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2020年上半期ベストトラックabout30


ドレスコーズ「ピーター・アイヴァース」

歴史上の様々な最高のポップスの影がちらつくフィルスペクター感のあるドラムで幕開けるこの曲では、「ああ ダメなぼくが また 盛り上がってる/ああ これをずっと待ってた気がする/うう 胸にヒット 赤い血がふきだす」と自信を持てない自分に変革を起こす「何か」に出会ってしまったスパークを描き出している。「これで死んだっていいような」と思えるくらいの「これ以上ない勘違い」を与えてくれるのは、この曲のようなどこか不格好で整いきってない、しかしオーラに満ちたものなのかもしれない。

Official髭男dism「I Love…」

今年もヒゲダンの勢いは健在。ホント編曲が楽しくてしょうがないな…。細かく刻まれるハイハット、シンセベース、二番のゴスペルライクなハンドクラップとリズムだけで煽るパート、、、Cメロにいくときに敢えてエフェクトかけた声で助走を作るところ…聴き所づくしで、ヒットしたドラマのタイアップだからというドーピング以上に楽曲の魅力に皆やられているのでは。「喜びも悲しみも句読点のない想いも 完全に分かち合うより 曖昧に悩みながらも 認め合えたなら」というのも真摯で優等生で流石…。MVもイイ。

chelmico「Easy Breezy」

まあ、もう完全に「映像研には手を出すな」という作品にやられたくちでして。そのOPとして起用されたこの一曲。完全にリリックの内容は「映像研」に響き合っている。「誰に頼まれたわけでもないのに 止まらね~筆」「見たもん 聞いたもん それ全部 血になる」「どうせやるなら めんどくさくなろうぜ」…まさにじゃん。つんのめるような早目のリズムも「止まらね~筆」感出ててイイ。

w-inds.「DoU」

クールなダンスナンバーをまたドロップ。フックの前にブレイクを入れて、ファルセットと指のスナップが印象的な「どうして~」のパートを入れてるのニクい~!橘慶太のクリエイターとしての冴えようが引き続き感じられる。三人の最後の作品としても一つ大きな意味のある作品として残っていくし、それに見合う優れた楽曲だ。

Base Ball Bear「EIGHT BEAT詩」

ここでガッツリ書いたので割愛。

Justin Bieber「Get Me」

たしかタナソーさんが「説明書を読んでも歌になるシンガー」的な評をしていたと思うけれど、まさにそんな印象だった。吐息交じりの「ha-ha-ha,you get me」ってそれだけでフックになるとは。最小限のトラックで彼の声を十二分に引き立たせている。和訳を見て、ふとRCサクセションの「君が僕を知ってる」が浮かんだ。

GEZAN「東京」

「今から歌うのは そう政治の歌じゃない」と始まるが、現在彼ら/俺らが暮らしている場所で確かに巻き起こっていること=「政治」を書き留める楽曲となっている。しかしながらリスナーである我々がこの曲を聴いてすべきことは歌詞を見て座り込み、難しく考え込むことではないだろう。このトライバルなリズムに体をゆだね、確かにフィジカルの伴った連帯を生むことこそがすべきことなのではないか。

cero「Fdf」

タイトルは歌詞にある「Flash,Disc,Flight」の頭文字をとったものと思われる。イントロから曲を通しておもちゃの光線銃の音が印象的に使われているが、そういったある種のチープなコズミック感は、ジャケットの鳥よけ用のCDや「Flash,Disc,Flight 今やこれもリアル Flash,Disc,Flight かたちなど捨てて行こう」という部分と響き合っているようにも思われる。

Mr.Children「Birthday」

四つ打ちのキックとアコースティックギターのストロークから音を重ねてって、ラストサビに高らかに飛翔してく感じがたまらない。「いつだって」「It's my birthday」という韻はシンプルだけど気持ちいい。歌詞の中ではバースデーケーキになぞらえて、「小さな炎をひとつひとつ増やしながら」「ひとつひとつ吹き消しながら」と誕生日を時の蓄積/時の経過の2つの表象として、各サビで表してるのが非凡だな、と思った。「否定しか〜吐き散らかして」の所も「大人としての言葉」を求められていて、それに上手に答える「大人の自分」を苦々しく描写していて超好き(「いくつになっても変われな」い自分がいることを認識しているからこその苦々しさ)。

スカート「標識の影・鉄塔の影」

このセンチメンタルにはしっかりヤラれてしまった。。「選ばなかった道はどんなところへ続いただろうか」「遮音壁の向こうで見たこともない夕暮れが街並みを染め上げる」といったifの世界への思いや、イマジネーションの中での夕暮れと街並みが染みる…。ちょっとだけ、海援隊「贈る言葉」的な情景だな、と思ったり。

サニーデイ・サービス「コンビニのコーヒー」

厚めに弾かれるギターの音も、ずーっと刻まれ続けるシンバルもイイ~。「コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい」というフレーズから始まるが、まさにこの「~ようでなんとなく…」というフィーリング!様々なものが安価でいい品質で得られるようになってきていて、確かにその恩恵を受けているのだけど「なんとなく…」という気持ちが滑り込んでくるんだよな…。そして「意味がなくたって生きていけるように祈ってる」とこの曲に書いてくれてありがとう~。

DAOKO「おちゃらけたよ」

「おちゃらけ」る時ってのは、そうしたい時よりもそうするしかできないような時、つまりネガティブなふるまいとして「おちゃらけ」ることを選択することが少なくないのかもしれない。トラックも歌い方もフックの「どんな気持ちで居たらいいんだろうね 外に出たら明るくて冷たくて おちゃらけたよ」という一節もそのフィーリングを十二分に掬い上げている。

tofubeats「陰謀論」

「陰謀論」とはまた…ポリティカルなそれか…?と思ったら「今夜は仕組まれていた誰かに」「全く気がつかないような手口で 永遠に踊らされていた」とクラブでの夜のことを描く内容となっている。ギターのカッティングも気持ちええ~。これに乗れずにいられるか。…って、ん?後半では「今夜は」のところが「この世は」と変わっている…。ひとまずこの曲に踊らされておくか…。

Thundercat「I Love Louis Cole」

もちろんサンダーキャットのうねりまくるベース、滑らかなボーカルも聞き所だけど、タイトルにも書かれているルイス・コールのパンクチューンかのようなトコスカと落ち着きのない、しかし的確なドラムがこの曲に関しては主役かもしれない。

lyrical school「OK!」

昨年のライブで披露されたタイミングでもガツンとクラった一曲だった。やりたいようにやらないと人生もったいないじゃんねーっていうバイブスの一曲。「死ぬまで生きてく Yeah!Yeah!Yeah!」ってのは「僕は死ぬように生きていたくはない」という中村一義名フレーズのシリアスさを抜いたver.といってもいいのかもしれない。ラストのhimeさんのパートもキマってるぜ~。

佐野元春&THE COYOTE BAND「エンタテイメント!」

公式の紹介文の通り、ガツンとしたビートロックを骨格にして、この曲を「嫌なことを忘れる」エンタテイメントに、とリスナーに寄り添う一曲。詞の中ではTwitter界におけるキッツいアレコレが描かれていたり「落ちていく星を見ていた夜 It’s just a entertainment.」という一節があったりするが、ここでの「エンタテイメント」とはそれらも含んでいるのかもしれない。シニカルに捉えると。だとして重くならないのは、このビート感とテンポの速さとポップ性ゆえのものだろうなあ。そして「奇妙なガス」のくだりはなんともビジョナリーな…。

ゲスの極み乙女。「マルカ」

2分半頃からの間奏が、ピアノと管楽器だけでなく口内で生み出したノイズを挟んだもので、そういう遊びの入れ方がたまらん好き。ラップパートの「空前の不幸せブームの背景は 政治家でも金でもない 圧倒的に足りなくなってる ハートフルな傷のつけ合いさ」の世相批評も芯を食っていてさすがだ。

ukka「恋、いちばんめ」

曲名はキャンディーズ感じる(「春一番」)し、楽曲はSMAP感あるポップかつファンキーさだしで外さなさバッチシだ。サビでの「ゆめ はな びら~」という歌の譜割りは乃木坂46「帰り道は遠回りしたくなる」の「ここではないどこかへ」でやってたトラップ的なものだよね。これまで自覚してなかった「恋」に気づきそれが「いちばんめ」に来ることで、これまで何となく受容していたものが特別な意味を帯びていく様をポップに描いた歌詞もステキ。

宇多田ヒカル「Time」

ハチャメチャにカッコいい。50秒からの10秒間に高いところからフェイク的に低いところへグワーンと移動するメロディもだし、二番のAメロの歌詞と歌い回し、「逃したチャンスは~」への展開もラストのリフレインも…と宇多田ヒカルのボーカル楽しみまくれる。ビートの鳴り方もメチャ好きなやつ。

THE NOVEMBERS「理解者」

鋼鉄感のある暴力的な演奏とプログラミングサウンド最高。そこに乗る歌詞は「何だって知ってるしわかってる 俺のことを 俺よりも」「これ俺の気持ちだっけ?これ俺の?ねえ」「あんたが噛んでくれたものばっか食ってたら 歯が抜けた」とある。これらは「宗教」のある側面を描いたものではないかと思った。特撮の「林檎もぎれビーム!」の「君が想うそのままのこと歌う誰か見つけてもすぐに恋に落ちてはダメさ「お仕事でやってるだけかもよ」」が浮かんでしょうがなかった。

藤井風「キリがないから」

ニューカマー来たな~という感じよね…。メロディや節回しに米津玄師やらが、色気には椿屋四重奏やらが感じられて新時代のハイブリッド感エグいっす。「ここらでそろぼち舵を切れ」の「そろぼち」とは?と思ってたけど「そろそろぼちぼち」の略か。

三浦透子「蜜蜂」

暮れなずんでいくリビングのようなアコースティックギターを基調としたトラックに、彼女のアンニュイな透明感・清涼感のある声が乗ってるというだけで〇なのだけど、そこに乗る歌詞では「暗がりでは誰より二人きりになる」など少しセクシャルな匂いのするフレーズが並んでいて、そのかみ合い具合ったら◎です。

森山直太朗「最悪な春」

まさにこのコロナ禍の最中に、御徒町凧によって書かれた歌詞に森山直太朗が曲をつけて生まれた曲。彼(ら)のベースなスタイルである弾き語りの曲で、その意味では新鮮さに乏しいとも言えるが、今セレクトするならどうしても入ってしまう。「最悪なのになぜ お腹ばっかり減るんだろ」とタイトルの重々しさをスルリとかわす軽みをもったフレーズをサビに持ってきてはいるが「どこからどう見ても どこをどう切っても これは最悪な春 最悪なこの春をきっと 僕は僕らは忘れないだろう」という世界で何億人もの人が間違いなく思っている側面も真正面から描いている。

SEKAI NO OWARI「umbrella」

ビニール傘を擬人的にストーリーテリングしてる歌詞面白いな。いやー、もう、張らないボーカルのメロディが素晴らしい。『EYE』のエッジーかつダークなものとも、『LIP』のソフトかつキャッチーなものとも違う、また新たな地平へと歩みだしている。

SCANDAL「Living in the city」

もう世代的に彼女らと言えば「瞬間センチメンタル」で、近年のバンド感強めている活動も何となく見て/聞いていてはいたのだけど、これは驚いた。近年の活動の印象とは異なるヒップホップ的なループ性の強いトラックにラップ的な平歌パートに派手すぎない平熱なサビ。宅録音限であり、この音の手作り感もグッとくる。

MELLOW MELLOW「最高傑作」

「メインストリートは朝7時」とかなり迷ったけど、こちらをセレクト。小西康陽提供曲。彼の3人組アイドルへの提供曲といえばNegicco「アイドルばかり聴かないで」だと思うけれど、やっぱツボを外さねえなぁ~!早いギターカッティング、効果的に挟まれる金管楽器に高揚させられる。少しリズムを食って「いーーーーま目の前に」と入る最後のパートの入り方も超好き。

RYUTist「ALIVE」

彼女たちの今年リリース曲は柴田聡子提供「ナイスポーズ」、パソコン音楽クラブ提供「春にゆびきり」含めイイ楽曲ばかりなのだけど(これまでのシングル表題曲も収録される次のアルバム『ファルセット』、確実に傑作になるでしょ…!)、この曲のインパクトは尋常じゃなかった。蓮沼執太フィル提供のこの曲は、南波さんがツイートしていた通り、快い速さの春風吹き抜けるような爽やかな大曲となっている。語りのパートはちょっとだけ口ロロ「00:00:00」とか浮かんだ。曲提供者の味も爆発してるけど、結局6分辺りでフィーチャーされる4人の声の重なりの魅力に尽きるのではないかなと思う。

降幡愛「CITY」

この楽曲に込められた熱量の高さや楽器云々に関してはナタリーの記事に詳しい。しかし、一聴して刺さって仕方ない完璧に作りこまれた80sサウンドと、ネオンサインがボンネットを滑っていくかのような夜と明かりと彼と彼女が織りなす「city」を描いた降幡愛自身が書いた詞のマリアージュぷりったらない。

Summer Soul「Tinder(Feat.JUSTHIS)」

全く予備知識なく「あ、ceroの曲名と同じアーティスト名だな。アジアの女性アーティストか?」くらいなもので聞いてみたのだけど、射抜かれたなー。平熱というよりも低温なボーカルでアゲに行かないメロディ、それとは対照的な客演のまくしたてるラップ、音をなるべく抜く方向で作られたトラックもどれもこれもビビッときた。

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