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キック動作のクセが強い問題

サッカー戦術動作アプローチでは、受講中の方に対して講義内容及び動作に関する質問を随時受け付けている。
多くの場合その内容は指導者または選手たちに共有すべきものとなるため、回答はこのnoteにて記載することとしている。

今回は以下のような質問をいただきました。

はじめまして。1月からサッカー戦術動作アプローチの講座を受講しております。現在高校のサッカー部でコーチをしており、#4の上半身操作構造に関して質問をさせていただけたらと思います。

自チームでクローズドスイングのトレーニングをはじめて1ヶ月ほど経つのですが、キック動作の際、腕を後ろに回すときに体ごと(胸と一緒に)後ろにいってしまう、または振った腕と反対側の肩が下がってしまう(左腕であれば右肩が下がる)結果、オープン気味になってしまう選手が非常に多いです。
肩甲骨の可動域が少ない、肩甲骨と胸郭の分離が起きていない、前鋸筋が使えていないなど、自分なりに仮説を立ててはいるのですが、解剖学的にどのようなことが言えるのか、またどのようなトレーニングをすれば解決できるのか、教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。




クローズドスイングとは

CSM(クローズドスイングモーション)の一部で、脚の動きと連動する腕・肩甲骨の動き方を指します。
サッカーでのキックやターンにおいて腕の動きは無意識下で生じますが、トップクラスのパワーやスピードを発揮している選手とそうでない選手は明らかに腕の動き、そして上半身の動きが異なります。
ハイパフォーマンスを発揮するトップクラスの選手たちには、無意識にも関わらず共通する上半身の動き方があります。
CSMは腕を後ろから前に回す動きを典型パターンとし、テイクバックで身体が伸びる動きと拮抗することでキックモーションのスピードを上げ、体幹上部での横ズレベクトルを生み出せることでターン時の反力の利用効率を上げる作用があります。
彼らがスピードを上げてキックする際の腕の回し方は、多くの日本人選手と”逆方向”です。キックモーションが遅かったり、ターンで踏ん張ってしまってキレが悪いかったりする選手にCSMのパターンは見られません。
CSMは、相手からのプレッシャーが速くなってきている現代サッカーにおいてハイパフォーマンスを発揮するための非常に重要な条件です。
どれだけパワーをつけても、どれだけスプリント練習をしても、”試合での”スピードが不十分だと感じている方は、CSMの習得を強くお勧めします。



以上を前提とし、ここからご質問にお答えします。
いただいたのは文字情報だけなので、実際の動きは推察するしかないため、ピンポイントの解決策とはなりません。その点に関してご了承の上、読み進めてください。



まずは結論から

結論から言うと、腕はクローズドスイングになっていても、それ以外の部分は『オープンスイングパターン』のままになっている可能性が高いです。

オープンスイング:
日本人選手が”普通”に蹴るときの腕の動き方。前から腕を回してトップに入る。
身体全体が大きく反る動きが助長されるため、大きな力が出る一方でクローズドスイングに比べて、決断からインパクトまでの時間が遅い。
クローズドスイングが当たり前となっているワールドクラスの選手たちであっても、フリーキックやコーナーキックなどではオープンスイングが採用されている。


「腕を回すときに体ごと後ろにいってしまう」という記載からも、そのことが推測されます。
テイクバックの際、上半身が反る(後方シフト)動きは、オープンスイングでのキック動作の典型パターンだからです。
*逆側の肩が下がる現象は、上半身の後傾に比べてそこまで重要ではないと思われます。実際の動作次第ではありますが、、



■考えられる3つの原因

なぜ、腕をクローズドに振っているにも関わらず、オープンスイングパターンのキック動作になるのか。
チェックしておくべきポイントは以下の3つ。

原因1:腕と脚が繋がってない

せっかく腕をクローズドに振っていても、腕と肩甲骨から背骨、そして下半身への力の伝達が不十分だとCSMにはなりません。
特に腕と肩甲骨の動きのつながりは重点的にチェックし、ボールを使わずにキックフェイントの練習を。


原因2:踏み込み時に腰が落ちる

何となくですが、この原因が大きいような気がしています。
クローズドスイングではボールに上半身が被さるようなやや前傾姿勢のままテイクバックが起こります。
腕をクローズドに振ることでこの動きを引き出しています。
しかし、そもそもの踏み込み時に腰が落ちてしまうような下半身の動きがすでにあると、いくら腕で誘導しようにも下半身からの”引っ張りに”抗えません。
踏み込む瞬間にモモ裏上部が働くようなステップ幅を模索するところからやり直す必要があるかもしれません。


原因3:目線のクセ

キック動作中、オープンスイングとクローズドスイングではボールへの目線が異なります。
前者では大袈裟にいうとボールを下から見る感覚、後者はボールを上から見る感覚です。
前者が当たり前になっている場合、上から見る感覚はイメージしにくいかもしれませんが、、。
このような目線のクセは、全身の動きを形成します。
いくらクローズドで振っても、いくら踏み込みを変えても、目線のクセが変わらなければCSMにならないケースもあります。
目線のクセは原因2の踏み込み脚の問題とも深く関係し合いますので、両者並行してアプローチする必要があると思われます。





これらに共通して言えることは、普段の動きのパターン(ここでは蹴り方のクセ)が、新たなパターン(CSM)よりも強いということ。
特にボールを目の前にしてしまうと、パターンはかなり強く出る傾向にあるので、その場合はタスクを単純化する必要性があります。

サッカーはそもそも強烈な外的集中(ボールの位置や相手の位置などの情報)状態が要求されるため、腕の振り方を”意識”することは選手にとって不自然なことです。

しかしそれだと動きの改善は起こり得ないため、少しタスクをシンプルにすることで自分の動きを意識できる割合を増やす工夫が必要です。
例えば動きをゆっくりにする、またはボールを使わない、などです。

その際、実際の試合で知覚する情報と乖離しないようにすることには注意してください。
つまり”フリーキック”のような設定ではなく、移動している相手にパス、みたいな流動的な外的情報から動作(ここでは蹴る方向)を決定するという構図は崩さないということです。
分解ではなく単純化です。

CSMの獲得は、運動学習の一つなので、エコロジカルアプローチなどもたくさんヒントを得られると思います。
ぜひ参考にしてみてください。



今回は以上となります。
すでに様々な面からアプローチされているとは思いますが、その一助になれば幸いです。


サッカー戦術動作アプローチ

https://jarta.jp/soccer-approach/https://jarta.jp/soccer-approach/
チームとして実現すべき戦術を実行するための動作構造を『戦術動作』と名づけ、戦術動作の理解を通して戦術実行レベルの向上につなげるための学習プログラム。トレーニングの方法はほぼ出てきません。大半の人が方法を求める風潮の中、どれだけこの意味が理解されるのか分かりませんが。。
指導者は、選手を守るために、選手の努力を守るために、”専門家”以上にあなたの戦術における身体の動きの構造に詳しくなる決意をしなければならない。


全てはパフォーマンスアップのために。



中野 崇 

著書『脱力スキル』:https://amzn.asia/d/34TPWro
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