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UXリサーチャーとUXデザイナーの協業

この記事では、三菱UFJフィナンシャル・グループの戦略子会社であるJapan Digital Design(JDD)において、体験デザインを担うExperience Design Team(デザインチーム)のUXリサーチ活動の一部を紹介します。

デザインチームにはUXリサーチを専任とするリサーチャーがおり、UXデザイナーと共同でプロジェクトを進めています。今回は、UXリサーチ活動におけるUXリサーチャーとUXデザイナーの協業を切り口に事例を紹介していきたいと思います。

協業のメリット

UXリサーチャーとUXデザイナーが協業することの大きなメリットの一つは、業務の分担により案件を効率的に進めることが可能になることです。また、早い段階でリサーチ結果の活用方法を確認できるため精度の高いリサーチ計画をたてられたり、リサーチを進めながら体験設計の検討を開始できるなど、短期間で質の高いリサーチとそれに基づく体験設計を進めることにつながります。

そして、二つ目のメリットとしては提案に説得力を与えられることです。リサーチに基づく提案の根拠を明らかにすることで、ブレーキを踏んでUXデザイナーの提案を抑えることもありますが、それだけでなく提案がユーザーの考えに基づいているはずだという自信を与えるアクセルの役割を担うこともあります。このようにアイデアの根拠をしっかりと意識することで提案物の質が高まるとともに、対外的な信頼につながると考えています。

UXリサーチ事例

ここからは、実際にJDDで取り組んだ事例として、サービス検討のためのオンラインデプスインタビュー8件(4件ずつ2つのユーザーセグメント)を約6週間で実施した事例を紹介していきます。デプスインタビューとはサービスの利用者や今後利用して欲しい対象者に1対1で一人の対象者の話を深く聞く手法になります。

この事例では、事前にサービスの方向性が想定された状態で依頼がありました。そこで、想定サービスをもとにサービスコンセプトの定義、基本機能、コンセプトUIの提案を行いました。想定中のサービスを体験ベースで仮説を立て、リサーチを通じてユーザーの価値観やサービスに求められる機能を探り、リサーチ結果に基づきユーザーに望ましいサービスを定義するというプロセスで業務を行いました。
以下にこの事例における業務分担を載せています。これらの作業をUXリサーチャーとUXデザイナーとが協業することで短期間で効率的にプロジェクトを実施することができました。

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UXリサーチの進め方

ここからは、どのようにリサーチを進めたかを簡単に紹介していきます。

1. 計画(Week0 - Week1)

リサーチ計画を立てる段階で、体験デザインに必要な情報をデザインチーム内で相談します。調査の目的を決めることは当然ですが、この調査結果をどのように活用したいのか、どんなプロセスにつながるのかを共有します。

これらを決めておくことで、ブレないリサーチを行うことができますし、UXデザイナーとしても「調査結果は分かったが実際に活用する段階で使えない」ものになることを防げます。UXリサーチャーが客観的にUXデザイナーの意見を整理することで調査計画を精緻化したり、新たな視点を得られる効果もあります。

このタイミングで外部の調査会社とも相談しながら業務委託の範囲や内容、実施の可否についても打診しています。調査会社にはインタビュー対象者の募集をお願いしました。

2. 準備(Week2)

調査計画ができた段階で、社内で比較的条件に当てはまるユーザーに簡易的に話を聞くプレインタビューを実施しました。プレインタビューを通じてユーザー像の解像度が上がりますので実際のインタビューで聞くべきかの参考になり、デザイナーにとってはどんな体験を提供するべきかを早い段階で検討開始できます。

また、準備として目的に応じたインタビュー対象者を選定することが必要になります。対象者を絞り込むために必要な質問事項を考え回答者の中から最適な対象者を選定していきます。

なお、JDDではデプスインタビューを行う際に、半構造化インタビューと言って事前に質問リストを作成し、対象者の回答に応じて深堀りを行うインタビュー形式で行うことが多いです。
そのため、インタビューで明らかにしたい内容を記載した質問リストを作成します。また、仮説確認が必要な場合には、UXデザイナーが仮説の検討と合わせてインタビューで使用するコンセプトシートを作成するなど作業分担をしています。

質問リストの一例を掲載していますので実際のインタビュー実施の参考にしていただければと思います。

3. インタビューの実施(Week3-4)

UXリサーチャーとUXデザイナーがペアとなって参加し、インタビュアーとメモの役割を分担します。インタビューの実施は、インタビュアー1人では情報の抜け漏れが発生してしまうので、2人以上での参加が必要だと考えています。オンラインではチームメンバーの参加や録画が比較的気軽に行えますので積極的にデザインチーム外のメンバーも巻き込むと良いと思います。

4. 振り返りと整理(Week5)

インタビュー後にすぐに参加者による振り返りを行います。基本的に聞いた内容はすぐに忘れてしまうので記憶が新鮮なうちにミーティングを行い調査による発見を共有し、お互いの理解のすり合わせを行っています。

インタビューで明らかになった対象者の行動や価値観などの発見やコンセプトに対する評価をチームで共有します。その後、ワークショップの形式でインタビュー結果を見ながらメンバーが意見を出し合うことで調査により明らかになったことと、調査結果をどのようにサービスに反映していくかについて話し合います。

なお、この後のステップのレポート作成は大切ですがそれ以上にレポートを作成する前の段階まででしっかりと調査結果をUXリサーチャーとUXデザイナーが共有することが大切です。そうしておけばレポートの完成を待つことなくサービス検討に移ることができます。

5.  報告と提案(Week6)

これまでのプロセスをまとめてレポートの作成をします。全体を俯瞰した大きな発見と、対象者毎の詳細なレポートを整理しメンバーで共有します。基本的には当初の目的と対応する形で結果をまとめます。また、サービス提案に繋がる情報を分かりやすく整理することでUXデザイナーの提案に対しての裏付けにも繋がります。

まとめ

今回は、JDDのUXリサーチの取り組みについてUXリサーチャーとUXデザイナーの協業を切り口に具体的なプロセスや利点をご紹介しました。お互いの専門性による相乗効果を生みだし、ユーザーについての理解を深めるとともに効率的なプロジェクト実施に繋がっていると思います。今回の記事が何かしら発見につながり皆様のリサーチ活動の役に立てば幸いです。

オープンデザインの取り組み

最後に、JDDでは企業カルチャーとして「オープンである」ことを大事にしており、デザインチームでは「UXデザインのテンプレート」と「バンキングアプリのデザインアセット」を初めてとしたFigmaファイルの公開をしております。

詳しくは以下のページで紹介していますのでぜひご覧ください。

https://japan-d2.com/division-introduction/experience-design/open-design



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Senior Experience Designer
Yoshiki Kuno(久野 芳揮)