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激論昭和史005 金本位制は火の使用と並ぶ人類の叡智? ~浜口内閣への助走~
浜口内閣の解説を書き始めて気づいたのですが・・・。
「金解禁」と「統帥権干犯」の説明、難しすぎないか???
めちゃくちゃいっぱい喋らないと、理解してもらえないのよ。書いてるうちにどんどんページ数が膨らんでいく・・・。
というわけで、「金解禁」だけを独立したチャプターとして作ってみました。自分としては他の教材よりも分かりやすく書いたつもりですが、果たして上手く伝わるかどうか・・・。
助走のための時間
保守美「今日から浜口内閣・・・と言いたいところですが、浜口内閣の政策『金解禁』を理解するには、かなりの事前知識が必要になって来ます」
リベ太「そうだね。浜口内閣の話を始める前に、その助走のための時間をとって、金解禁をじっくり説明すると良いかもしれないね」
史保理「金解禁って、キーワードとしては覚えたけど、結局理解できなかったんです。一体どういうものなんですか?」
リベ太「金解禁というのは、金本位制(きんほんいせい)に復帰することを指すんだ。まずは、貨幣の流通量について説明するところから始めると良いんじゃないかな」
貨幣の流通量
保守美「まず、貨幣というのは誰が発行しているか分かりますか?」
史保理「日本銀行ですよね」
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リベ太「そうだね。その貨幣の発行について、日本銀行が大量の貨幣を発行して流通させたら何が起こる?」
史保理「えっと、一円の価値が下がって、物の値段が上がる。つまりインフレが起こります」
リベ太「貨幣の発行量を減らし過ぎたらどうなる?」
史保理「デフレが起こります」
リベ太「うんうん。それだけ分かってれば大丈夫。つまり日本銀行がどのくらいの量のお金を刷ってどれだけ流通させるかが、物価を調整する上ですごく重要なんだ」
保守美「それでは、日本銀行はその重要な貨幣流通量をどうやって決めているかご存じですか?」
史保理「え? 全然分からない・・・」
リベ太「刷るべき貨幣の量をどう決めるかについては、戦前と戦後でやり方が異なるんだ。とりあえずここでは、戦前のやり方について説明しようか」
保守美「分かりました。金本位制の説明ですね」
史保理「お願いします!」
金本位制とは
保守美「金本位制とは、貨幣を銀行に持ち込むと、それに相当する量の金(きん)に交換してもらえるというシステムです。具体的には、1円で純金1.5グラムと交換できると定められていました」
史保理「金(きん)って、あの金属の金ですか?」
右比古「そう。元素記号はAuだ」
保守美「この仕組みを作っておくことは、すなわち2つのことを意味します。1つは、流通する貨幣の量を、国内の金(きん)の保有量に等しくすることです」
右比古「貨幣を持ってる全員が一気に銀行にやって来て、『全部金(きん)に変えてくれ』とか言われても大丈夫なようにな」
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左代子「そんなこと起こらないでしょうけどね」
保守美「もう1つは、貨幣同士の交換比率が固定されることを意味します」
史保理「え? 何でですか?」
右比古「日本では1円=純金1.5グラムだ。アメリカも金本位制を取っていて、1ドル=純金3グラムだ。ということは、1ドル=2円ってことになるだろ」
史保理「あ、確かにレートが固定されるわけですね」
金本位制の利点
史保理「仕組みは分かったんですけど、これによってどんなメリットがあるんですか?」
保守美「国際収支を自動的に調整してくれるというメリットがあるんです」
史保理「国際収支?」
リベ太「外国との貿易の中で、輸入と輸出のバランスというのはすごく大事なんだ。輸入が増えすぎてしまうと、輸出品の生産で儲けている業界は仕事がなくなってしまうし、逆に輸出が増えすぎてしまうと、輸入品の販売で儲けている業界は仕事がなくなってしまうよね」
史保理「輸入も輸出も、いい感じのバランスを保ち続けなきゃいけないんですね」
保守美「そうです。そして当時の貿易は、金(きん)を使って決済をしていたんです。輸入業者は、物を輸入したらその代金を金(きん)で外国業者に支払います。一方、輸出業者は、物を輸出したらその代金を金(きん)で外国業者からもらいます」
史保理「なるほど。外国のドル紙幣とかをもらっても、自分の国では使えないですし、それが一番便利ですよね」
リベ太「さて、ここからは頭をよく使って考えてほしい。まず、輸入が輸出を上回ったら何が起こる?」
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史保理「えっと・・・日本が外国から物を買い過ぎてるっていう状況ですよね。金(きん)を使って決済するわけだから、日本から金(きん)が減っていきますよね」
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リベ太「ということは、貨幣の流通量は?」
史保理「金(きん)の保有量に合わせなきゃいけないから、日本の貨幣の流通量は減ります」
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リベ太「ということは、物価は?」
史保理「デフレが起こる。つまり物価は下がります」
リベ太「物価が下がると、何が起こるだろうか? 輸出業者にはどんな影響が出る?」
史保理「え? えっと・・・日本から輸出しようとしていた商品の値段が下がるんですよね。あ、外国の人から見ても、値段が下がったら買いやすいから、よく売れるようになる」
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リベ太「つまり、輸出が増えるわけだね」
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保守美「つまり輸入が輸出を上回ると、自動的に輸出が増えるよう調整力が働いて、バランスが取れるようになるんです」
史保理「確かに、バランスが取れましたね!」
リベ太「じゃあ逆も考えてみようか。輸出が輸入を上回ると何が起こる?」
史保理「えっと・・・日本が物を売り過ぎっていう状況ですよね。金(きん)で決済をするから、日本に金(きん)が大量に入ってきます」
リベ太「すると、物価はどうなる?」
史保理「貨幣を大量に刷って流通させることになるから、インフレが起こります。物価が高くなるから、日本の商品が外国で売れなくなる。輸出が減ります」
リベ太「これもバランスが取れたね」
史保理「なるほど! 金本位制って、国際収支のバランスが保たれて、どの国も大幅な赤字に陥らないようにする効果があるんですね」
リベ太「そういうこと! 当時、『金本位制は火の使用と並ぶ人類の叡智だ』などといわれていたんだよ」
金本位制からの離脱
保守美「日本は世界各国にならって、明治4年に『新貨条例』という法律を定めて、金本位制に参入しました」
左代子「1871年ね」
保守美「しかし、第一次世界大戦が勃発し、世界各国とも金本位制から離脱せざるを得なくなりました。日本も大正3年に離脱したんです」
左代子「1914年ね」
史保理「離脱ってどういうことですか?」
リベ太「各国とも兵器を調達するために、大量の金(きん)が必要になったんだ。金(きん)を民間人が輸出することを禁止して、できるだけ多くの金(きん)を政府が保有することになったんだ」
史保理「え? でも貿易の際には、金(きん)を使って決済してたんですよね。金を外国の人に渡しちゃいけないことになったら、どうやって決済するんですか?」
保守美「『日本円を信頼してください』とお願いして日本円で決済したり、相手国の通貨であるドルで決済したり、いろいろだったようです」
リベ太「そして、金本位制からの離脱が生む大きな問題は、貨幣発行量を制御しようとしなくなることだ。事実、世界各国は保有する金(きん)の量を超えて貨幣を発行してしまった。世界的なインフレが起こったんだ」
保守美「それに、為替が変動するようになりました。日本円とドルの相場は、金本位制を取っていたときは1ドル2円で固定されていたのに、その時々の状況で次々と変化するようになりました」
史保理「不安定になったんですね」
右比古「まあ、現代も変動相場制だから、相場が変わることがさほど不安だとは感じないけどな」
リベ太「当時の経営者たちにとっては、常に為替相場を見ながら行動しなきゃいけないから、何かと不便だという気持ちがあったと思うよ」
金本位制への復帰
保守美「そして、第一次世界大戦が終わって一息ついた頃、世界各国は金本位制へと復帰していきました」
左代子「非常事態が去ったわけだから、非常手段をやめるのは当然よね」
リベ太「アメリカが復帰したのが1919年。その翌年にはイギリス、オランダが復帰したよ」
保守美「1922年にゼノアで開かれた国際会議では、世界各国とも早期に金本位制に復帰するよう勧告する決議がなされました」
右比古「日本も早くに復帰したかったんだが、関東大震災のせいで復帰が遠のいちまった」
リベ太「そうこうしてるうちに、1928年のフランスが復帰して、主要国で復帰できていないのは日本とスペインだけになってしまったんだ」
左代子「1929年に開かれたパリの国際会議では、『日本は通貨不安定国だ』と批判されたのよ。まあ、貨幣を好きなだけ発行できちゃうわけだから、そう言われても仕方ないわよね」
右比古「金本位制で貨幣発行量が縛られてないというだけで通貨不安定国だとみなされちまったら、現代は全ての国が通貨不安定国だぜ」
リベ太「それは後知恵だよ。当時は世界各国とも金本位制が当然という空気だったんだから、復帰が遅れた日本にそういう声が向けられるのは仕方ないんじゃないかな」
保守美「そういうわけで、浜口首相は金本位制への復帰を自分の内閣でやり遂げたいと考えたわけです」
リベ太「金本位制への復帰というのは、つまり金(きん)を民間人が輸出することを解禁するわけだから、『金解禁』と呼ぶわけだ」
史保理「それが浜口内閣の最大の政治目標だったんですね」
積極財政と緊縮財政
リベ太「でも、金解禁というのは国民の支持をなかなか得られない政策だ。だからこそ、誰も手をつけてこなかった」
史保理「どうしてですか?」
リベ太「というのも、日本が金本位制から離脱していた時期、高橋是清が大蔵大臣として積極財政を推進し、日本円をかなり増発して来たんだ」
史保理「積極財政?」
保守美「積極財政というのは、できるだけ政府の予算額を増やし、多くのお金が市場に出回るように仕向けることです。景気の浮揚が期待できます。最近でいうと、小渕首相や安倍首相は積極財政を取って来ました」
右比古「いわゆるアベノミクスな」
史保理「いいことづくめじゃないですか」
左代子「それがそうでもないのよ。短期的にはお金が出回って景気が上がるかもしれないけど、長期的に見るとまずいわ。経済規模に不釣り合いな量の貨幣が出回ると、日本円の価値がだんだん下がっていくから、日本円が信用されなくなっていくわけ。どこかの段階で日本への投資が打ち切られて、タガが外れたように一気に株価が下がって、不況に陥ってしまうわけ。バブル崩壊もそうだったでしょ」
リベ太「そういう状況を防ぐには、『市場に出回るお金がちょっと多いかな』と思ったところで、ブレーキを踏まなきゃいけないんだ。つまり政府の予算額を減らすわけだね。これを緊縮財政という」
左代子「でも、国民は目の前の利益についつい目が向いてしまいがちで、ブレーキなんか求めてないのよ。短期的に景気が上がる政策を求めてるの。だから後先考えずにお金をばらまく政治家が多いのよ」
史保理「なるほど。アクセルを踏めば踏むほど国民は喜ぶけど、どこかでブレーキを踏まないといけないわけですね。そして高橋是清はアクセルを踏んできた人なんですね」
リベ太「そう。そして、金本位制というのは、アクセルとブレーキの踏み方を自動的に決めてくれる自動運転みたいなソリューションなんだ。自動運転をやっている限り、アクセルの踏み過ぎによる事故は避けられるってわけだ」
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右比古「いやいや、金はいくらバラまいても問題ねえんだ。ブレーキなんて要らねえんだよ」
左代子「そんなわけないでしょ! 財政が破綻しちゃうわ」
保守美「いくらバラまいても良い、とまでは言いませんが、それにしても財務省はブレーキを踏み過ぎですよ」
リベ太「こんなふうに、積極財政一辺倒で問題ないという主張もあれば、『いやいや、適度なところで緊縮しないといけない』という主張もあって難しいんだ。ただ、今は浜口内閣を解説するための準備をしているところだから、その議論は一旦置いておこう」
保守美「要するに、緊縮財政は国民の支持を得られにくいんです。そして、金解禁のためには緊縮財政を取らなきゃいけないという問題がありました」
金解禁のためには緊縮が必要
史保理「どうして緊縮が必要なんですか?」
リベ太「これまで高橋蔵相がどんどん貨幣を発行して、その流通量を増やして来た。それによって一円の価値が下がってしまったんだ。本来の法定レートでは1ドル2円だったのが、実際の相場では1ドル2円15銭になってしまっていた」
保守美「実際の相場が異なる状態のままで金を解禁してしまうと、何が起こるか分かりますか?」
史保理「えっと・・・」
リベ太「例えば100円の商品を輸出しようとするとどうなる? 電卓を使ってごらん」
史保理「100円の商品ですよね。実際の相場で計算すると、46.46ドルになりますね。一方、法定レートに従って計算すると、49.85ドルです」
保守美「つまり、46.46ドルの値打ちしかない商品なのに、法定レートにしたがって49.85ドルで売られてしまうわけです」
史保理「それでは高くて売れないですよね」
保守美「そう、日本の輸出業者にとって大打撃です」
史保理「じゃあ、どうすればいいんでしょう?」
リベ太「実際の相場を、法定レートに近づけてから金解禁を行わなきゃいけない。そのためには、人工的にデフレを起こして、一円の価値を上げていかなきゃいけないんだ」
史保理「つまり、貨幣流通量を減らそうというわけですか」
保守美「そうです。それはブレーキを踏み続ける政策ですから、一時的には不景気を生み出すことを意味します」
史保理「そんな・・・金本位制に戻すために、そこまでしなきゃいけないんですか?」
リベ太「これまでアクセルを踏み続けて来たツケを、ここで一気に解消しようというわけなんだ。そのためには国民に痛みを与えてでも、デフレを起こすしかなかったんだね。浜口雄幸の人物像については後で詳しく話すけど、実に浜口らしいストイックな政策だと思うよ」
新平価解禁論
右比古「バカバカしい。そんな国民に負担を強いなくても金本位制への復帰は簡単にできたはずだろ」
左代子「どうやるっていうのよ」
右比古「法定レートと実際の相場に食い違いがあるんだろ? だったら法を改正して、法定レートを1ドル2円15銭にしちまえばいいだろ」
史保理「そんなことできるんですか?」
リベ太「選択肢としてはあり得たと思うよ。事実、当時ジャーナリストだった石橋湛山なんかは、『新平価解禁論』と言ってそのような主張をしていたんだ。『旧平価』で解禁するんじゃなくて、『新平価』で解禁しろというわけだね」
史保理「なぜそうしなかったんですか?」
保守美「新平価で解禁したら、日本円への信用が下がってしまうからです」
左代子「そう。新平価ということは、日本円の価値が法改正によって突然下がってしまうわけだから、日本円を持っている外国人に大きな損失を与えてしまうわけよね。『もう日本円なんか信用しない』と言われちゃうし、今後は日本円を使った決済には応じてくれなくなるかもしれないわ」
右比古「大したデメリットとは思えねえな。浜口が旧平価解禁にこだわった理由は、本当は別にあるんだよ」
史保理「なんですか?」
右比古「政治的な理由だよ。そもそも金の輸出を禁止したのは、大蔵省令という法令を出すことで行われた。金解禁も大蔵省令一本あればできるんだ」
史保理「大蔵省令?」
リベ太「大蔵大臣の命令という意味だよ。大蔵大臣のハンコがあればできる」
右比古「一方、法定レートを変えるには、貨幣法という法律の改正が必要で、衆議院と貴族院からなる議会を通す必要がある。しかし、貴族院は軟弱外交の立憲民政党に対して批判的で、浜口にとっては敵だったのさ」
左代子「軟弱外交って何よ。協調外交よ!」
リベ太「つまり旧平価解禁は大蔵大臣の心一つでできるけど、新平価解禁は貴族院の同意が必要だったというわけだよ。浜口にとって、貴族院の同意を得るのはかなり難しかったんだ」
左代子「貴族院ってのは、右比古みたいな連中の集まりだと思うと分かりやすいわよ」
右比古「うるせえな。とにかく浜口は、そんな内部的な理由で国民に痛みを強いたんだ。ひでえ話だぜ」
リベ太「まあ、右比古は積極財政派だからそう思うだろうけど、僕は円への信頼を損なわずに済ませようとした浜口の決断は良かったと思うな」
保守美「とりあえず金解禁の趣旨を説明しました。いよいよ浜口内閣の説明に入っていきます」
リベ太「じゃあ、休憩を挟んでからにしようか」
「いらすとや」を駆使してみましたが、伝わりましたでしょうか・・・?
この感じで、統帥権干犯も上手く図を使って解説しなきゃなあ。
いやはや、経済って難しい。
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