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【野生の証明】を三幕構成で読み解く

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。


一幕

1)
一九八〇年。過激派の人質となった米国大使を自衛隊特殊工作隊が救った。味沢岳史はその中でも抜きん出た優秀な隊員だった。味沢が東北山中の単独踏破訓練中、飢えと疲労の極限で、越智美佐子に出会った。彼女は獣のような味沢の惨状を見て、救助を求めて集落へおりて行った。その時、大量虐殺事件が発生した。五戸十二名が惨殺され、その中には彼女の死体もあった。駈けつけた北野刑事は、ハイキング中に凶行の巻添えにあったと断定した。集落唯一の生存者は、十三歳になる長井頼子という少女だけだったが、彼女は恐怖のあまり記憶喪失になっており、「青い服を着た男の人……」と呟くだけだった。

2)
月日が流れた。味沢は、事件後、除隊して羽代市で保険外交員をしていた。そして、記憶を失った少女、長井頼子を養女にして暮らしていた。羽代新報の記者、越智朋子は交通事故の現場にいた。沼底から引き上げた車の中に同僚の立山の死体があった。警察はホステスの明美と同乗していた立川の酒酔運転による事故として処理した。明美の死体は見つからなかった。朋子は事故とは思わなかった。この羽代市は大場総業会長大場一成に支配されており、立川はその不正を暴露するメモを持っていたからである。明美には六千万円の保険がかけられており、味沢はその夫、井崎と一週間前に保険の契約を済したばかりだった。井崎は大場の忠臣と言われる中戸組の幹部であった。事故現場で越智朋子を見た味沢はショックを受けた。彼女は美佐子に瓜二つの妹だった。保険金の支払いの責任を負わされた味沢は事件の調査を始めた。

二幕

3)
数日後、味沢は暴走族に襲われていた朋子を救い、二人の仲は接近する。暴走族のボスは大場の長男、成明である。警察に保存されていた事故車から提防のコンクリート片を見つけた味沢は、中戸組の提防工事現場で明美の死体を見つける。しかし明美の死体発見も、大場の圧力で井崎の単独犯行となった。

4)
一方、北野刑事は、大量殺人の犯人は軟腐病に犯され狂った頼子の父の犯行との結論に納得せず、必要に味沢を追った。その頃、不思議な予知能力を発揮し始めた頼子を専門医に診せたところ、その底に潜むものが、自分への憎しみであることを知らされた味沢は、来るべき時が来たのを感じ、頼子を事件のあった村に連れて行った。頼子は少しずつ記憶を取り戻したが、自分の家の前に来ると激しく拒絶反応を示した。

5)
その夜、味沢は朋子にすべてを語った。都落にたどりついた時、美佐子の死体を見て逆上した味沢は、自分の娘を殺そうとしている長井孫市を反射的に殺してしまったのだ。ある晩、「姉ちゃんが殺される」と頼子が予知して叫んだ。そして朋子の部屋に駈けつけると、そこには彼女の暴行された末に殺された無惨な姿があった。

6)
そして町を出ようとした味沢と頼子に大場の部下が襲いかかった。超人的な力で相手を倒す味沢を見て頼子は「お父さんを殺したのはこの人!」と叫んだ。その時、味沢の手首に手錠が食い込んだ。北野刑事だ。

三幕

7)
北野は二人を護送すべく、車で出発すると、味沢を監視していた特殊自衛隊員・渡会が立ちはだかった。三人を自衛隊の演習にまぎれて消そうとする計画だった。凄絶な死闘が繰り返され、北野刑事は狂ったようにトラックを戦車に走らせ、自爆した。

8)
味沢は頼子を救うために別行動を取ろうとするが、耐えられず飛び出してしまった頼子は撃たれて、味沢の胸の中で「……お父さん」といって息たえた。味沢は頼子を背負って、戦車の群に向かって進むのだった……。

FIN

1978年製作/143分/日本
配給:日本へラルド映画=東映
劇場公開日:1978年10月7日

▼解説・感想:

1978年公開なので、まだハリウッド三幕構造が日本によく知られる前の作品だと思いますが、同じフォーマットに入れて語ることができます。

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

一幕がかなり難解だと感じました。私が生まれる前の映画ですからねー。現在と昭和50年代では社会常識が色々異なるのでパッと風景や人物を見せるだけでは状況がよく伝わらないことが多いです。そこに映画のフィクションも加わって、どこまでリアルな目線で見れば良いのか戸惑います。当時すでに大スターだった高倉健を見慣れていればまた少し違うのかもしれませんが、帽子をかぶって髭を伸ばして、それで1秒未満のカットだと正直結構難しいですね。

結末は昭和のハードボイルド映画らしく、なんとも後味の悪いバッドエンド。このやるせない感じが、往年の角川映画って感じでクセになりますね。バブル崩壊前の日本映画からはなんとなく無責任な臭いがするような気がします。この言語化で正しいのかは自分でも少し自信がないのですが。

岩手県警と秋田県警が管轄をめぐって争う様子は少しアメリカ映画っぽいと感じました。アメリカ映画に憧れて真似した感じでしょうか。劇中の羽代市という地名は架空ですが、おそらく秋田県能代市をもじったものなので秋田県だと考えて良いのでしょう。

松方弘樹や梅宮辰夫が演技しているのを観るのは、平成初期のバラエティで馴染みがある人達だったので楽しかったです。

薬師丸ひろ子の佇まいや演技がずいぶん初々しいというか、悪く言えば芋臭いなと思ったのですが、デビュー作品でした。ここですでに機関銃を構えて撃つシーンがあり、これが1981年の『セーラー服と機関銃』に繋がると考えると面白いです。

中学1年生の時、角川映画第3弾『野性の証明』の長井頼子役オーディションで優勝、高倉健との共演で1978年に映画デビュー。

高倉健が江頭2:50に見えて困りました。(笑)てゆうかエガちゃんが思春期に見ていた格好良いオジサンが高倉健だからだろうなー。


フィルム撮影なので4K修復版も気になります。

高倉健さん没後10年。主演作『野性の証明』『君よ憤怒の河を渉れ』が、4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】で登場!

(了)

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