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飛んで香港…?(香港澳門#1)

「安かったから買っちゃった」
と、母がハムなどを買ってくることがある。
買わなかったら出費は0円なのだから、安かったから買うというのは妙な話だと思っていた。

だが、ついこの前、私自身も「安かったから」と、ある買い物をしてしまった。
香港までの航空券である。

はるかな旅へ

2020年以降、コロナウイルスの拡大でほとんどの人は海外と縁遠くなってしまった。
もちろん私もその1人である。

それが、状況が変わったのか、各国が痺れを切らしたのか、2023年になって、ある程度自由な海外渡航ができるようになった。

2019年までは毎年のように外国に行っていた。
もうそろそろ、いいんじゃないか。
というよりむしろ、ここで行かなければ、精神的にも出不精を拗らせてしまうのではないか。

だが、やはり4年もやっていないことを再開するのは簡単ではなく、色々と理由をつけては二の足を踏んでいるうちに、時間だけが過ぎていった。
最初に行く国は、やっぱりあの国だろうか、それともこの国だろうか、仕事が一段落ついたら長く休みを取ろうか…。

そんな中である。
多少まとまった休みが取れそうだったので、戯れに香港行きの航空券を調べてみた。

なぜ香港だったのか、理由は覚えていない。
おそらく、SNSでセールをやっているとか、なんとか目にしていたのだとおもう。
いずれにせよ、コロナ禍以降航空券がひどく値上がりしているとか、円安がひどいとか聞いていたので期待はしていなかった。

だが、蓋を開けてみると、往復で4万円ほどである。
下手すると(あくまで、下手すると、だが)、国内の航空券より安いかもしれない。
香港、これはアリなのではないか。

見たことのない、始まりの土地

だが本当に香港で良いのか。
最初の海外候補はもっといろいろあったはずだろう。

だが、冷静に考えると、私には「香港で良いのだ」という理由があった。

第一に、私は多くの若者の例に漏れず、『深夜特急』に誘われて旅に憧れを持った口だった。その『深夜特急』最初の土地が香港だった。

第二に、外国料理になんて興味がなかった私が、最初に入った店が「香港麺」の店だった。その経験が、世界中の料理への興味を目覚めさせた。

要するに香港とは、私を目覚めさせた何かだった。
それでいて、私が海外旅行狂いだった時代の香港はいささかきな臭く、「行きたいけれど、行かれない」という場所でもあった。

一度決めてしまえばなんてことはない。
昨年国内旅行で培った行動力と勢いと空元気で、ホテルをさがし、荷造りもすんでしまう。

とはいえ、かつては多少しゃべることができた英語も、三年間心の奥底で埃をかぶっている。
それに、出国して入国する、という単純な作業に少々怖気付いている自分もいる。

だが、何もかも仕方がないことである。
そう、言ってしまえば、これはリハビリなのだから。

出発

香港行きの「香港航空」は、朝9時半に成田から飛び立つ予定だった。
とすると、朝7時半には空港でチェックインしている必要がある。
二時間前、というのも懐かしい感覚だ。

朝4時に起きて、お湯を飲み、調子を整える。
テレビを横目に、「お前は今日から海外に行くんだぞ」とちょっと自分を脅かしつつ、身支度をした。
大体、5時に家を出れば間に合うはずだ。

5時5分前。
バックパックを引っ掴み、空港行きのバスへ向かう。
私にしてはなかなか余裕がある。
そう思いつつ最寄駅に着いてみて、私は愕然とした。

荷物が多いのは面倒なので、日本円は両替用に一万円札三枚だけしか持ち合わせていなかった。
あとはカードで、と思っていたのだが、どうやら切符はカードで買えないらしい。
一万円を切ってもいいのだが、正直、日本円の小銭をジャラジャラさせながら海外の街を歩きたくはない。
なんだか負けた気がする。

空港行きのバスは、隣駅から5時40分に出る。
現在時刻5時10分。
頭の中でどう計算しても、隣駅のバスターミナルまで徒歩で30分。
くそ、どうする。
こんなことで香港に行けないなんて…そんな情けないことあるだろうか。

私は隣駅に至る道を駆け出した。

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