見出し画像

30年日本史00271【平安前期】在原業平と恬子内親王

 女性スキャンダルによって都を離れ東国に下った在原業平でしたが、ちっとも懲りていないらしく、その旅先で再び、手を出してはいけない女性に手を出してしまいます。前回は藤原家の箱入り娘でしたが、今回はそれとは比較にならないレベルの禁忌です。業平の恋の相手は、斎宮(さいくう)という神に仕える女性だったのです。
 そもそも、業平の東国行きの物語が「伊勢物語」というタイトルで知られているのは、伊勢神宮の斎宮との恋が重要エピソードとして描かれているためです。
 「斎宮」とは、大来皇女(00199回参照)のところで名前だけ出したものの、詳しく説明したことがありませんでしたね。斎宮とは、皇族女性の中から選ばれ、伊勢神宮において神に仕える者で、斎宮として務めている間はもちろん、生涯に渡って独身を強いられることも珍しくありませんでした。
 その斎宮を務める恬子内親王(やすこないしんのう:848?~913)と業平の恋について、伊勢物語第69段にこんな記述があります。
 恬子のもとに、母親から
「これからやって来る使者を丁重にもてなすように」
との手紙が届いたため、恬子は母に言われたとおり業平を接待します。
 後日、業平は恬子に「逢いたい」と誘いました。恬子は断るものの、強引な業平に惹かれ、夜中に人目を忍んで業平の寝所までやって来ます。丑三つ時まで一緒にいたものの、思いを遂げられないまま恬子は帰ってしまいます。業平が悲しんでいると、恬子から
「君や来し 我や行きけむ おもほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか」
(昨夜はあなたがいらっしゃったのでしょうか、それとも私が行ったのでしょうか。あなたとの逢瀬は夢だったのでしょうか、それとも現実だったのでしょうか)
という歌が送られて来たので、業平は嘆いて
「かきくらす 心の闇に まどひにき 夢うつつとは こよひさだめよ」
(私もあなたへの想いが募って闇に迷っていました。今宵こそ、夢か現実か定めましょう)
と返歌しました。
 その後、業平はどうにかして恬子と再び会いたいと願うものの、伊勢国司たちから接待を受けて一晩中宴がなされてしまったため、遂に逢瀬は叶わなかったといいます。
 ただ、伊勢物語の記載とは別に、
「恬子は業平との一夜の契りにより妊娠した。前代未聞の不祥事となったため、伊勢神宮は産まれた子を高階家に養子に出した」
との伝説も広く流布されました。どこまで本当の話か分かりませんが、在原業平がそれだけプレイボーイだったことは真実なのでしょう。

この記事が参加している募集

日本史がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?