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占い師が観た膝枕 〜男たち大集合編〜

※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】から生まれたアレンジ作品です。

◆新年最初の作品なので、特番っぽく創ってみました(笑)

今井雅子作「膝枕─マメな男」を元にした二次創作ストーリー、◉占い師が観た膝枕〜カレーうどんの男編〜 ◉占い師が観た膝枕〜宅配の男編〜 ◉占い師が観た膝枕〜リケジョの受難編〜 ◉占い師が観た膝枕〜ワニと箱入り娘編〜

の内容が絡んでおります。

一緒にお楽しみください☺️

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出てくる登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️

できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)

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サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕 〜男たち大集合編〜」


太陽が沈む瞬間。
空を巻き込むように、急に冷たい風が吹き始める。夜がやってくる合図だ。

冬は、青とオレンジと灰色のグラデーションを楽しめる時間が短い。
だからこそ、この瞬間の風は、冷たくなった誰かの背中を押す勢いがある、と、占い師は思っている。

占い師は外灯をつけながら、先ほど背中を押されてやってきたお客様の後ろ姿を繁々と眺めた。


絶対、今、カレーうどんを食べて来た。

部屋に入ってきた途端に漂ってくる、この、鰹出汁とカレーが混ざった匂い。

「いやぁ、驚きましたよ。いきなり『しーちゃん!?』って飛び付いてくるから」

『それで、お名前は?』
カレーうどんの匂いをまとってきた男は、背負子を背負ったまま、職務質問をするように横の男に問いかけ、受付表にペンを走らせている。

その背負子に上品に座っているのは、女の腰から下が正座の姿勢で座っている、おもちゃのようなモノ。それを膝枕ということを占い師は知っていた。

「ふりがな、間違っていませんか?」
カレーうどんの男は、真剣そのものだ。

占い師は、受付表を指差しながら「あなたの事ですよね?」と言うように、横で呆然と立ち尽くしている男の前に手の平を差し出した。

男はコクリと小さく頷く。

「はい。飛び付いたのは私です。そっくりだったから…。でも、しーちゃんでないことには、すぐに気付きました」

と、男は背中を丸めたまま、しょぼくれた様子でボソボソと呟いた。

「それで、探しているのは、白いレースをあしらったスカートを履いた膝枕でしたよね?……あっ、住所と電話番号教えてください」

受付表を書いている男が、漢字4文字のトメ、ハネ、ハライをきっちり守り、書き上げるのに113秒かかる事を占い師は知っている。

この、カレーうどんの男はそれだけ有名な男なのだ。

「膝枕ちゃんが突然いなくなっただなんて…。僕だったら絶対耐えられない。かつて味わったことのない、吸いつくようなフィット感で結ばれた仲ですよ?彼にとっては片割れですよ?絶対探さなくちゃ…」

受付表を書きながら、手元が震えている。『自分だったら』を想像して泣いているのだろうか。

占い師は、また「あなたの事ですよね?」と言うように、横のしょぼくれた男の前に手の平を差し出した。

男がコクリと小さく頷く。

「探してるって、じゃあ、あの子はもう、あそこにはいないのか!?」

突然、裏からもう一人の男が血相を変えて飛び出してきた。

先ほど荷物を届けに来た宅配の男だ。

この二人の男が入ってくるのを見て、なぜか占い師に向かって人差し指で自分の口元を押さえて見せながら、奥のテーブルに身を隠していたのだ。

「まさか、また捨てたんじゃないだろうな!」

宅配の男は、しょぼくれた男の胸ぐらを掴んでグイと、持ち上げた。

『また』という言葉を聞いて、占い師の脳裏に『びしょ濡れで段ボール箱を抱えている宅配の男の姿』が浮かび、思わず「あー」と声が漏れた。

「す…捨てたんじゃない…捨てられたん…で…す…」

突然、防災行政無線放送の『夕焼け小焼け』が鳴り出し、それに合わせて近所の犬が遠吠えをじめる。

「そ、そうなのか。悪かった」

手を離した宅配の男の声が、一瞬明るくなったのを占い師は聞き逃さなかった。

「それで、何日の何時何分にいなくなったんですか?目撃情報は?」

そんなやり取りをよそに、カレーうどんの男は受付表のメモ欄にまで書き込み始める。

占い師は、また、しょぼくれた男の前に手の平を差し出し、軽く首を傾げる。

男は一度コクリと小さく頷いた、が。

「あ、いえ。探しているわけじゃないんです。今、どうしているかなって…」

と、慌ててかぶりを振った。


突然、会話を遮るように、カレーうどんの男のスマートフォンがリズムを刻んで鳴り出す。

同時に、背負子で静かに座っていた膝枕が慌てたように膝頭を上下に動かしはじめた。

「おおっと。エントリーが発表される時間だ」

カレーうどんの男は『ちょっと失礼します』と、背負子から膝枕をおろすと、自分の膝の上に乗せ、スマートフォンの画面が一緒に見れるようにした。膝枕は膝頭をパチパチ合わせながら嬉しそうに跳ねている。

「なんでも、初の膝枕アイドルグループ結成企画の公開オーディション番組に、この子の同期の子が出るらしいんです」

『あっ!出た!』カレーうどんの男は、膝枕と一緒にチェックをはじめた。

「膝枕の…オーディション?」

流れで、しょぼくれた男と宅配の男も画面を覗き込み。

「し、しーちゃん!」
「あ!この子!」

と、同時に驚きの声を上げた。

「え?この子ですか!?この子が同期の子ですよ!」

えーっ!凄い、凄い!奇遇ですね!
と、膝枕を交えた男3人が手と膝を取り合ってワイワイと盛り上がる。

「良かった、良かった。幸せならいいんです。僕は」

『しーちゃんに投票しなくちゃ』と、しょぼくれた男は涙ぐみながら嬉しそうに自分のスマホで検索しはじめた。

「わかる、わかる!なんだ、おまえ。すっげー良いヤツだな!」

宅配の男は、飛び上がって、しょぼくれた男に抱きついた。

そんな男たちの背中越しに、手土産を持って入りかけたリケジョが、慌ててドアを閉めるのを、占い師は見たような気がした。

冷たく乾いた風だけが男たちの間をそっと吹き抜けていった。


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