【スローなブギにしてくれ】を三幕構成で読み解く
結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。
一幕
1)
夕暮の第三京浜。白いムスタングから仔猫と若い女の子が放り出され、後ろから来たオートバイの少年に救けられた。ゴローとさち乃の出会い、ニ人は一緒に暮しはじめた。
2)
ムスタングの男は、福生の旧米軍ハウスに住み、仕事仲間の輝男と敬子のカップルが同居している。敬子が産んだ子供はどちらが親か分らないが、三人は奇妙な均衡の中で暮している。子供は敬子の妹、由紀江が面倒を見ている。ある朝、輝男がジョギング中に心臓発作で死んでしまった。
二幕
3)
一方、さち乃は行きつけのスナック、クイーンエリザベスでバイトをはじめた。ゴローはバイト先で喧嘩して仕事を辞めてしまい、またさち乃と客の仲を嫉妬してふらりと何処かへ出かける。
4)
さち乃は男に連絡を取り、季節外れの高原ホテルで会った。男は別居中の妻との離婚の書類にハンを押すためと、子供のピアノの発表会を見に行くためにここへ来たのだ。子供と電話で話す男の顔を見て、さち乃はホテルを出た。再びゴローとさち乃の生活が始まった。
5)
ある日、さち乃が作業服の男たちに強姦された。ゴローは必死で男たちを捜し、なんとか見つけると目茶苦茶に叩きのめした。ごきげんなゴローにさち乃は「あたしよりも仇を討つことしか考えないの」と咳いた。
6)
さち乃は男のもとに向った。そこには敬子と由紀江と赤ん坊が同居しており、さち乃はそんな生活に馴染めずハウスを飛び出した。彼女が出ると同時にハウスのバランスがくずれ、皆バラバラとなった。
三幕
7)
消えたさち乃を求めて、男はゴローと会った。そこへ、ゴローに作業服の男が襲いかかり中へ割って入った男が腹を刺されてしまう。
8)
さち乃が男を見舞いに訪れる。三ヵ月の重傷。男は「さち乃に刺されたようなものさ」と咳く。スナックでしょげているゴローのところにさち乃が戻って来て、また働くという。マスターが「復帰祝いに何か曲をかけよう」と言うと、ゴローが「スローなブギにしてくれ」と答えた。ゴキゲンなブギがゆっくり流れた。
FIN
▼解説・感想:
デビュー作でこの雰囲気、存在感、浅野温子すごいですね。
昭和の映画ならではの豪快な脱ぎっぷりも良かったです。当時19歳か20歳だと思いますが、若さが弾けていました。
原作小説ではムスタングの男は最初に少女と仔猫を捨てる場面しか出てこないようです。そこからここまで肉付けしたとなると、それで興行成績が振るわなかったなら、原作者やプロデューサーがこんな小言を言いたくなるのも解る気がします。自分の作品が否定されたみたいに思われたくないでしょうからね。
現代だったら絶対に考えられないレベルで仔猫を乱暴に扱います。10匹近い仔猫を部屋の中で追い回して次から次へと首根っこ掴んでポンポン窓の外へ投げ捨てたり、何メートルもある陸橋から放り投げたり、同じく地上何メートルのケーブルに前足の部分で仔猫を縛りつけたり…完全に動物虐待のコンプラ違反です。こういう乱暴な演出ができただけ昭和の映画は強いですね。
(了)