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サマージャム’24 (仮)

さっきマッチングアプリでスチャダラパー好きな女の人とマッチングして、そしたら急に思い出したから書く。

数年前まで「サマージャムはじめ」をやっていた。
読んでくれている人は何のことか全くわからないと思うので説明すると、それはまあ言っちゃえばただの外飲み、コンビニやスーパーマーケットなんかで各自酒とアテを買いこみ、路上でそれを喫食するあれで、でも通常のそれと違うところはBGMがスチャダラパーのサマージャム’95だと言う点で、その時集まった人間達がまだ今夏、自分のような埼玉生まれアーケード育ちナードそうな奴は大体友達、な奴らにとっての夏のアンセムたるその曲を聴いていないという状況下にのみ行われるイベント、という言い方は不適切だ、現象で、大抵それが起こるともうめちゃくちゃで、酩酊して帰路、記憶にない蕎麦や日高屋の野菜たっぷりラーメンを食うてたりする。
のだけれども、月並みな、紋切り型な言い方で断絶を表します今から僕は、コロナ以後、そういうふうにやれ夏だ、とか、誕生日だ、とか、適当な理由をつけて集まっていた酒友達となんとなーく疎遠になり、数年経った今でも自分はサマージャムをはじめられていない。忠義、という言葉は重すぎるが、なんか漠然と「いや、この曲はみんなで聴くっしょ」みたいな、謎な気持ちがあって、いや、それは己だけの感じている連帯感なのかもしれないが、そんな気持ちが確かにあって、ここ数年あの楽曲を聴けていない。
悲しいことであるよなあ、と思う。けれども、人生というのはそういうものなのかもしれない、なんて、わかったようなことを言ってみる。

ここまで書いたら過去の美しい思い出が膨大な量フラッシュバックしてきた。
感傷中毒者なのでいちいちそれに浸って、くっさい思い出を書き連ねることもできる、けれど、なんかそうはしたくないので、ひとつ、いちばん美しかったな、って思えるやつを書いてみる。

あれは多分二十歳になってすぐくらいだと思う。
バイト先のレコード屋で働いて、終わったら飲もうと約束していた高校時代の友達二人といつもの中華屋へ行った。
そこはいわゆる街中華、ってか確実にそれ以下の、よく地方都市の国道沿いとか、都内近辺でも駅前とかにはたまにある、クソしょーもない自称台湾料理屋で、象も卒倒するような濃さのレモンサワーが1杯税別200円、つまみの小皿が300円だったことから、金のない我々の憩いの場になっていて、全然行きたくない大学に進学して、うだうだ草吸うたり屁こいたりなんだりしていたHと、一浪して行きたい学部に行ったはいいが勉強をしたくなくなったSと、本当に真っ当にロックバンドで金を稼げると思っていた俺と、三人でそこで飲んだ。
三人とも飲み物はレモンサワーだった。卓上にはよく頼んでた八角の味しかしない焼豚、めちゃくちゃにきゅうりの多い棒棒鶏、あとは300円皿以外のメニューなはずの空芯菜みたいなんがあった気がする。
各々が各々の世界への呪詛を言い合い、傷を舐め合い、キャスターマイルドを吸い、信じられないアルコール濃度のレモンサワーを鯨飲し、安過ぎて近所の野良猫を使ってる、なんて噂されてた中華料理を大量に詰め込んだあと、へべれけになった我々は、大量飲酒後特有の行動力のせいか、全員がわけのわからぬうちに大移動をしていたようで、気がつくと、二駅先にある大きな公園のベンチに横たわって寝ていた。

朝。
足元にはブラックニッカの大瓶。ポケットのなかに見知らぬ柿ピーの空き袋と6Pチーズの銀紙。二日酔いではなかった。まだ酔っ払っていた。
そんな頭で、ああ、どうしよ、と思案しつつ、周りの二人を起こす。空は白み始めている。夏だからよかった。寒くない。ふと、同じような状況だった去年の10月を思い出した。秋だからといって舐めていたが、あの時はやたらと寒く、起きて関節が痛くなったのを思い出す。
とりあえず電車に乗ろう、帰ろう、その前にタバコを吸おう、ということになって、駅前の線路沿いにある喫煙所まで行った。三人とも同じ銘柄のタバコに火をつける。バニラの香りが俺たち以外誰もいない喫煙所を包んだ。そのままくだらない話をしていると、透明のパーテーションのなかだけは俺達の独立国家なんじゃないか、って思えた。

誰だったろう、肝心なところを忘れてしまったが、誰かがサマージャム’95を流した。

「今日も暑い一日になりそうです」

明け方五時頃、独立国家建設を記念して、二本目のキャスターマイルドに火をつけて、ぬるくなった残りの氷結で乾杯した俺達は、それからしばらく、始発も日の出も周囲の目も忘れて喫煙所で飲んだ。
線路に電車が通って、その瞬間、流れてたリリック通りにいい風が吹いた。嘘だと思うでしょう? でも本当の話。
あのとき、なぜか全員すごく笑った。シンクロナイズドじゃん、刃牙じゃん、とか言いながら、俺は、生きてるっていいね、って、そう思った。中華屋で吐いた怨念も呪詛もゲロも忘れて、ただひたすら笑った。通り過ぎた電車が乗りたかった始発だったことも忘れて。
その後、Hとはひょんなことから仲違いして疎遠になった。
Sとは今でも月に一回くらい会っている。

俺はいま、ベランダに立って、久しぶりにサマージャムをはじめようかと思っている。缶酒を飲んでいる。酔っぱらっている。
マッチングアプリを閉じて、Apple Music開いて、スチャダラパーって打ち込んで、そしたらサジェストの二つ目に、あった。サマージャム’95。
タップしよう、と思って、やっぱりやめた。
みーんなそそのかされたとて、絶対に俺は流されない。
強い気持ち強い愛でHに連絡。久しぶりにサマージャムやろ、っつった俺の顔に吹いてくる、あれ、なんかいい風。

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