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ファスト映画投稿ユーチューバー3名が大企業から5億円を請求されたのは妥当か?

SNSでの大炎上から約一年経った2022年5月19日。東宝、日活など大手13社が昨年逮捕されたファスト映画チャンネルの投稿者3名を相手に5億円の損害賠償を請求した。

記者会見での主張をまとめると、1000万回再生されていたので1回200円で換算して20億円の被害なので最低限の損害賠償として5億円請求する、とのこと。

私「え?請求金額の根拠がずいぶん雑じゃね?」

気になったので細かく読み込んでいく。

▼去年逮捕された人達:

まず賠償請求されたユーチューバーについて知ろう。

損害賠償を請求されたのは、2021年6月に宮城県で逮捕された3人。結構トレンドになっていたので記憶されている方も多いだろう。

そういえば逮捕のニュースは覚えてるけど、判決ってどうなったんだっけ?それについても参考記事には書いてあって、賠償金額は3人の合計で350万円。さらにこれに加えてそれぞれ2年以内の懲役刑(執行猶予あり)になったとのこと。

主犯格のAには懲役2年(4年間執行猶予)と罰金200万円
Bには懲役1年6月(3年間執行猶予)と罰金100万円
Cには懲役1年6月(3年間執行猶予)と罰金50万円

3人は経歴に逮捕と実刑がついたことで社会的な制裁は受けたので、賠償金額は個人に課すものとしてはまあ妥当だと私は思う。

同記事によると3人のチャンネルの広告収入は少なくとも700万円はあったとのこと。一般に映画館で上映する場合でもチケット代の半分は劇場に行き、残りの半分が著作権利者に行く。この点からも、700万円の半分である350万円が罰金として支払われたのは、結果的には妥当な金額に収まったと言えるだろう。(*350万円が誰に支払われたのかは記事からは分からなかったが…)

まだ若者だし実刑に執行猶予をつけたのも妥当だったと思う。無闇に刑務所に収監してもそのぶん税金が使われるだけだし、映画好きのオタクフリーターを刑務所にぶっこむのは一般的な犯罪者よりも精神的にキツイはずだ。反省しているなら更生のチャンスを与えましょうよ。なまじ頭が良い彼らを刑務所に入れてしまうと、そこでできた人間関係に出所後も利用されて本当に犯罪の道を歩むことになってしまうかもしれない。(お前らカタギの仕事はできんくなったかもしれんがワシが面倒見てやるけえの、へっへっへ)

これを言うと気分を害する人がいるかもしれないが、YouTubeにチャンネルを開設して、見やすい動画を短期間で複数制作して、数千人・数万人レベルのチャンネル登録者を集めて人気チャンネルに育て上げたのは逮捕された3人の実力と努力だとも言える。だって誰にでもできることではないでしょう。だから、その点では彼らは優秀であり才能があったわけよ。やり方というか努力の方向性が間違っていて法を犯してしまっただけで。まさに「過ち」だよね。

もちろん私も、3人は犯した過ちに相応の罰を受けるべきだと思う。その人物が優秀であることと、やったことが法的に正しいことは、無関係だと言っているだけだ。これは全ての知的犯罪者に共通して言えることでもある。優秀な詐欺師だからこそ大きな被害金額をゲットしやすく、だからこそ警察に捕まる確率もアップする。せっかく優秀なのだから、今後は更生してマトモに暮らしてほしい。

(私が好きなスーパーマンにたとえると、レックス・ルーサーって超頭良いよね、すげえ悪いヤツだけど、みたいな話だよ。ルーサーがヴィランじゃなくて正義のヒーローだったらって想像してみ?)

以上から、

  • 罰金350万円は彼らの収益700万円から計算した著作権料。

  • 実刑は彼らが社会に悪影響を与えたことへの社会的制裁。

  • 執行猶予は彼らを更生させて社会に貢献させるための手段。

だと私は理解した。

▼今年訴えを起こした人達:

ところが、それでは足りない!と大人たちが動き出した。

参考記事より引用:
映画の映像や場面写真などを無断で用いてストーリーの起承転結を10分程度に編集した「ファスト映画」を巡り、東宝・日活など大手13社が5月19日に損害賠償を求める提訴をしたことが分かりました。損害賠償額は5億円
今回東宝、日活など大手13社が提訴したのは(中略)2020年初頭から10月下旬までファスト映画を投稿していた運営者らです。(中略)64件のURLで投稿された動画の再生数は合計1027万4711回。

コンテンツ海外流通促進機構(CODA)日本映像ソフト協会(JVA)で5月19日に行われた会見には、CODAの後藤健郎代表理事、染井・前田・中川法律事務所の前田哲男弁護士、東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士、骨董通り法律事務所の小山紘一弁護士らが出席。

後藤代表理事は「1再生200円として被害額は『約20億円』。早めに対応しなければ漫画村のような状況になると危機感を持った」と明かし、「最低限の損害回復を求めるものとして5億円の一部請求を支払いとして求める」との姿勢を明かしました。

質疑応答ではねとらぼ編集部から「ネット上ではファスト映画を支持する声もあるがそれについてはどのように感じるか」を質問しました。
これについて中島弁護士は「映画というものは多くの人がお金と時間をかけて作っている総合芸術。監督や演者が意図して映像作品を作っているのにまったく創作の苦労をしていない人が映画を切り刻んで台無しにし、それにお金を儲けているということが問題」と指摘。「特にコ●ナ禍で映画産業が一番苦しいときにそういうことをやるということは問題であるし、『需要があるのであるから公式がファスト映画を作ればいい』という声があることも承知しているが、YouTubeで1億円を稼ぐためには10億回近い再生数が必要ということを考えるとマネタイズできないのが実情。権利者の意思に基づいて著作物を利用するということが重要だ」としました。
また後藤代表理事も「ファスト映画は明らかに営利目的で制作された動画であり、その点が問題だと考えている」としました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/57e954b9358fb928022fd78b9452a4489cf58cc6

私は著作権違反は良くないと思うが、今回の民事訴訟についてCODAの皆さんの主張を見ていくと、ツッコミどころだらけだと思う。

以下で、一文ずつ順番に指摘する。

後藤CODA代表理事「1再生200円として被害額は『約20億円』。早めに対応しなければ漫画村のような状況になると危機感を持った。最低限の損害回復を求めるものとして5億円の一部請求を支払いとして求める」

←おかしいでしょwww

機会損失の費用として1再生200円で計算しているが、そんな単純な話ではない。まさに『捕らぬ狸の皮算用』である。というのも、もともと映画館やサブスクにお金を落とさないような若年層や貧困層が率先して支持していたのがYouTubeのファスト映画だったと考えられるからだ。

で、それは後藤さんも把握してるのか75%オフの5億円に値下げしている。…って、は?なんで?20億円なら20億円で請求すれば良いのに、なぜ5億円まで値引きしたのか。値引き後の金額を5億円にした根拠は?思いつきのどんぶり勘定に見えるんだが。小泉進次郎の「46という数字が脳裏に浮かんできたんですよねえ」と同じくらいフワッとしてないか?

そもそも、ここで損害が発生したとされている著作物の権利を有する会社は、ファスト映画の競合コンテンツ(自宅で鑑賞できる映画配信サービス)では現在どのくらいの売上があるのだろうか?それに対して5億円という数字は妥当なのだろうか?もともとサブスクを契約してないユーザーを新規に獲得する計画や戦略や見込みがあったのだろうか?

というか、自前で動画配信サービスを持っている映画会社ってないよね?彼らは著作物をAmazonやNetflixで定額サービスとして提供しているが、だとしたら1再生あたりの損失金額はもっと小さくなる。

もし著作権者への還元金額が視聴時間に比例しているならば、120分の映画本編と12分のファスト映画では10倍の差があるので、それだけでも1再生200円ではなく1再生20円になる。さらに言えば、それこそAmazonプライムビデオでは1本につき広告が1〜2本ついてるから、その広告料で計算したら1再生1円にも満たないだろう。(*余談だがロードオブザリング新作の製作費を確保するためにAmazonはプライムビデオの料金値上げを発表した;つまりそれだけ配信サービスの売上は小さいことを示している)

とにかく、正当な根拠があるなら示してほしい。もし説明できないなら、そんな賠償金額が通用するのか疑問が残る。

中島弁護士「映画というものは多くの人がお金と時間をかけて作っている総合芸術。監督や演者が意図して映像作品を作っているのに、まったく創作の苦労をしていない人が映画を切り刻んで台無しにし、それにお金を儲けているということが問題」

←これもズレてる。問題の本質はもっとシンプルに「著作物を権利者に無断で使用したこと」であり、それ以上でもそれ以下でもない。汗水垂らして作った努力の結晶を切り刻んで…みたいな感情論と結び付けるのは詐欺師がよくやる手法である。

あとね、切り抜きとかMADとかマッシュアップとかヒップホップとかDJとか二次創作とかコミケとか、そういう現代の文化カルチャーに触れてこなかった人達(しばしば老人と揶揄される)には理解できないかもしれないけど、既製品を切り貼りする工程だって、良いものを作ろうと思ったら十分に『創作の苦労』は掛かるものなんだよ。たとえ既製品の切り刻みでも、創作の苦労やセンスが欠けているものはウケないから。それを「まったく創作の苦労をしてない」って言い放つ、この弁護士さんこそまったく理解してないよね。それってプロアマ問わず二次創作に関与する全てのクリエイターに対するディスになってるけど大丈夫?

そもそも昭和ニッポンの高度経済成長を支えたのが、海外の技術を取り入れて真似をして効率化してキャッチーなものを作りまくることだったじゃん。本質的にはそういうものと同じなんだよ。日本は最初はアメリカの真似をしてるとアメリカに馬鹿にされていた。しかし長年続けることによって高品質で合理的で優れたデザインを生み出すようになり、平成初期までに世界でJAPANは最高品質だと認識されるようになった。イノベーションっていうのはハードであれソフトであれ、引用と応用によって実現できるのよ。(何度も書くけど著作権に違反した無断使用がアウトだっただけで)

もう一つ矛盾点を指摘すると、ファスト映画は「他人が映画を無償で提供したから機会損失になった」のであって、中島弁護士が言うように「あんなものは映画じゃない」みたいなスタンスでいると、「じゃあ本物の映画を観たい人はファスト映画じゃなくてちゃんと2時間版を観るんだから関係ないじゃん」というロジックになりまっせ?(失笑)

中島弁護士「特にコ●ナ禍で映画産業が一番苦しいときにそういうことをやるということは問題であるし」

←ちょっと何言ってるのかよく分かんない。

コ●ナは関係ねーだろwww

世の中がコ●ナじゃなかったら放置したのかよwww

中島弁護士「『需要があるのだから公式がファスト映画を作ればいい』という声があることも承知しているが、YouTubeで1億円を稼ぐためには10億回近い再生数が必要ということを考えるとマネタイズできないのが実情」

←じゃあ弁護士先生にお訊きしたいのですが。何故ファスト映画作成者があんなに大量に発生したんだと思う?それはね、彼らには、CODAみたいな《映画制作に関わりもしないのに権利を守るためですと言って映画産業の大手から金をむしり取る》仲介業者が入ってないからフットワークが軽く動けるからなんだよwww

てめえら自身が映画産業にタダ乗りしている分際で、よくそんなことをイケシャーシャーと言えたもんだなwww

この中島という弁護士さんは聞かれてもいないのに、知ってることや自分の考えを喋りすぎてブーメランを投げているのが、私には滑稽に映る。もしくは大手映画制作会社に対しておべっかを使ってるだけにも見える。

中島弁護士はネットユーザーに対して、私はあなた達の主張も分かっていますよというアピールをしたかったのかもしれないが、本質的には的外れなことばかりを言ってるのが露呈してしまった形だ。残念である。

あと、これが一番の問題なのだが、ネット上でファスト映画を支持する理由の中には、ファスト映画が『非映画ファンが映画を知るきっかけ』や『映画本編を消費させる宣伝効果』になっている(売上に貢献している)という声があるのよ。どうしてその話題はスルーしたのだろうか?これはアンフェアだよ。ねとらぼ記者にはもう一歩踏み込んで訊いてほしかったなあ。

この弁護士さん、論点をすり替えてるし、詭弁ばかりなんだわ。(ある意味、それこそが弁護士の仕事でもあるのだがw)

中島弁護士の見解をまとめると以下の4点になる。

  • ファスト映画には『制作の苦労』がない。

  • コ●ナ禍にやるのは問題である。

  • YouTubeでは1億円稼ぐことさえ難しいから大手にはできない。

  • ファスト映画の宣伝効果についてはノーコメント。

こうして並べると失笑ものなんだがwww

後藤CODA代表理事「ファスト映画は明らかに営利目的で制作された動画であり、その点が問題だと考えている」

←これもかなり言葉足らずな発言。YouTuberなどの動作投稿者が営利目的で活動するのは当たり前で、ファスト映画に関しては「映画鑑賞をそのまま擬似体験できる動画」を制作したことが論点なんだよ。だから映画会社の売上ダウンに繋がった根拠を示すことが重要なのよ。営利目的であるかどうかは話のポイントにならないの。(失笑)

意図を汲み取ってフォローしてさしあげると「映画愛を発露して映画ファンのコミュニティを活性化させて彼らの映画鑑賞(著作権者への金銭的支出)に繋がる活動をしている人達は悪くない」ということを言いたかったのかなとは思うが、それにしては口下手すぎる。詰まるところYouTubeに動画をアップしてお金を稼ぐようなやり方は紛い物である、というご本人の価値観が滲み出てしまった発言だと私は捉えた。

著作権違反者を裁くこと自体は私も賛成なんだけど、物事の本質は理解した上で発言したり行動してほしいよね。でないと裁かれる必要がない部分まで過剰に裁かれてしまったり、もともと権利所有者という強い立場にいる人達がドサクサに紛れて不当に利益を搾取する結末につながってしまうかもしれない。

このコンテンツ海外流通促進機構(CODA)という謎の団体の代表理事も、それに雇われた弁護士も、記者会見でこんな筋違いなことばかり言ってて、本当に信用できるのかしら?ガチで無能なバカなのか、アコギな商売をしてるのから発言に無理が生じてるのか、のどちらかでは?www

▼ファスト映画はもう死んでいる:

2021年6月。YouTubeの『あなたへのおすすめ動画』を支配し、多くの映画ファンから嫌われていたファスト映画チャンネルを一斉にしょっぴく所までは良かった。もともと一部の映画ファンから疎まれていたファスト映画を、共通の敵として提示することで世間の支持を得られたように見えた。

彼らはYouTube運営と協力して当該チャンネル管理者の住所まで押さえてちゃんと提訴できるように準備するなど抜かりがなく、違法投稿者の退路を断つ鮮やかな手口は称賛された。一般的に詐欺行為は証拠を集めるのが難しく、逮捕できることは相当稀なので、これは凄いこと。

しかし、彼らはその先を読み違えた。ファスト映画を毛嫌いしていた映画ファンは、ファスト映画がYouTubeから消えれば気が済むのであって、「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」という『映画の権利を守る謎の団体』が潤うことは別に求めてないんだわ。(*CODAがいるおかげでより良い映画体験ができると考えている映画ファンなんて存在するのかね)

2022年5月。CODAは勘違いして、欲を出して、悪手に出た。としか私には思えない。

はっきり言ってしまうと、CODAはYouTubeでの新しいビジネスチャンスを逃しただけである。アイツが新しいビジネスを先に生み出したせいで俺が損したんだ!だから俺に金を払え!とまるでキチガイじみたことを言っている。そんなことが通用するなら、新しいビジネスを開拓した人達はみんな既得権益の人達に駆逐されてしまうやろ。ファスト映画投稿者が問われる罪はあくまで著作権違反であり、それはすでに刑事事件として裁かれた。新しいビジネスやフォーマットを発明したことまで批判される筋合いはない。

そんなCODAの筋違いな主張に賛同して5億円の請求に名前を連ねた大手映画制作会社にもガッカリだけどね。CODA様に言われては断れなかったのか。(音楽やってる人や会社がJASRAC様に逆らえないのに似ているかも)

まあCODAとて本当に5億円も取れるとは思ってなくて、今回の請求は『今後の違法アップロード投稿者への牽制』という意味もあるかもしれないけどね。1年も経つとほとぼりが冷めたと思って、また動き出す別のチャンネルが現れてくるかもしれないし。

だとしても、20億円やら5億円やらという数字とその根拠が荒唐無稽すぎて、私は気分が悪いけどね。

あ、ところで去年の今頃CODAはファスト映画のせいで950億円以上の損失が出てるって言ってたけど、状況は少しは改善したのかしら?

ファスト映画は新型コ●ナウイルスの感染拡大を受けた巣ごもり需要の中で増えたとみられ、1本で再生回数が数百万回に達しているものもあります。

アカウントの所有者はひと月で数百万円の広告収入を得ている可能性もあり、CODAは、本編が見られなくなることによる被害の総額を956億円と推計しています。

NHKニュース(2021.06.20)より引用

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了。

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