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『構え』について

いろんなところで何度も書いてきたことだが、とても大切なことなのでしつこく書く。
「構え」について。
日本のスポーツでは、構えは非常に重要視される対象となっており、例えば野球だとバッティングの構えや守備の構えは特に指導が入りやすいところになっています。
野球をやっていた私自身も、構えについてはコーチや先輩から何度も指導を受けたタイプ。私はそれがとても嫌だった。
その時に感じていた違和感。それは「やたら外見ばっかり言うやん」でした。
肘の角度、脚の角度。腰の角度。角度角度角度。
しかも「その構えでええんや」と言われた構えは、打ちにくい。

当時の主流は両脇を身体にしっかりくっつける形。脇を締めろというやつ。

打ちにくいというのは、当時は言葉にできなかったけれど、今の私なら「自分のタイミングで振りにいけない」と表現する。
こういう経験をした人は多いのではないでしょうか。
バッティングの構えに関しては、集約拡散構造というメカニズムを使うのが解決策だ。


ということで、今回の内容は構えの本質について。
構えが、「外見の追求」になっていないか、という問題提起です。

そもそも、構えってなんでしょうか?
なんのために構えるのでしょうか?

視点を統一するために、ここでは野球の内野手の構えを取り上げます。
これも少年野球などでものすごーく指導される部分。
ひどい時は構えの時の膝の角度まで言われちゃうことも。。
野球の内野手の構えは、なんのためにあるのでしょうか?なんのために内野手は構えるのでしょうか?



構えの目的

答えはシンプル。
構えた状態から、なるべく速く、なるべく早く、なるべく正確に、前後左右あらゆる方向に、スムーズに動けるため。これが構える目的です。
だって内野手は打球を捕球してアウトにするのがミッションだから。
アウトにできれば本来はどんな構えだって捕り方だっていいはず。
俗にいう「良い構え(フォーム含めて)」は、単に確率や再現性を高めるために有効な”可能性”があるというだけ。
だから「構えの形」「構えの目的」を満たすための手段の一つという位置付けが自然です。


あくまで、手段。


手段だから、目的を達せられるなら本来はどんな手段でも良いはず。
そういう視点から考えると、構えの形にこだわりすぎるのは本質から外れる。
構えの形という外見を整えることを要求しすぎると、本質を失う。

構えはつまり、動くための準備状態だから。
だから構えは動く本人が『探索』によって見つけるべき(探し続けるべき)代物であり、
身体の変化による変化を許容されるべき代物。

もちろん、ヒントとしての提案はコーチの重要な役割だが、”強制”に近い指導は完全にナンセンス。(コーチからの「こう構えてみろ」はコーチが思う以上に強制力を持つ)



美しい構えのまま構え続ける

本来、本人が最も動きやすいものを感覚的に見つけるもの。最良を探し続けるもの。
本来、変な構えだって動けていれば問題はない。
バッティングであれば、どんな構えであってもスイングを開始するタイミングで割れ』に入れていれば、良い構え。

タフィー・ローズ選手|2001年度成績  打率.327(550-180) 本塁打55 打点131


内野守備であれば、バッターがスイングするタイミングで『全方向に素早く動き出せる状態』になっていれば、まずは良い構え。逆にいうとそれを満たせるなら、突っ立っていてもOK。

逆に内野守備の構えの形を”しっかりと”教え込まれた子どもたちは、ボールが飛んでくるまでの間、その構えを継続しなければならないと考える。

だから、そういう”真面目な選手”は、固まったままの美しい構えのまま、構え続ける。真面目な選手ほど…。


構えは、手段。
直後に、素早く動くための状態を作るための手段。
そもそも、トップ選手たちは実際どういう構えを使っているのでしょうか。

屈指の守備力、守備範囲を誇るトップ選手たちには共通項があります。
多くの選手が、直前までは深く沈み込んで構えていない。
ピッチャーがモーションに入る時に構え始める。
腰を落としてはいない。(膝曲げ<股関節曲げ)
身体を揺らしてリラックスを優先。
バッターがスイングするタイミングに合わせてミニジャンプ・かつ着地で股関節を素早く曲げてその反動を利用して動き出す(モモ裏上部を使う)。
”構えの基本”とは明らかに異なる動きですね。

「いやいや、それはプロだからだ。基本がなっていない選手には基本を叩き込まないと。」「うちの選手は腰を落とした構えでしっかりアウトにできてます」

っていう反論はこれまでも何度もいただきましたが、そういう観点とは基本の位置付けが異なります。
その競技の基本は、『その競技のトップ選手が共通して使っている動き』を位置付けるべきです。
なぜならそれは最も効率が良い(力学的に合理的)動作だからです。
構えを固め、腰を落としてもアウトにできるそのプレーは、もっと高いレベルで通用するでしょうか。もっと速い打球、もっと速い走者をアウトにできるでしょうか。

プロで活躍する選手たちの共通動作は、そこが基準となって成立しています。
どんな形であっても、何が何でも打球を捕る、アウトにする。その前提で構えを構築できた選手が生き残るのがプロの世界です。
である以上、まずはそこで採用されている共通動作を『基本』にするのが合理的ではないでしょうか。

ちなみに、一流内野手のこういった構えの動きを『ボールの動きに反応する速度と範囲をできる限り高める』という抽象度まで持って行くと、他の競技でも同様の動きが読み取れます。
例えばテニスでのサーブを受ける時の構えやバスケの構え。ほぼほぼ同じメカニズムが使われています。



構えの必然性

そもそもの背景として日本文化ではあらゆる分野で構えが重視されてきました。
良い動きは、良い構えから生み出されると考えられてきました。
もちろんそれは間違いではないのですが(実際達人たちの構えは素晴らしい)、しかし本来それは動きやすさを極限まで追求した先に生まれるものであり、構えが先ではなく動きが先というのが本質。良い動きを追求していく中に『構えの必然性』が存在します。

当たり前だが構えは一般的に動きが小さくわかりやすいこともあったのか、いつのまにか構えの本質が薄まり、構え≒外見、という傾向を持つようになってしまいました。手段の目的化です。

そもそも構えの”形”を重視することは、力みを生む。形を保とうとする意識が働くからである。
構える時の指標は、決して外見ではなく、自分の感覚が主役。
良い構えができると、それだけで「いい感じに動けそうだ」という感覚が生まれます。
コーチは、その感覚を引き出せているかどうかに着目して”アドバイス”を。
選手は、自分の感覚に正直に。




全てはパフォーマンスアップのために。



追伸。
構え指導の有無に関わらず、構えの時点で力んでしまう選手も多いと思います。
リラックス!といくら言っても難しいケースも多いはずです。
そんな選手には、構えの前段階で脱力トレーニングの重要度が高いです。
手前味噌ですが、役に立てそうな本を書きましたのでご参照ください。

最強の身体能力/プロも実践する脱力スキルの鍛え方(かんき出版)



中野 崇 

著書最強の身体能力/プロが実践する脱力スキルの鍛え方(かんき出版)
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1980年生
たくさんのプロアスリートたちに身体操作を教えています
戦術動作コーチ/フィジカルコーチ/スポーツトレーナー/理学療法士
JARTA 代表
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う
イタリアAPFトレーナー協会講師
ブラインドサッカー日本代表戦術動作コーチ|2022-
ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチ|2017-2021
株式会社JARTA international 代表取締役

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