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「エコー」と祖父と禁煙の思い出

かつて私は喫煙者だった。

元々は嫌煙家だったが、批判するなら一度は試してみるべきだろうと吸ってみたのが最初。その後は仕事のストレスを紛らわすように、タバコに溺れていった。

しかし数年前 taspoの導入で自販機による購入が面倒になり、値段も勢い良く上がってしまったのをきっかけにやめた。
最後の辺りはブラックストーンなどのキツいものを毎日一箱開けていたので、お財布事情もかなり辛くなっていた。だったら辞めてしまえとなってから5年以上経ったが、それ以来タバコを口にしていない。

タバコと無縁の生活を送る中、気になるニュースが今日になって飛び込んできた。お財布が辛い喫煙者の味方である「旧3級品銘柄」の「わかば」「エコー」「ゴールデンバット」が廃止になるのだという。
私自身は手にしたことのない銘柄だが、「エコー」には思い出がある。
亡くなった祖父が長いこと愛好していた銘柄だからだ。

最も古い思い出は幼稚園くらいの頃。
当時は子供が家族のタバコを買いに行くのが珍しくないゆるゆるな時代で、私も祖父に頼まれて近くの商店へ「エコー」を買うおつかいに行っていた。大好きな祖父に頼まれること自体が、私にとって名誉だったのだ。

ところがある日、いつものようにお店で買おうとしてお金を出そうとしたら、祖父に渡された千円札二枚分がない。
ぴーぴーと泣きながら帰ろうと横断歩道の前に立つと、反対車線の近くに止まった車から人が降りて何かを拾う様子が見えた。それが何を意味するかは、子供の私でも瞬時に理解して大泣きしながら祖父母の家に戻ったのだ。
祖父母は怒ることなく慰めてくれたけど、子供にとっての二千円は大金で、今でも申し訳ない気持ちを記憶の中に抱え込んでいる。

さらに数年が経ち、親戚の中で禁煙ブームが始まった。

父や叔父が一人ずつやめていく中、喫煙者は祖父だけになっていた。
その頃の祖父は少し不整脈の兆候が出ていたので医者からも禁煙を勧められており、皆からやめるべきだと言われていた。
親戚一同が集まっていた時、本人もうっかり「やめるべか」と口にしてしまったのが運の尽き。祖母は立ち上がると棚に置かれた手つかずの「エコー」1カートンを掴み、ご丁寧に水を掛けてからゴミ箱に投げ捨てたのである。

この行動に親戚一同は呆然。
祖母の気の強さは筋金入りで、そりゃあそうなるよなと子供心に私は納得していた。勿体ないとは思ったけど、それくらいやらないと祖父は禁煙をしなかっただろう。

実際それ以降祖父が「エコー」を買うことはなかった。

祖父が亡くなってから十年以上経ってしまったが、「エコー」を見かけるたびにこの二つの出来事を思い出すのである。
無くなる前に一度吸っておこうかなと思ったけど、再び喫煙者になるつもりはないので心の中とこのnoteに思い出としてしまっておこうと思う。


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