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環境エンジニアという仕事

日本ベネックスは創業から65年が経ち、これから「創業100年」を目指す中、現在本社社屋・工場の大規模改修を計画しています。そのリニューアルプロジェクトを担当していただくのが、一級建築士の佐々木翔さん(株式会社INTERMEDIA)そして、環境エンジニアの蒔田智則さん(henrik・innovation)。

6月某日、INTERMEDIA社が運営する複合施設「水脈 mio」(長崎県島原市)にて、佐々木さんと蒔田さんのトークイベントが開催されました。

わたしたちの新たな社屋をつくるパートナーである2人のトークイベントの様子をほんの一部お届けします。まずはこんなお話から。

プロフィール↓

佐々木翔 (ささき・しょう)
1984年長崎県島原市生まれ。九州大学大学院卒業後、東京の建築設計事務所「SUEP.」に就職。5年間の実務経験を経た後、2015年に30歳で島原に帰郷。父が設立していた建築設計事務所「INTERMEDIA」に合流し、新築の公共施設から民間の小さな改修まで県内外の様々な建築・空間設計。2022年からは同社代表取締役。同年、島原市での新たな地域拠点交流施設「水脈 mio」の代表取締役に就任。

蒔田智則 (まきた・とものり)
エネルギーデザインの視点からさまざまな建築プロジェクトに携わる環境設備エンジニア・空気のエンジニア。ロンドンに渡英後、歴史的建築物の保存や改修について学ぶ。その後、デンマークに移住。デンマーク工科大学大学院で建築工学修士号修了。2017年より現在の職場であるhenrik-innovationに加わる。デンマークを中心に多くの建築プロジェクトに携わる。



1.幸せな国のルーツは「いい空気」!?

一級建築士の佐々木翔さん (株式会社INTERMEDIA代表取締役)


佐々木:
今日は「空気のエンジニア」というトークテーマで、デンマーク・コペンハーゲンから蒔田智則 (まきたとものり) さんに来ていただいてます。

蒔田さんと出会ったのは、今から1年前ぐらいですよね?


環境エンジニアの蒔田智則さん (henrik・innovation)


蒔田:

そうですね。

佐々木:
出会いは、鹿児島県の阿久根市にある住宅の改修プロジェクトでした。

これをきっかけに蒔田さんとはいくつか一緒に仕事をしていて、今は諫早市にある日本ベネックスという会社の社屋と工場の改修プロジェクトをやっています。

敷地と建物が大きいので、工場の熱環境やオフィスの環境をよりよく変えるためには、いろんな視点で改修しないといけません。「広大な空間の環境」という視点で見たときに、正直どう向き合えばいいかわからなくて、蒔田さんにお声がけしました。

日本ベネックスの改修イメージパース


蒔田:
はい。

佐々木:
意匠性や「こういう空間がいいんじゃないか」という提案をぼくらがして、熱環境、光、風、空調という環境設備的な視点のテクニカルな部分は蒔田さんに担当していただきます。

今回は、蒔田さんが普段どういう仕事をしているのか、空気のエンジニアとは何なのか、お聞きできる貴重な機会です。それでは蒔田さんよろしくお願いします!

蒔田:
まず皆さんに質問です。 人は1日に1kgの食べ物を食べ、2ℓの水を飲むといわれています。では、1日にどれぐらいの量の空気を吸うかご存知でしょうか?

会場:
‥‥。

蒔田:
次の質問です。人は1日のうち、完全な屋外に何時間いると思いますか?

会場:
‥‥。

蒔田:
実は、1日2時間ぐらいしか屋外にいないといわれています。1日の大半は何かしらの屋内空間で過ごし、そこの空気を約18㎏吸っています。

それから、こんなデータもあります。

いい空気のところで仕事をすると生産効率が約10パーセント程度上がると言われています。風邪もひきにくくなり、病欠が減ります。力がみなぎって仕事ができるので、 夜もよく眠れるようになるといわれています。

いい空気を吸って仕事をすれば生産効率が上がり、達成感が生まれ、もっと仕事をがんばってみようと思う。働く人たちがハッピーになります。空気のことを考えるのは、もしかしたら人がハッピーになるために、大事なことなのかもしれません。

デンマークは世界で有数の「幸せな国」と言われていますが、 そのルーツは、いい空気にあるのかもしれません。



2.「空気のエンジニア」という仕事

蒔田:
ぼくの仕事を紹介します。こちらの写真を見てください。

高齢者の集合住宅です。おじいさん、おばあさんたちは気持ちよさそうですよね。しかし、想像してください。もしここが寒かったら?すごく臭かったらどうします?

わたしたち環境エンジニアは、この写真を見ただけでも「結露しないか」「木にカビが生えないか」「植物がいっぱいあるけど、匂いは大丈夫かな」「床は滑らないかな」などいろいろなことを考えるわけです。

環境エンジニアは「光・温度・空気」3つをテーマにして仕事をしています。 光といえば照明ですが、太陽の光を取り込むこともできる。

温度は太陽の熱、コンクリートや石の蓄熱性だけでなく、コンピューターや人から発せられる熱も利用して環境を整えます。

また、窓を開ければ換気ができ、窓の高さを変えれば重力差が生まれ、自然換気を促すことができる。

環境エンジニアの3つのアプローチ


普通、建物を建てるとき図にある「機械換気(ファン)」「冷暖房」「照明」という設備から考えますが、わたしたちは真逆で「可能な限り自然の力を使い、機械設備を最小限にしていく」ことをコンセプトとしています。

どんなふうに仕事をするかというと、プロジェクトの最初から建築家やクライアントと一緒になって環境を考えています。

それから既存の建物やイメージ上の建物をデジタルで再現する「デジタルツイン」をつくり、その土地の気候条件を加えることで、実際に建てていなくても、365日 8760時間、建物内外では何が起きているのか、それによってどういう環境になっているのかを解析します。

最終的な解析結果をもとに、快適で最高の空気をつくっています。

ただしデンマークの成功例をそのまま日本に導入してもうまくいきません。日本には、日本の気候がありますし、もっというと九州には九州の特徴があります。その土地には、その土地に合ったサステナビリティがあると思っています。



3.サステナビリティの感覚の違い

蒔田:
デンマークといえば、クリスマスに雪が降って、サンタさんが来て、ホットワイン飲んで、みんなで「ヒュッゲ*!(Hygge)」とイメージされるかもしれません。

*ヒュッゲ(Hygge)とは
デンマーク語で「居心地がいい空間」や「楽しい時間」のことを指す。ヒュゲリ(Hyggelig)は、その形容詞形である。単なる一単語にとどまらず、デンマーク人の大切な価値観のひとつとなっている。

https://ideasforgood.jp/glossary/hygge/


実際、デンマークは12月に雪なんて降りません。雨ばっかり。一方「北欧の夏」というと、快適な軽井沢のようなイメージといわれているけど、それは昔の話です。 もともと寒い国だから冷房はなくて、夏になると扇風機が飛ぶように売れる。最近は1000年に1度といわれる大雨が10年間に3回も降っています。さすがに「これはおかしいんじゃないか?」と思ったんです。

あるデンマークの設計事務所が出したデータによると、これからの10年間、全世界でいま排出している二酸化炭素の約96%を削減しないと、パリ協定の目標である平均気温上昇1.5℃は達成できないといわれています。

96%ですよ?

ぼくたちものづくりに関わる人たちだけの問題ではなく、みんなで協力し合わないと解決できない問題です。

日本でもSDG’sが、流行っていますよね。SDG’sには17の目標があって、わたしが一番大事だと思うのは、17番目の「パートナーシップで目標を達成しよう」ということ。いろんな人とたちとコラボレーションして問題を解決していかないといけません。

最後にもう1つだけ皆さんに質問したいのですが、なぜ日本のサステナビリティはなかなか浸透しないんですか?

建築基準法において、サステナビリティに関するルールがないから?お金がないから?それとも「サステナビリティってそんなに重要なのかな?そんなに気を使わなくていいんじゃない?」と思っている社会が原因ですか?

日本ではサステナビリティというと「自分が持っているものを捧げて、痛み分けしなきゃいけない」「痛みを伴って得るもんだ」と考えがちです。

デンマークにある「アマ―バッケ (Amager Bakke) 」ってご存知ですか?ゴミ焼却処理場の上が、人工スキー場になっている有名な施設です。技術が発展することでゴミ焼却場なのに、ゴミの匂いも出ないし、公害も少ない。そこがスキー場になることで、ゴミ処理場でみんながスキーを楽しむことができる。

つまり、サステナビリティを加えることによって、より建物が楽しくなるという感覚があります。


佐々木:
なるほど。身近にそういうものに触れる機会があるんですね。

蒔田:
そうです。あとコペンハーゲンの運河は昔、すごい汚かったんです。それを20年かけて綺麗にしました。綺麗にしたことで、人が泳げるようになって、カヤックやいろんなウォーターアクティビティをする人が増えました。

そうすることで、健康になる人も増え、魚や貝などの海洋資源も生き返りました。サステナビリティは、みんな目に見えてもわかるものです。

佐々木:
どれぐらい前からそういう活動が始まったんですか?

蒔田:
ここ20年ぐらいですね。

佐々木:
20年取り組んできた結果、一般の方々もようやく身近に感じていると。これはデンマークだけではなく、ヨーロッパ全体でそういうことが起きているんですか?

蒔田:
うーん、やっぱり北欧は特に意識が高いと思います。雪が降らなくなったり、目に見えて変化がありましたので。

最近、デンマークではますますサステナビリティに厳しくなっていて、これからは「サステナビリティ」という言葉を使わずに建物なんて建てられないくらい。

佐々木:
なるほど。

蒔田:
国もクライアントも、投資家もサステナビリティがない建物には、お金を出しません。そういうものは未来がないから。

佐々木:
ということは、国や自治体のルールがあるんですか?

蒔田:
非常に厳しいルールがあります。例えば、環境負荷を算出して文書にしなければならないと法律上のルールとして制定しています。

この法律も、2年ごとに改正されるといわれていています。2年後にはぼくたちが今やってるものも建てられなくなるかもしれないし、さらにその2年後は、もっと建てられなくなるかもしれません。

どうやって二酸化炭素を削減するか常にテストとエラーを繰り返しながらやっていくしかありません。

佐々木:
その計算書を出さないと、建物は着工できないんですか?

蒔田:
もう建物は全部やらなきゃいけないですね。1000平米以上のものは、国に提出しなければいけません。

佐々木:
日本でも、省エネ法がだんだん厳しくなってきて、特に住宅は厳しくなっていくのが、少し先の未来で決まっています。

ですが、一人ひとりの意識まで変えていくのは、まだまだ時間がかかるのかなという気がします。 


おわりに


世界共通の課題である「環境問題」が深刻化する最中、わたしたちはこれからの社屋の在り方、働く環境をどうしていくべきなのか、深く考えさせられました。これから佐々木さん、蒔田さんと共に「いい空気」が流れる新しい社屋をつくりあげていくことを楽しみにしています。

(お読みいただきありがとうございました!)




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