがある。精神科医や心理学に精通する医師らが、公衆の注目を集めている人物や、公共のメディアを通じて自身に関する情報を公開している人について、専門的な知識や見解を公開・提供することは非倫理的であるという原則だ。このルールによってアメリカの大統領はじめ多くの著名人らは長年、精神状態が危険なレベルであったり、特定の思想を間接的に一般国民に植え付けようとしたりしていたとしても、心理学者や精神医療の専門家らがそれを公に指摘して警告をならすことが出来なかった。しかし先の2016年第58回アメリカ大統領選挙から、トランプ元大統領が前代未聞の強気な発言スタイルで公の場に登場し始め、マインドコントロールやメンタルヘルスに対する人々の注目度が一気に高まった。その結果、ゴールドルールの体系的な見直しが検討され始め、精神科医が政治に関わる人に対して調査や研究を積極的に進め始める。著書「ドナルド・トランプの危険な兆候―精神科医たちは敢えて告発する」では作者のバンディ・X・リー氏が開催した会合に、直接診断していない有名人に対して精神科医がコメントを出してはいけないというこの古風な倫理規定を超えて、ハーバードのロバート・J・リフトン精神医学博士や、ジュディス・ハーマン氏などの名だたる全米の精神科医・心理学者たちが一同に集結、トランプ元大統領の言動がアメリカにもたらす危険を多面的に論じ話題になった。いかにマインドコントロールが危険であるか、専門知識を持つ法医学精神科医としての彼女達の功績は、直接誰をカウンセリングしたか、誰の専属カウンセラーをしていたかではなくて、彼女達の行動と発言に基づいて今現在多方面から評価されている。

では、ここ最近になってマインド・コントロールや情報操作、陰謀論について触れられる機会が非常に増えてきたのはなぜだろうか。人々がトランプ元大統領の言動にそれほど敏感になったのはなぜであろうか?またどうしてトランプは明らかに無秩序な偽の真実を作り上げたにも関わらず、一部の有権者達にそれを信じ込ませることに成功してしまったのか。おそらく多くの人が、コロナの影響であると考えているだろう。私もその要因は、非常に大きいと考えている。家で退屈していて、仕事もない、前例のない虚無感に世界中が包まれていた時、一部の人々に勇気と生きる希望のように見える”代替現実”が突如として登場する。絶対的なリーダーの存在を崇める人もいれば、とりあえずその人の言うことを聞いてみたら心が満たされていったと感じた人もいる。一方で、家族や友人、身の回りの人たちがそうなっていってしまうのを、客観的にみて恐怖に感じた人もいただろう。

しかし、人々のマインドコントロールへの関心の高まりは長い歴史がある。フロイト(※3)の甥であるエドワード・バーネイズの著書、『プロパガンダ(1928)』で彼は、世界で初めて心理学をビジネスや政治と結びつけて分析した。ちょうどそのころの時代背景として、広告や企業戦略、政府の情報操作などへの民衆の注目の高まりがあった。どうすれば人々に必要としていないものすら買わせることができるか。効果的な影響力の強化方法。有名人が人気の秘訣などなど。現在となってこそ人気なトピックで、この類の書籍は日本でも多数、本屋に並んでいるが、90年以上前に何百もの心理学的技術が解説されていたこの本は大ベストセラーになった。このバーネイズに関する歴史は、アダム・カーティス監督の手によってBBCのドキュメンタリー映画にもなった。『自己の世紀 (The Century of the Self)』と言うタイトルのこれまた優れた映画だ。

1970年代後半からから80年代半ばにかけて、今度は世間の”カルト”への関心が急上昇し、1992年にアメリカの精神医学専門組織「Group for the Advancement (GAP)」が発表した『Leaders and Followers:A Psychiatric Perspective on Religious Cults (リーダーとフォロワー:精神医療の観点からみるカルト宗教)』が世間から第注目を浴び、カルトという異色な話題への人々の興味が最高潮に達した。しかし30年近くたった今でも、カルトへの人々の関心は依然として顕著なものであると言えるだろう。テネシー大学の研究では、米国には少なくとも現在5000の有名なカルト教団があり、メンバーは各団体平均数千人以上に及ぶ可能性があると述べられている。



マインドコントロールの分析方法

この記事の焦点はカルトが巻き起こす精神的被害の分析ではなく、人が大勢の群衆をコントロールする技術の一般の理解にあり、カルトを十分に理解している精神科医などの医学的知見の関与が依然として必要である。たとえば、カルト信者のためのカウンセリングや治療法はあるだろうか?まず頭に浮かんだのは、アメリカ精神医学会によって出版された精神障害の症状と診断方法を統計として記載したマニュアル、『DSM-III (1980)』の「アイデンティティ障害」という分類指標だ。これはカルトへの関心の低下と並行して、後に『DSM-IV (1994) 』にて「アイデンティティの問題」というタイトルに変更された。 そして『DSM-5 (2013)』で、この診断カテゴリーは完全に削除されてしまった。DSM-5における特定不能な解離性障害(DDNOS, ICD-9-CM 300.15, ICD-10-CM F44.89)の分類が最も近しいと考える。

この症状の原因はDSMのなかで「洗脳など威圧的にされた者に起こる人格の解離。長期および集中的な威圧的説得による同一性の混乱。」と表現されており、その一例がカルトへの傾倒と言えるだろう。この「威圧的説得」というの要因がパターン化されて用いられるようになったのは1987年の『DSM-III-R』にまでさかのぼり、当時様々な専門用語が見直され刷新された時代と重なっている。仮に解離性障害が同一性障害に類似した「アイデンティティ障害」の類でもある場合は、「DSM-III」にあった元の呼び名をなぜ残さなかったのか甚だ疑問ではあるが、前の疾患名以外に特定の限定・修飾のない診断名を集計したことを意味する『Not Otherwise Specified (NOS)』は、より明確にすることができない場合に、異形種の掃き溜めとして扱われていると指摘の声が相次ぎ、より議論の余地があると見なされるようになった。そもそも解離プロセスが重要な精神疾患なのか、それとも単なるその人の個性の変化ではないのか?今もなお世界中で愛される戯曲『ロミオとジュリエット』のなかで、シェイクスピアはこのような表現を残している。「私たちがバラと呼ぶものは、他のどんな名前で呼んでも、同じように甘く香る。」解離性障害もまた呼び名は多くあれど、どれも同じくらい心苦しい症状なのである。

診断上の考慮事項に加えて、伝統的で主流の精神医学的治療が、マインドコントロールまたはカルト組織の研究と分析にどのように役立つか (または役に立たないか) という懸念点はさておき、今アメリカや日本で関心が高まっているカルトや陰謀論について人々に正しく理解してもらう為には、古い倫理規定を無視して、ある程度の非難も承知した上で心理学をある程度深く学んできた者が発信していくべきなのだと言うことはご理解いただけただろうか。




カルトの作り方

カルト教団は宗教、政治、性、教育または心理療法など様々なテーマの一貫性を持ったグループが存在する。日本でもおそらく周囲の知人友人の中に似たようなグループのメンバーがいる可能性は高いかもしれない。しかし、それらの人たちがカルトにいて教化されているという自覚があるのかどうかを判断するのは難しい。洗脳されているかいないかを確認する為には思考や行動の制御性を観察することが重要である。


カルトと陰謀論

カルトメンバーは、そのリーダーを絶対視し、それと共にある自分たちは絶対的な正義であり真実の側にいると信じる。都合が悪い事態が起きても、事実を直視し、「自分たちに原因があって問題が起きたのでは」と自省することはない。「それは事実ではない」と否認するか、「不正があった」「裏には○○がいる」との陰謀論に走る。陰謀論はカルトにはつきものだ。彼らにとっては、悪いことは常に「自分たち以外の誰かのせい」。敵対する人達や正体がはっきりしない組織などが裏で動いたとのストーリーを作り上げ、それは「仕組まれたもの」であるとして、自分たちは悪の組織の「被害者」であると訴えるケースは非常に多い。

しかし、カルト的思考・発想に陥った人たちにとっては、具体的な「事実」よりも、自分たちの心の中にある「真実」、あるいは大切なリーダーの言葉が大事になる。この人々は、事実誤認を指摘されても、なかなか聞き入れようとはしない。

ちなみに「不正」が選挙結果をねじ曲げた、とするトランプ陣営の主張には、それを裏付ける事実の提示がなされぬまま。当然のことながら、アメリカの司法手続きでも主張は退けられ、米連邦最高裁は、判事の3分の2を保守派が占めるという従来であれば現職の大統領に有利な議員構成であったが、流石にそこでも全員一致の判断が出た。


あなたも”カルト・メンバー”

面白い話がある。数年前に、私が某ビジネスマン向けネット情報サイトにコラムを寄稿していた頃、編集者から、私にとある書籍とその作者にインタビューをして欲しいと連絡があった。一体どんな本なのか気になり、編集長に聞くと、「コンピューター系です」と言われた。その頃、私が頻繁に書いていた記事といえば社会心理学についての話がほとんどであったから、正直はじめは「人違いでは?」と心の中で違和感を感じていた。「ちなみにタイトルは何ですか? 何ていう名前の本でしょうか?」と聞くと、編集長から「『Mac』のカルト」という本だと説明された。正直タイトルを聞いたときは思わず笑い出してしまった。結果的にインタビューはしたものも、学生の頃からずっとアップル社製品を使い続け、2台のMac Bookと2台のiPad、3台のiPhoneを持っていることは本の作者の前では切り出せなかった。それ以来、私の書斎の一番真ん中に直筆サイン付きの「The Cult of Mac」という本がずっと置かれている。Appleの他にも、私はマジックショーやミュージカル、いわゆるシアトリカルアーツに熱心である。世の中にはTVドラマの俳優や女優、ロックバンドを熱狂的にフォローしている人もたくさんいる。

人々はあらゆる種類の人間になれる。情熱が高いカルト的なグループの中で、重要なのは情報に基づいた各々の意識と『同意』があること。それが真実か嘘かはさほど重要ではなく、むしろ我々のなかで誰が平等な判断ができるというのだろうか。本来の正しいリーダーとしてのあり方は、何を説いて何を与えるかではなく、フォロワーの各々が自分たちが何に取り組んでいるのかをしっかりと認識して知ることができているということにあるのだ。その人達は質問することができ、それを批判する人とも元フォロワーであった人とも話すことができる自由がある。そして時の流れや環境の変化と共にその「カルト」から抜けることが、「出て行くと何かヒドイことが起こるのではないか」という恐怖心に襲われることなく、誰しもに去る権利が与えられているコミュニテイこそが、健全な"カルト"である。

レコードの収集に没頭している人がレコード・カルトのメンバーである一方で、ナチスもまた政治的カルトであったことは歴史的に見ても明らかである。危険なカルトの判断基準の一つは、カルトリーダーが病的なナルシストである点。これは、人々の自由意志と良心を尊重することを大切にする、より健康的なグループのリーダーとは大きく異なり、トランプ元大統領とも一致する。悪性のナルシシストの場合、人々を判断する材料はステレオタイプ的な考えにあり、活動の起源とされるものは全て教祖に関するものであり、フォロワーへの共感は無い。さらに悪徳なカルトは、彼らが法の力をも凌駕していると信じこんでいること。脅迫したり精神的もしくは肉体的に暴力を振るったりすることに何ら違和感を感じないリーダーもいる。それらの悪質なカルト教祖はしばしば妄想的で、自分以外の誰も信用しようとはしないのである。


カルトと聞くとどこか縁遠い話に思われる人も、まだ中にはいるかもしれない。カルトリーダーは、いわゆる一般的に認識されている詐欺グループなどを司るリーダーと同等、もしくはそれ以上に危険な存在であることを忘れないで欲しい。なぜなら犯罪者は大抵自分が何をしているのかという自覚がある。一方のカルトリーダーは巨大な妄想に取り憑かれているという点で、社会に及ぼす影響を考えると極めて危険である。彼らは、現実をテストのように捉えていて、良心や共感、他者への敬意、法への尊重心というものを常人とはかけ離れた間違った概念で捉えている為、一般社会ではありえないような危険な活動を度々巻き起こしてしまうのである。



当然、有名人もカルト教祖と言えなくもない。問題は、危険な方のカルトにおいては、信者はだまされており、アイデンティティや考えの自由を搾取されているということだ。性格や信念体系が大きく変わってしまったり、家族や友人から疎外されてケースが多い。世間一般でカルトというと宗教的な団体が想起されることだろう。しかしその他にも「商業カルト」と呼ばれる組織も存在する。例えば、売春斡旋業者と人身売買業者は明らかな商業カルトの組織であり、マルチ商法グループもまた商業カルトである。クライアントを完全にカウンセリング依存に陥れ、家族や友人から隔離することにより、権威主義的かつ独占的な方法で診断や治療を行う心理療法士も残念ながらいる。


良い催眠術と非倫理的な催眠術との違い

我々が経験しているこの信じられないほどかけ離れた影響を及ぼす二極化するグループというものの存在とそれらの区別をする曖昧なボーダーラインをはっきりとさせる解決策が一つある。倫理的影響力と非倫理的影響力との「違い」に関する教育だ。この教育が幼少期から徹底されることによって、何が真実で何が証拠に基づいているのか、これはフェイクニュース?プロパガンダ?それとも夜中2時、YouTubeを見ているときに無意識のうちに催眠術によって刷り込まれた何者かの信念なのか?などなど概ねの情報を自らの力で評価して識別して冷静に処理することができるようになるのである。



カルトが使う禁断のマインド・ハック

エンターテインメント、犯罪心理学、様々な観点から人間の脳について研究を続けてきた私は、スピリチュアル色を持ったコミュニティや特定の人物を崇める独立性宗教など、これまで様々な「カルト」と出会ってきた。そして、すべてのカルトには共通点があることに気づいたのだ。彼らは思想の自由を知らず知らずのうちに取り除き、各々フォロワー(参加しているメンバー)の思考やアイデアを、リーダーまたは教祖の思考アイデアと融合させる、いわば遺伝子組み換え的なコミュニテイ構造を持つ。では一体なぜ、この仕組みが本人が意図していないにもかかわらず、深く人々の脳内に影響を及ぼして抜け出せなくなってしまうのか?


熱狂的な「フォロワー」の作り方

カルトを概念化する方法として、『BITEモデル』と呼ばれる定義がある。これは制御された行動(Behavior)、情報(Information)、思考(Thought)および感情(Emotion)の頭字語であり、これら4つの特徴があることで成功的なカルト・宗教・組織を完成させることができるのだ。

これらBITEの4つの要素を抑制して、カルトは人々をクローン化もしくは宗教理念を反射させるだけで何ら独自性を持たせない小さな鏡のような存在に変えてしまう。そうすることで、フォロワー達は次第に依存的で従順に変化していってしまう。心理学の専門家として、私はこの一連の現象の要因は『解離性障害』に起因すると考えている。本当の自分の姿に認識がされている場合、心と体が一つになって一人という存在を成り立たせている場合、他人や社会外活動への依存度は概ね低い数値で保たれる。このアイデンティティが何者かによって奪われ、恐怖心や不安に駆られた人間は、思考停止メカニズムが作動し、他人の誘導するままに、そしてカルトが設計した新しいアイデンティティへとインストールされ、その人とその人の習慣を制御し続けてしまうのである。

もうひとつ一般の人々がふとしたキッカケで、カルトに傾倒してしまう大きな要因がある。それは、偉大で多くの人から尊敬されている、リーダー的存在の人間に対して一般人は考えを合わせなければいけない、その人が「これが正しい」というものを正しいと思い込まなければいけない、という絶対的な社会的教義が世の中には根付いていることだ。例えばそれは学校の校長先生からメディアで活躍するアイドルやロックバンド、成功を掴んだビジネスマンや大企業の社長と、幼い頃から大人になっても各々の中に「フォロー (追従)」しなければならないと思う、リーダーいわば教祖的な存在がいたはずだ。これ自体は、極めて自然なことで人間誰しも問題に直面する恐怖は人生の付き物であって、その時に傾倒している「アイドル / リーダー」的な心の拠り所を常に持ち続けていることで、日々挑戦的に行動を起こすことができる自信に繋げるということは当然の生理現象と考えられるだろう。この心理メカニズムをアメリカ心理学会APAでは『メンターシップ効果』と呼ぶ。

同様にこの用語は映画業界でもしばしば耳にする。マスター・ヨーダとルーク・スカイウォーカー、ミスター・ミヤギとダニエルのように、教師と生徒、師匠と弟子という関係性を描写した名作映画は少なくない。上下関係のある二者を描く古典的な心理的演出方法の一つで、物語を進める上で必要不可欠な情報を、師匠から弟子へ教える形で違和感なく視聴者にも説明を行うことができるという実用的な目的がある。それと一方で、一つの目標に向かって主人公が試行錯誤するストーリーを描く際に上下関係のある二つの存在が一緒に協力、もしくは共存共鳴していく様子を描いた方が一人のみを描いたサクセスストーリーよりも、より効果的に観客に達成感の共感を促せるからである。(Ambrosetti, 2016)

人々がカルトにいとも簡単にハマってしまう大まかな構造の次に、いよいよ具体的にどのような手法を使って人々をマインドコントロールするのか、トランプ元大統領を例にとって見ていこう。

余談だが、ほとんどのアメリカの大学には数学や政治学と同じように『パブリック・スピーキング (Public Speaking)』という必須科目があり、人前で発言する時の影響力の高かめ方や、効果的なプレゼンテーションの方法を学ぶ授業がある。日本の大学でもこのような講義はあるのだろうか?是非これを読んでくださっている皆さんの中に、学生時代、心理学と触れ合う機会があったという方は、参考にしたいので是非コメントで教えて欲しい。




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