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30年日本史00713【鎌倉後期】永仁の徳政令 実像に迫る

 永仁の徳政令の全体像は次のようなものです。
1 御家人の所領の売却や質入れを禁止する。
2 御家人が御家人に売却した所領のうち20年前までに売却されたものは、無償で取り返せることとする。
3 御家人が非御家人に売却した所領については、期限なくいつ売却されたものであっても、無償で取り返せることとする。
4 金銭貸借に関する訴訟については今後受け付けない。当事者同士で解決せよ。
 このうち、2と3ばかりが有名になり過ぎてしまって、1と4があまり知られていないわけですが、近年、幕府の法令制定の主たる目的は1にあったのではないかと考えられ始めています。
 その説によると、幕府の考えはこうです。
 武士にとって所領は命であり、暮らし向きが一時的に傾いたからといって安易に手放してよいものではありません。むしろ長期的には所領があってこそ富を生み出せるのですから、苦しいときはどうにか支出を減らしてやりくりして、所領を守るべきです。
 よって、規定1を設けることで、御家人に所領を売却・質入れすることなく堅実な倹約生活を送るよう指示します。
 次に、既に売却又は質入れによって所領を失ってしまった御家人については、規定2と3によって救済します。
 この規定2と3によって、もう所領を担保として御家人に金を貸してくれる業者はいなくなるおそれがありますが、それは規定1を徹底するためにはむしろ歓迎すべきことなのです。
 なお、規定4は
「借金を踏み倒す者がいたとしても、政府は関知しない」
という趣旨のものですが、これは単に裁判所の業務を省力化しようというものでしょう。付随的に、「御家人が借金を踏み倒しやすくなる」という効果があるかもしれませんが、それを狙ったものかどうかは不明です。
 いずれにせよ永仁の徳政令は、幕府が狙った効果を上げることはできませんでした。結局、御家人たちは「徳政令の効果は本契約には及ばないものとする」などといった条項を設けた契約書を締結し、所領を売却・質入れし始めます。御家人の経済的凋落に歯止めはかからなかったのです。

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