ジョス・ウェドン監督が『アベンジャーズ』で成功できた理由(『ジャスティスリーグ』では批判されるのに)
▼MCUとDCEUの垣根を越えるのは異例のこと
ジョス・ウェドンは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)とDCエクステンデッドユニバース(DCEU)の2つの巨大フランチャイズの壁を最初に越えた監督です。しかもそれぞれのユニバースの集合作品という「最も重要なタイトル」の第一作で監督しているという点でも大変珍しい監督であると言えます。
MCUとDCEUでメインキャストが被らないのは皆さんもよく知っていると思いますが、それは監督にも言えることでした。そして興味深いことに、ウェドンの後にも例が見られません。そのくらい珍しいことです。
2021年になって、ようやく「次にユニバースの壁を破る監督」が現れます。ジェームズ・ガン(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』)です。しかし彼でさえも、「若い頃のTwitterの問題発言が発掘されて炎上したため2018年にディズニー(=MCUの親会社)に解雇されたところを、ワーナーブラザース(=DCEUの親会社)が拾い上げた」から、この電撃移籍が成立したようなものです。つまりこのくらいの事故がないと、DCEUがMCUの看板クリエイターを招集することは本来できないのです。
▼ウェドンのDCEU第1作がまあ酷かった
詳しいことはこちらの記事に書いてあります。
本当は読んでいただきたいですが、簡単にまとめると
ただ感情的になっているのではなくて、シンプルに事実だけを見て分析的に批評しても、この結論に至ることを、記事をご覧いただければ、ご理解いただけると思います。
こうなってくると、ウェドンを選んだワーナーブラザースには見る目が無さ過ぎたと言わざるを得ません。
でも、なぜこんな判断ミスが生まれたのでしょうか?
▼なぜワーナーはウェドンの資質を見誤ったのか
ワーナーブラザースとしてもウェドンのカラーがここまで強烈であることは計算違いだったでしょう。でも2017年当時のウェドンは文字通りヒーローだったのです。
今ではウェドンの代表作である『アベンジャーズ』は2012年に公開されるまで、まったく前例がない壮大なプロジェクトの超重要なファーストステップでした。「『絶対に失敗するだろう』と誰もが口には出さないが腹の底では思っていたから頭が良い人や他作品で結果を出していた人は敬遠していた超大作」だったところに、ウェドンは捨て身の覚悟で監督・脚本して、それが奇跡の大ヒットになってしまい、名声が高まり切ったタイミングでした。
つまり悪く言えば「ラッキーパンチ」です。しかしそれを彼自身の実力だとワーナーブラザースは誤認してしまった。そして当時のワーナーブラザースは「DC映画はスナイダーのビジョンだから興行収入が伸びない」と結論づけていたので、多少の問題が出てもいいからとにかくスナイダーから脱却したい、スナイダーと異なるもので実績を作りたいと考えていました。
この2つのタイミングが重なってしまったことで、ワーナーブラザースはわざわざスナイダーを更迭してまで、ウェドンにフル権限を与えて自由に作らせることになりました。そして、結果はこれまでに書いてきた通りです。
しかし、なぜ『アベンジャーズ』では叩かれないのでしょうか?
MCUの親会社であるディズニーがメディアを統制している?いやいや、SNS全盛期のこの時代にそんなことができる筈はありません。ここは素直に、事実として、アベンジャーズは良い作品だからだと思います。
でも、そんなことがなぜ出来たのでしょうか?(この監督に)
▼本当の理由はディズニーの組織力である
根本的なタネ明かしをしましょう。ウェドンの酷さをワーナーが事前にキャッチできなかった理由。そしてアベンジャーズが良い作品に仕上がった理由。それはアベンジャーズではディズニーの鋭いチェックが入って、ウェドンの下品なギャグが全て却下されていたからでしょう。
アベンジャーズがあれだけMCUの命運をかけた重要な大作でありながら、映画監督としてはあまり有名でなかった彼が抜擢されたのは、当時はやりたがる人があまり居なかったからです。2010年ごろ、何十本の映画がユニバースで1つに繋がるなんて前代未聞すぎて、普通に考えれば敗戦濃厚でハイリスクすぎて誰も手が出せませんでした。
しかしディスニーとしては絶対に失敗したくなかったのでゴーストライターやあらゆる分野の専門家をチェック担当として総動員して、ウェドンの脚本をチームプレイで高品質なものに仕上げた、ということでしょう。ウェドンが仕上げた脚本にディズニーお抱えのスクリプトドクターが目を通してこう言うのです。「これは子供も観る映画では不適切なので変えてください。」一介の弱小監督だったウェドンに歯向かうことなどできる由もありません。
ところが2017年ごろに焦って方針転換をしていたワーナーブラザースにはそんな時間も人手も取れませんでした。当たり前です。こんなもの、どちらかといえばディズニーの組織力が異常に高すぎるのです。しかもこの頃までにウェドンにはアベンジャーズ2作品で得た名声がついてるし、DCからは「立て直しの先生」として招集されました。ウェドン自身も自分らしいユーモア(と言おうのも烏滸がましい破廉恥なジョーク)を封印され続けて、出したい欲求が最高に漲ったギンギンの状態だった筈です。
実際に『アベンジャーズ』を観るとアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)のキャラも助けてか、そこまで酷くは見えません。むしろスーパーヒーローがそういう庶民的な会話をするところがMCUのセールスポイントだったりします。唯一きわどいモノとして『アベンジャーズ2』でハルクがブラックウィドウの胸にラッキースケベする瞬間があるのですが、観客にはそこに至るまでにハルクの内気な恋を応援したい気持ちにさせているので、そこまで浮いた感じになりません。それによく見るとブラックウィドウがハルクを助けるために自分のところへ引っ張ったからあの体勢になってしまっただけです。あらためてディズニー王国の底知れぬ実力を感じます。
この投稿で私は最初に、MCUからDCEUへの移籍は異例なことだ、と述べました。でもよく考えてみると、優れたクリエイターは自分たちの会社だけで独占できるのが一番良いですよね。逆にスキャンダルのリスクが高い問題児を抱えておくのは優良企業としては避けたいことです。
もしかして、ジェームズ・ガンがスキャンダルを起こした時にDCにあっさり譲ったように、ディズニーはウェドンとも早く手を切りたかったんじゃないでしょうか?(※あくまで個人の推論ですよ)
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▼ウェドン含有率ゼロ%のスナイダーカットを見よう!
ここまで読んでくれたのは、アベンジャーズが好きでウェドンへのバッシングを快く思ってなかった方か、もしくはDCが好きでジャスティスリーグの失敗を残念に思いながらもDCに再起してほしいと願う方が多いかと思います。そんなアナタ、是非スナイダーカットを見ましょう!
スナイダーカットではウェドンが突貫工事で追加撮影した出来の悪いショットは一切出てきません。スナイダーカットではウェドンがアフレコで撮り直した酷い台詞やジョークは一切出てきません。
DCファンは自分たちが本当に観たかったものを観られて溜飲が下がる想いができますし、MCUファンはDCファンがどうしてあんなに怒っていたのか理解できるようになります(もしかしたらお気に入りの監督が一人増えるチャンスかもしれません)。
スナイダーが腕利きの撮影監督と作り上げた美しいショットと、スナイダーが最高クラスの脚本家と練り上げた緻密でエモーショナルな脚本と、スナイダーが全幅の信頼を寄せるミュージシャンが作り上げた音楽だけで構成された至福の4時間をお約束します。6つのパートに分かれているので休憩を挟みやすい親切設計にもなっています。笑
この記事を読んで誰かがスナイダーカットを見ようと思ってくださっても私には一銭も入りません。笑。ただ、皆さんに良い映画を鑑賞いただきたくて推挙させていただく次第です。
願わくば、皆さんに良い映画体験があることを。
了。