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日本語訳:マイティ・ソー2の監督のスナイダーカット発言の全文〜発言内容をよく読むと見えてきたジョス・ウェドンの影〜

スナイダーカットに刺激され、自身の構想はMCUによって変更されていたことを改めて発言したアラン・テイラー監督。インタビューの原文が見つかったので詳しく読み込んでみました。すると実は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド(Thor: The Dark World)』ではジョス・ウェドン監督が脚本のリライトで「手助け」をしていたという点もスナイダーカットと共通していたことが分かってきました。

▼はじめに:

ダークワールドは私にとって印象の薄い映画でした。

正直な話、私はもともと単体で完結する映画が好きで、当初はMCUのやり方(ユニバース構想)にはあまり馴染めなかったので、基本的にMCUの作品は公開当時はスルーしていました。ただし以前から敬愛していたザック・スナイダー監督がDCEUを立ち上げたことで、そういう続き物の作品群も観てみようかと気持ちが変わり始めました。しかし作品数の多さに怯んでしまい、ウィンターソルジャーもシビルウォーもスルーしていました。

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私が参戦を迷っている時点で既に18作品ありました😅

そんな矢先に『インフィニティ・ウォー』が世間で大絶賛を受けました。ネタバレは極力避けていましたが、どうやら相当に踏み込んだ作品であるらしいことは疑いようがなく、もはや無視しては通れないと私も腹を括りました。そこからは解説サイトなども駆使してMCUを一気に視聴しました。『おまけの夜』の柳生先生の解説には大変お世話になりました。お陰様で私はインフィニティ・ウォーをIMAXシアターで楽しめました。確かに素晴らしい作品でした。テンポとか構成とか結末とか全部良かったです。(それでも私はスナイダー監督の『MoS』や『BvS』の方がイイと思ったけどそこは個人の意見なので大目に見てね:笑)

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↑私のMCUはここから始まりました。

しかし短い時期に集中したので強く印象に残らなかった作品もあります。『ダーク・ワールド』はまさにそんな作品の一つでした。私にとっては、「ナタリー・ポートマンが好きだから観たが、それしか印象に残らなかった」と言っても過言ではありません。

ただし、考えてみると色々と不思議というか奇妙な点が本作には残ります。エーテルが石じゃなかったり、前作では人格者だった博士の頭がおかしくなって全裸で走り回っていたり。なんじゃこれ?と。

これが印象に残らなかった理由でしょう。誰かが言ってることが支離滅裂だった時って、理解に苦しむじゃないですか?そういう感じです。

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じゃあ、なぜダークワールドは理解しにくい作品になったのでしょうか。

ここから監督の発言を掘り下げていきます。

▼完全日本語訳=監督の主張:

先日にアラン・テイラー監督がメディアで発言したことで、私はその疑問が解消するきっかけを得ました。ざっくりまとめはIGNが読みやすいかと思います。

Inverseとのインタビューでテイラーは、『ダーク・ワールド』へ再び戻る機会を与えられたいと言及。監督は続編にもう一度アプローチする方法として、最近、ザック・スナイダーが『ジャスティス・リーグ』でした経験を例として挙げたが、自分にチャンスがあるとは期待していないと語った。

IGN JAPAN 2021年9月30日より引用

そこで私はIGNがソースにしていた記事を見てみました。

こちらの元ソース(Inverse)では、もっと詳しい情報やニュアンスが読み取れたので、ここからはテイラー監督の発言をすべて丁寧に見ていきます。

“It’s funny, whenever I go into this topic, it goes viral. The Marvel Universe is rich and passionate you can say almost nothing and it will catch fire.”

おかしいよね。この話題(マイティソー2)になると何を言ってもクチコミで広がっちゃうんだ。マーベルユニバースは豊かで情熱的だ。そこじゃ何も言えないよ。すぐに炎上するんだもん。

過去にも炎上したんですかね。笑

“First of all, I have huge respect for Kevin Feige. I think he’s doing something that no one else has ever done before and that nobody thought was possible until he did it. Now, everyone's trying to imitate it.”

まず初めに断っておきたいんだけど、僕はケビンファイギをとても尊敬している。彼は他の誰にもできなかったし、できると思うことさえもしなかったことを成し遂げたんだ。今じゃ、みんなが彼の真似をしようと必死だけどね。

はい。しっかりと予防線は張れましたね。笑

さあ、ここからが本題です。

“For me, the process was not fun. I focused all my attention on making a certain movie. And then in the editing process, decisions were made to change it a lot. He’s got an empire he’s running and things have to be changed to fit into other things. My regret was that the movie that got released was changed quite a bit in a way that I couldn't shape really. I mean, I shot all the material that we put in the movie, but we set out to make one movie, and then major plot points were reversed in post. It’s not the ideal way to work.”

僕にとっては、あの制作過程は楽しくはなかったよ。僕は全ての意識を集中して事前に決めた通りに映画を作っていたんだ。そしたら編集段階になって、多くを変更することが決められたんだ。彼(ファイギ)は帝国を持ってるのさ。そこではあらゆる事象は、他の事象にフィットするために変化することが求められる。僕が残念なのは、公開された映画は、僕が実際に関われなかった方法(=つまり編集)でかなり変更されていたことだよ。つまり、撮影したのは全て僕だけど、僕ら(=MCUの他の監督たちも含めて)は皆で一つの映画を作らなくてはいけなくて、だからポストプロダクションで主要なプロットがひっくり返されたんだ。これは理想的な働き方ではないよね。

テイラーは「making a certain movie」と発言しています。この「certain」という単語がポイントです。単純にGoogleなどで日本語訳をかけると「特定の」という語句になりますが、これだけでは意味が不足します。「certain」の深い意味合いとしては「もう決まったもの」というニュアンスがあります。グニャグニャした形が定まらないものから、形を決めてしまうことで、それは一つの特定なものになる、という考え方からできた言葉なのです。

なのでテイラーの「making a certain movie」は「事前に決めた通りに映画を作る」と翻訳するのが一番適切です。

ここではテイラーが「それをひっくり返された」と言っています。一般的な会社とかでも、規定のプロセスや会議を経て一度確定したプロジェクトの方針や決定事項を、後から入ってきた人が文句を入れたり強権を発動することでひっくり返してしまう事例は「ありふれた話」だと思いますが、まさにそれが起きていたのですね。

テイラーはそんな理不尽なプロジェクトの気の毒なリーダーであり、なんとか最後までやり遂げましたが、社長にメンツを潰された形です。(映画に限らずどんな仕事でもある程度は仕方ない部分ではありますが)

続けましょう。

“So yeah, I have a great fondness for some of the things that went away in the original cut. There was a kind of quality a wonder to the thing that was beautiful to me. I think I was brought in to bring some Game of Thronesiness to it in reaction to the first Thor, which was a little too shiny, was my feeling. And then partway through, they started to realize that they wanted to hit in a different direction. So it was kind of a stumbling process.

だから、うん、オリジナルカットにはあったけど消されてしまったものには強い愛着があるよ。僕にとってはワンダーでビューティフル(素晴らしく美しい)な要素だったから。僕が考えるに、『マイティ・ソー』の1作目は少しキラキラしすぎていたから、より『ゲームオブスローンズ』なテイストを加えるために僕が抜擢されたと思ってたんだ。でも制作の途中で、彼らは気づき始めて別のディレクションにしたいと思うようになった。だから、あの制作過程は、まあグダグダだったと言えるよね。

テイラー監督は『ゲームオブスローンズ』でシーズン1の最終2話(2011年)とシーズン2の冒頭2話(2012年)を担当しており、同フランチャイズの躍進に大きく貢献していた(*)人物です。そして、その直後の2012年9月にテイラーは『ダーク・ワールド』の撮影に臨んでいます。だから、そう考えるのが普通でしょうし、企画書も最初はそんな感じだったのでしょう。何しろタイトルがダークワールド(暗い世界)なんですから。

(*なおGOTはテイラーが離れた後はシーズンを重ねるほど評判を落としていきました)

“That said, they know exactly what they’re doing and I’ve seen other directors go in there and nail it, like Taika Waititi and James Gunn. The difference is, those guys were writing and directing. I think that’s a healthier way to go into the Marvel Universe. So it was a learning  experience.”

とは言ってみたものの、マーベルの中でも上手くやっている監督もいるよね、自分がやりたいことをやって爪痕も残す、たとえばタイカ・ワイティティやジェームズ・ガンとか。僕との最大の違いは、彼らは脚本と監督を両立している。マーベルユニバースで仕事をするならこの方法が健全だと思うな。だからあの作品はとても勉強になったよ。

ワイティティ監督の『ソーラグナロク』は私も大好きな作品です。オフビートな笑いを頻繁に挟みつつも、押さえるべきところはしっかりと押さえていて、特にロキが援軍を連れて現れる場面やソーがオーディンの力に目覚める場面など結構グッとくる作品になっています。ギャグは多いけど無意味な物とか話の腰を折るような物はあまり無いんですよね。(逆にダークワールドのギャグはあってもなくてもマジで影響ない物ばかりです)

映画の前半でギャグにしか思えなかった崖がクライマックスでこんなに胸を打つとは!

私は曖昧に記憶しているのですが、一時期、「マーベルは複数作品で一つのユニバースを形成しているが、各クリエイターの自由は尊重する」みたいなことをファイギ(ルッソ兄弟だったかも)が意気揚々とインタビューで語っていたと思います。

しかしテイラーの発言を見る限りでは、高い自由度を与えられていたクリエイターは限られていたようです。まあユニバースとして完成させるためには一定の制限が設けられることは致し方ないとは思いますが。テイラー自身が語るように、脚本と分業にしている時点で監督の意見を反映させるのは難しそうに思えます。あとは監督自身のキャリアや地位も少なからず影響するでしょうし、作品が作られたタイミングも大きなファクターになるでしょう。

特にダークワールドが撮影された2012年9月はアベンジャーズの第1作が公開されて大ヒットした直後でした。これを受けてファイギをはじめとしたマーベルの首脳陣がユニバースの方向性や戦略を調整した可能性は十分にあります。タイミングが不幸だったのは否めないでしょう。

I was cheering for Snyder when he was doing that and thinking, Will he pull this off? This is amazing. I think every director was kind of rooting for that. I would love to, I mean to. Can you imagine that? They give me however many millions of dollars they gave him to go back in. Yeah, I don’t think I’m going to get that phone call.”

スナイダーが行動を起こした時に僕はとても勇気づけられたよ。そして考えてみたんだ、スナイダーはあの圧力を跳ね除けちゃうのか?ってね。これは凄いことなんだよ。どんな監督だってしたいさ。僕だってしたいよ、本当に。でも想像してみて。スタジオが僕に、スナイダーと同じように、やり直しのために何千万ドルも与えてくれると思うかい?いやいや、僕がそんな仕事を貰えるとは思えないね。(笑)

スナイダーカットは2021年の公開に向けて、2020年に7000万ドル(=77億円)の予算を投じました。スナイダーはほんの少しだけ追加で撮影(2シーンのみ)しましたが、追加予算の大部分はステッペンウルフなどのVFXをやり直すために使われました。

IGNの記事にも書いてあるのですが、テイラー監督は2015年の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』以降は映画制作から遠ざかってテレビの現場で活動しており、2021年に6年ぶりの映画復帰作はワーナー配給の『The Many Saints of Newark』です。同じワーナーでスナイダー監督が4年越しにオリジナルカットを公開したことには、大いに勇気づけられたことでしょう。

しかしここまで読んできて、監督が苦い思いをしたことまでは分かりましたが、実際にどんな大きなプロットの変更があったのかは分かりません。

そこでウィキペディアやIMDbを見て、確認していきましょう。

ちなみに私はこの記事を書くためにダークワールドを再視聴しました。笑

▼当時のポストプロダクションの事情:

ウィキペディアやIMDbから、今回のテイラー監督の証言を裏付ける部分を抜粋しました。いずれも英語版のみに記載されて、日本語ページには記述がありませんでした。(エンタメ関係ではこういう情報格差は結構大きいです)

Loki (Tom Hiddleston) was originally not going to appear at all, and there was going to be a much greater focus on Malekith and the Dark Elves. Following his popularity in アベンジャーズ (2012), the script was re-written to give him a big role. [IMDb]

当初、ロキ(トム・ヒドルストン)は映画全編に登場する予定はなく、マレキスやダークエルフにもっと焦点が置かれる予定だった。映画『アベンジャーズ』でロキの人気が上昇したことを受けて、脚本は書き直されて、彼には大きな役割が与えられた。

なんと!

アベンジャーズが公開されたのは2012年5月で、ダークワールドの撮影は2012年9月ですから、これは相当に土壇場での大きな変更ですよ。制作チームからしたら寝耳に水の大事件だったと思います。そもそも脚本執筆はずっと前の2011年に始まっていたし、2011年12月には初期脚本は完成していて微修正に入っていました。

こんなのほぼ建設が終わったビルを途中から作り直すようなものです。しかし撮影スケジュールはすでに決まっていてスタジオも撮影クルーも全て予約済みですから、準備不足のままでも撮影するしかありません。これでは脚本の推敲が足りないので後から追加撮影が発生するリスクが俄然高まります。

In April 2013, McFeely said that "a lot" of writers had contributed to the film's script, and he and Markus were uncertain if they would receive final screenwriting credit on the film; Markus and McFeely along with Yost received final screenwriting credit, with Payne and Rodat receiving story credit. [Wikipedia]

2013年4月マクフィーリーは「たくさんの」脚本家が映画に貢献したことを言及した。マクフィーリーとマーカスは出来上がった映画を見るまで自分達の名前が載っている確証を持てないほどだった。マクフィーリーとマーカスはヨストと共に脚本(screenplay)として、ペインとロダットは原作(story)としてクレジットされた。

脚本家が「もはや自分の作品と呼べるか分からない」と発言してしまうくらいには、大量にリライト(修正)が入ったということですね。これは遠回しに「自分達の作品だとは認めない」って言ってますよー。笑。

こうなってくると危険な香りがプンプンします。船頭多くして船山に登る。多人数が筆を加えると作品は一貫性を失い、細部に矛盾を生んで、収拾がつかなくなりがちです。だから脚本家は暗に「自分の作品ではない」「自分の名前を映画から外してもらって構わない」と言っているのです。

In July 2013, Dennings told reporters that the film was about to head into reshoots. In August, Taylor said he shot extra scenes with Hiddleston and was about to shoot more with Hopkins. Taylor explained that it was all a part of the "Marvel process" saying, "We're doing full scenes, scenes that were not in the movie before. We're adding scenes, creating scenes, writing scenes for the first time. The one [involving Loki] was a fun connective scene... We realised how well Loki was working in the movie, and we wanted to do more with him. So it was that kind of thing, it was like, 'Oh, we could do this, we could jam this in here' because he's such a wonderful guy to watch do his stuff." [Wikipedia]

2013年7月、デニングス(ダーシー・ルイス役)は再撮影があると記者に教えた。同年8月、テイラー監督はヒドルストンとの追加撮影を終えて、これからホプキンスとの撮影があると告げた。テイラーはこれは全て「マーベルのやり方」であると説明しつつ「僕らは全てのシーンを撮影している。これまで映画に入れてなかったシーンだ。僕らはシーンを追加して、シーンを作り出して、シーンを新たに書き起こした。(ロキを含んだ)あるシーンはMCUの作品群を繋ぐシーンになっている。僕らは気づいたんだ、ロキが映画の中でいかに役に立つかを。それで彼にはもう少し働いてもらうことにしたんだ。だからそういうことだよ、つまり、『おっと、こうすればできるんじゃないかな、ここでこうすればいいよ』みたいな感じさ。なぜならロキはそういうことをするのにピッタリな男だったからだ。」

結局、2013年夏に追加撮影があったようですね。ダークワールドの公開は2013年10月なので、これはビッグバジェット映画としては背筋が凍るほど恐ろしい突貫工事です。

一度撮影完了してしまった映画を、他の作品群とも繋がるように、巨大で複雑なパズルを組み立てるようにロキのシーンを追加して再構成していきます。現場で多くの人達でああでもないこうでもないと意見を交わしながら作っていったのでしょう。テイラーは文字面では明言していませんが、言外に不満や皮肉を滲ませているようにも見えます

▼実はロキは死亡する予定だった:

In November 2013, Feige stated that the film was intended to be the conclusion of the "Loki trilogy", which examined the relationship of Thor and Loki throughout Thor, The Avengers and this film. Loki was originally intended to die in the film, however, after test audiences did not believe he was actually dead, Marvel Studios decided to alter the character's ending. The film's mid-credits scene was directed by James Gunn, the director of Marvel Studios' Guardians of the Galaxy. The film underwent multiple changes during the reshoots and editing process, with Taylor believing his initial version "had more childlike wonder", including starting the film with children, and an overall "more magical quality". He noted the reshoots "inverted" the original plot in certain ways, such as Loki no longer dying. [Wikipedia]

2013年11月にファイギは『ダークワールド』が『マイティソー』『アベンジャーズ』に続く「ロキ・トリロジー」の完結編にあたり、ここでソーとロキの関係が試されると声明した。ロキは当初は本作で死ぬ予定だったが、テスト試写会では観客がロキが本当に死んだとは信じてくれなかったので、マーベルスタジオは結末を変更することにした。ミッドクレジットのシーンはジェームズ・ガンが監督した。再撮影と編集のプロセスでダークワールドは複数の変更を受けた。テイラーはこれについて初期バージョンは「より無邪気な驚きがあった」とし、たとえば映画の冒頭に子供達が出てくるなど、全体的に「魔法のような要素が多かった」としている。テイラーは再撮影によって既に決まっていたオリジナルのプロットは「ひっくり返され」て、ロキが死なないことになったと言及した。

な、なんと!!

ロキは当初は死ぬ予定だった?

しかも後付けで本作を「ロキ・トリロジー」の完結編に仕立て上げるという破格の高待遇です。他にトリロジーがあるのはアイアンマン・キャップ・ソーの御三家だけですよ。マジすか。マーベルにとってアベンジャーズの成功が余程の想定外だったことが想像できます。

たしかに言われてみると、序盤でアスガルドに送還されたロキとオーディンが話す場面や、終盤で兵士に化けて帰還したロキとオーディンが話す場面などは後から追加されたように見えます。

特に序盤のシーンはアベンジャーズの最後ではソーと2人で帰っているのに矛盾しますから、これは俳優のスケジュールが合わなかったので諦めた点だと思われます。何より最初の面会シーンがなければ映画は「5000年前の戦い→ヴァナヘイムでのソーの戦い→アスガルドに戻る→そしてロンドン」という流れになり、オーディンの初登場が鷹狩り(このシーンはセリフもなく鷹を見つめるオーディンを数秒間映しているので彼をかっこよく初登場させるシーンとして撮影されていたことが読み取れます)になって、椅子に座っているだけの劇場版と印象がかなり変わります。実はこのシーンをよく見るとソーがアスガルドに戻った時に初めて「ASGARD」という場所を示す字幕が出ることからも、本来はロキの会話シーンはなかったと推理できます。

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図解:シーン2が追加だと思われる理由

編集がおかしな所としてはブラックエルフの襲撃でマラキスに壊された玉座がオーディンが戻ってきたときに一瞬だけ復活しているようにも見えます。この時映画ではロキの牢屋の前を「玉座が壊されたぞー」と叫びながら走る兵隊もずいぶん不自然(なぜ彼は地下の牢獄でそれを言いふらして走る必要があったのか意味不明)で、これらは後からマラキスが破壊する描写を加えたからのミスかもしれません。

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衛兵「アスガルドの玉座が壊された!王の元へ集え!」

ダークワールドはまるで魔法の国のような描写(ジェシーがエーテルに呼ばれる場面、フリッガの幻想的な葬式など)と、現実的で俗っぽい描写(ダーシーとイアンがワープホールに靴や鍵を投げるバカっぽい行動、セルウィグ博士の奇抜な行動など)が交互に出てくるヘンテコな作品になっていますが、これもテイラー監督の言葉から裏が取れた感じですね。

おそらくロキはスヴァルタムヘイムで素直に戦死する予定だったのでしょう。ファイギが語った「テスト試写で観客が信じなかった」というのはちょっと眉唾ですが、この変更自体はそこまで映画全体をぶっ壊しているとも思えないので、現場は大変だったと思いますが、まあ許容できる範囲でしょう。

▼実はジョス・ウェドンも関与していた:

個人的には一番驚き、そして妙に納得したのがこの部分でした。

Joss Whedon was brought in to do uncredited re-writes for a few scenes, including the extremely brief encounter with Kronan (which was originally a much longer scene) and Loki briefly masquerading as Captain America in a hallway conversation with Thor. [IMDb]

ジョス・ウェドンもクレジットされなかったが幾つかのシーンのリライトを行った。そこにはクローナンとのものすごく短い対決(当初はもっと長いシーンだった)と、ロキが一瞬だけキャプテン・アメリカに変身してソーと廊下を歩きながら会話するシーンを含まれる。

なんと!

ジョス・ウェドンも関与していたんですね!

映画の序盤で一瞬で殺されるクローナン(巨大な岩のエイリアン)は本当は長い戦闘シーンが用意されていたけど、ソーに瞬殺されて、ファンドラルのとびきりのジョーク「次回はデカイ奴から倒そう」が追記されたということでしょう。

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ファンドラル「次回はデカイ奴から倒そう」

ロキがキャプテン・アメリカに変身するのはウェドンのアイデアだったようですね。アベンジャーズが大ヒットしたので、そことのつながりを強調する目的だったようです。まあここはウェドンに依頼するのがシンプルに考えて真っ当な話だと思います。

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ロキ「へい!真実について僕とアツく語らないか?」

この廊下を歩くシーンでは重要なポイントが2つあります。1つはロキが一般兵に変身している点です。この兵士は終盤で死を偽装してアスガルドに戻ってくるときの姿でもあるので、終盤のオーディンとの会話シーンが後からスタジオの意向で追加されたことを示しています。

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ロキ「これでどうだ?」

もう1つはロキがソーをシフの姿に変身させて「うおおお、セクシーやんけ」「てめえ殺されたいんか」と口喧嘩している点です。この手のセクシーをネタにした笑いはウェドン監督の十八番なので、まさに彼らしい演出だと言えます。まあ、これだけならまだ他愛のないレベルだと言えました。

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ソー「この姿ならお前を殺すことに何の痛みも感じないな」

問題なのは、次です。

Taylor said Marvel's The Avengers writer/director Joss Whedon rewrote several scenes in the film explaining, "Joss came in to save our lives a couple of times. We had a major scene that was not working on the page at all in London, and he basically got airlifted in, like a SWAT team or something. He came down, rewrote the scene, and before he got back to his plane I sort of grabbed him and said, 'And this scene and this scene?' And he rewrote two other scenes that I thought had problems." [Wikipedia]

テイラーは『アベンジャーズ』の監督脚本であるジョス・ウェドンがいくつかのシーンで脚本をリライトしたことを明かした。彼の説明では「ジョスは何回も僕らの命を救ってくれた。僕らはロンドンでうまくいかない大きなシーンを抱えてた。そしたら彼が飛行機でさっと来てくれるのさ、まるでSWAT部隊みたいにね。彼は降りてきて、シーンの脚本をさっと書き直して、それで彼がすぐまた飛行機で去ってしまう前に僕は彼を捕まえて言うんだ、『このシーンとこのシーンはどうすれば?』って。そしたら彼がすぐさま僕が問題だと思ってた2つのシーンを書いてくれるのさ。

ええええ?

飛行機で空輸される特殊部隊ウェドン!?

そこに駆け寄るテイラー撮影チーム。

「先生、ここはどうすれば良いでしょうか?😨」

「ふむ…シャシャシャシャッ!✍️」

「はあああ、先生ありがとうございます!これで命拾いしました!😂」

「うむ。それじゃあ僕はこれで…バラタタタッ🚁」

「先生!ありがとうございます!せんせーい!😭」

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ウェドン先生の飛行機を見つめる出演者たち?

マジでかっけえな!

ウェドン監督、人生の絶頂期だったんじゃないでしょうか。笑

なんか、、、仕事できない人ほど忙しいフリをするものなんですけど、この飛行機のくだりからその手のヴァイブスを感じるのは私だけでしょうか。笑

そう言われてみるとロンドンのグリーンウィッチでの戦闘はシリアスそうな見た目とは裏腹にちょくちょく陽気なギャグが挟まれます。ジェーンがダーシーを間違ってワープさせるテヘペロとか、イアンがダーシーを救って2人がいい感じになるとか、ソーが普通に地下鉄に乗り込むとか、地下鉄で女性がバランスを崩して寄りかかられたソーがニンマリするとかは、いかにもウェドンぽい笑いのセンスです。

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ロンドンの戦いが終わった後にカメラがロングショットになったときにキスしているダーシーとイアンのCGは少し不自然に浮いているようにも見えました。これは後からつけたした物かもしれません。

また、戦いの後日に皆でテーブルを囲んでシリアルを食べているのは、アベンジャーズのポストクレジットで皆でケバブサンドを食べているのと全く同じです。たぶんアベンジャーズでウケたから二匹目のドジョウを狙って入れたんでしょう。

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「ホッとしたらお腹が空くよね」という心理を利用した映画の定番テクニックです。

アベンジャーズ(2012)が大成功したお陰で、2012年当時ジョス・ウェドンはマーベルで大変重宝される存在になっていたのは間違いなさそうです。テイラー監督もどんなノリで発言したのか分かりませんが、命を何回も救ってくれたという言い回しからは少なくとも彼に感謝はしていそうですね。(それが彼が望んでいたかどうかは別として、会社に求められる作品に仕上げるためには助かったという意味で)

ただ私はこれを読んで気づいたのですが、あちこちにウェドンの筆が入っていたということは、セルヴィグ博士のアタマがおかしくなって全裸になったりズボンを履かない方が落ち着くようになったのはウェドンによるリライトだったのではないでしょうか。下図は、彼がジャスティスリーグで追加撮影したギャグをまとめたものですが、ギャグの方向性がそっくりなんですよねー。(こちらの記事でも詳しく解説

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↑ウェドンがDCEUにくれたもの。

思い返せば、地下鉄でよろける女性とそれを内心喜ぶソーも同じようなラッキースケベ的なユーモアです。テイラー監督の別作品である『ターミネーター 新起動/ジェニシス』ではこの手のユーモアは一切出てこなかったので、ウェドンによる追記だと考えてほぼ間違いないでしょう。

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この女性に「こういう表情をしろ」と誰が演技指導したんでしょうかねー。

▼ウェドンがMCUに利用されて捨てられるまで:

MCUを公開順に並べると、ウェドンの悲しい歴史が見えてきます。

▼Phase 1
2008.05: Iron Man
2008.08: The Incredible Hulk
2010.05: Iron Man 2
2011.05: Thor
2011.07: Captain America: The First Avenger
2012.05: Marvel's The Avengers(*)
▼Phase 2
2013.05: Iron Man 3
2013.11: Thor: The Dark World(*)
2014.04: Captain America: The Winter Soldier
2014.08: Guardians of the Galaxy
2015.05: Avengers: Age of Ultron(*)
2015.07: Ant-Man
▼Phase 3
2016.05: Captain America: Civil War
2016.11: Doctor Strange
2017.05: Guardians of the Galaxy Vol. 2
2017.07: Spider-Man: Homecoming
2017.11: Thor: Ragnarok
2018.02: Black Panther
2018.04: Avengers: Infinity War
2018.07: Ant-Man and the Wasp
2019.03: Captain Marvel
2019.04: Avengers: Endgame
2019.07: Spider-Man: Far From Home

- 太字は作風が明るい作品。
- *は特にウェドンの影響が強い作品。

List of MCU films を参考に作成

ここから私が読み取ったことは以下の通りです。

▼2012年のアベンジャーズは「前代未聞の奇跡の大当たり」だった。▼そこからマーベルはアクセルペダルをベタ踏みして作品を連発した。▼ユニバースであることを強調するためにフェーズ2以降は互いの登場人物をカメオ出演させて顧客の囲い込み戦略を強化した。▼作風が明るい複数名のクリエイター(ジェームズ・ガン、タイカ・ワイティティ、ペイトン・リード、ジョン・ワッツ)を新たに投入した。▼すでにプロダクションが進んでいたダークワールドも大幅にリライトした。▼一方でメインのアベンジャーズはシリアス路線でヒットさせたルッソ兄弟を中心に置いた。▼そして当初の目的(起爆剤)を達成した直後にウェドン監督はスパッと切った。(ウルトロン以降にウェドンの名前は一切出てきません)

いかがでしょうか。

同じライト路線でも、ウェドンのギャグが「話の腰を折るタイプ」の破廉恥なネタを多用するのに対して、ガンやワイティティやワッツは物語の中に自然に溶け込ませるのが上手くユーモアのセンスも上品です。他のクリエイターに比べてウェドンだけが笑いのセンスもストーリーの組み立ても数十年レベルで時代遅れというか。なんかノリが昭和っぽいというか。いまだに90年代の作風というか。よく言えばベタで親しみやすいのかもしれませんが。ただ個人的には、ウェドンと他MCU監督での教養とか映像クリエイターとしての手腕には圧倒的な差を感じます。

こうして年表を見ると、ダークワールドはアベンジャーズのトレンドが途切れないように、ファイギが作品の方向性を無視して急きょ強引にウェドン色をぶち込んだ印象がかなり強く、それで作品の評価はMCUでも屈指の低さなのですから、ユニバース化の被害を最も大きく受けた作品だと言えそうです。

そして全く同じことが起きたのがDCの『ジャスティスリーグ』でした。スナイダーが離脱したのを好機と言わんばかりに、ワーナーは急きょ強引にウェドンをぶち込んで彼に好きなように作らせて、結果は批評家からも一般層からも総スカンを食らうスーパー駄作になってしまいました。

しかし後年になってスナイダーカットがリリースされて『ジャスティスリーグ』の評価は180度ひっくり返って大絶賛されました。これを見たテイラー監督が、自身の構想通りのディレクターズカットを世に出したいと思うのは、かなり必然なことでしょう。

ちなみに2016年にDCに電撃移籍した後のウェドンについては別の記事でも詳しく分析しています。なぜアベンジャーズであれだけ良い作品を作れたウェドンがジャスティスリーグで大ゴケしたのか、その秘密を解き明かします。

なぜアベンジャーズでは成功してジャスティスリーグではしくじったのか」より

いやーしかし、2017年のウェドン監督のジョスティスリーグでの大失態の前兆が2013年のマイティソーダークワールドですでに現れていたというのは目から鱗でした。温故知新とはこのことですね。

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▼ナタリーポートマンMCU離脱もウェドンが原因か:

ダークワールドの出演を最後にナタリーポートマンはMCUから離れて、続くアベンジャーズエイジオブウルトロンでも現れず、ソーラグナロクでも出演はありませんでした。エンドゲームでソーが語ったように彼女とは恋人関係が終わっており、エーテル回収のために過去のアスガルドに飛んだシーンでポートマンの新たな撮影はなく、ダークワールドの未使用シーン(ベッドで目覚める場面)と残りはボディダブルを用いて撮影したようです。

あれ?

コレもしかして、、、

ウェドンが嫌だったからポートマンが離れた説、あるぞ!

ここから先は事実の記載ではなく、私の推測になるので、別の記事にしたいと思います。

気になった方はnoteでフォローするなど引き続きチェックしていただければ幸いです。よろしくお願い致します。それではまたお会いしましょう👋

了。

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