占い師が観た膝枕 〜春の嵐編〜
※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。
3/26の膝枕リレー300日記念の為に書き上げたものです。(アップするのは0時回ってしまいましたが。汗)
膝枕ナビ子『ナビ主さんは異常です』の巻に出てくるナビ子さんが大好きで(笑)
300日記念にはマイペースなナビ子さんとワニを絡ませたいと思っておりました。
ちょっと欲張りすぎた感が出てしまいましたが、記念日という事でお許しください!
今井雅子さん作の「わにのだんす」に出てくるワニが出てくる外伝、占い師が観た膝枕〜ワニと箱入り娘編〜、さすらい駅わすれもの室 本を読む彼らのお年玉編、そして、チラッと占い師が観た膝枕〜マメな膝枕編〜(笑)に関わる話しとなっております。
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登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️
できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)
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サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕 〜春の嵐編〜」
鑑定所の旗がバタバタと音を立ててはためく夜。
夜の空は雲が見にくい。ただ、旗の音と、戸が開くたびに入ってくる雨の匂いが、嵐の訪れを知らせてくれる。
扉を開けると、店先に壊れたビニール傘が引っかかっていた。傘の骨が折れていて、グニャリと曲がりながら標識に絡みついている。占い師は、やっとの思いでそれを外し、看板と一緒に中に引きずり込んだ。
雨というのはいろいろなものを運んでくる。
おまけに突然降り始める雨というのは、招かざるものを連れてくることがあるので特に注意が必要だ。
「ナビ子です。ヴァージンスノー膝が自慢のナビ子です」
占い師はお茶を二つ、テーブルに置くと、ゆっくりとした動きで椅子に腰掛けた。
占い師の前にいるのはワニ。といっても、動物園で見るようなワニではない。赤のハットを被り、黄色のジャケットを羽織って足を組んで座っているワニである。
「ナビ搭載膝枕、ナビ子です。あなたの人生をナビゲート。ナビ子です」
そして、そのワニの横で正座で座っているのは、女の腰から下しかない、おもちゃのようなモノ。それを膝枕ということを占い師は知っている。しかし、話すバージョンを見るのは初めてだ。
「お話しする膝枕もあるのですね」
占い師は受付票を差し出しながら、いつもの調子でカードを広げはじめた。
「驚かないワニか?」
「何が、ですか?」
占い師はキョトンとした顔でワニを見る。
「そうワニか」
ワニは、湯呑みを口に傾け『アチッ』と顔を歪めると、
立ち上がる湯気を手でバタバタ仰ぎはじめた。
シャッターを閉める音が慌ただしく響きだす午後9時。商店街の店の約8割が閉まる時間。傘を飛ばされたのか、酔っているのか。騒いでいる若者たちの声が効果音のように混ざってくる。
「この子は、さすらい駅のわすれもの室に届けられた、わすれものワニ」
やっとお茶をひと口飲めたワニは、背中を丸くして椅子にもたれかかった。
「ナビ子はお届けものではありません。わすれものでもありません。ナビ子です」
横で膝枕が膝頭をカタカタ動かしながら揺れている。どうやら静かに抗議しているようだ。
「本人がそう言うワニから、とりあえず一緒にいるワニ」
ワニは、子供をあやすように膝枕の膝をポンポンと軽く叩く。
「ナビ子です。この方がナビ主さんですか?」
「違うワニ。この方は占い師さんワニ」
「裏の石は3メートル先です。ナビ子です」
「届けられたのはいいワニけど、こうしてずっと喋っているワニ」
ワニは受付票に大きく「ワニ」とだけ書いている。
「ナビ子はお届けものではありません。ナビ子です」
「で、今日はこれを観て欲しくて来たワニよ」
ワニは黄色のジャケットの内ポケットから、おもむろにちいさなポーチを取り出した。
てっきり膝枕の相談だと思っていた占い師は「そっちかよ!」と、心の中で軽く突っ込む。
「このポーチの柄の蝶が、時々居なくなるワニよ」
ワニは様子を伺うように横目で占い師の方を見た。
「なるほど。今日は蝶は『居る日』なのですね」
占い師はポーチをジッと見つめる。
その、薄ピンク色の細長いポーチには、鮮やかなアゲハチョウが描かれていた。
このアゲハチョウ、どこかで見たことがある、と、占い師は軽く首を傾げた。
「怪しまないワニか?」
「何が、ですか?」
占い師はキョトンとした顔でワニを見る。
「そうワニか」
ワニは、横を向きながら顔の片方をキュッとしかめた。
「右5メートル先には石頭です。ナビ子です」
「で、このポーチもわすれものワニ」
「ナビ子はわすれものではありません。ナビ子です」
ワニはあやすように膝枕の膝をポンポン軽く叩く。
「きっと、落とし主にとって大事なものワニ。蝶がそれを教えようとしている気がして、なんか気になるワニ。ワニの勘、ワニ。」
…ワニの勘。ワニ缶。
そんな事を思いながら、占い師は、目を見開いて膝枕の方を見た。
「10メートル先には病院があります。ナビ子です」
残念ながら、膝枕は石から離れていなかった。
占い師は軽くため息を吐くと、目の前にあるカードを両手で混ぜはじめた。
『あー。病院には医師、がいるワニな。上手いこと言うワニ』ワニが口を縦に開けて笑う。その瞬間、占い師の鋭い視線がワニの舌に向けられる。
それに気付いたワニは、慌ててお茶を飲むふりをして横を向いた。
「わすれもの、ではなくて『預けもの』と出ています。そのままで大丈夫なようですよ。落とし主も、その蝶もわかっているようです」
カードの並びを読み解きながら、占い師の脳裏に、この部屋の中でヒラヒラ舞うアゲハチョウの姿が浮かぶ。
同時にポーチに描いてあるアゲハチョウを見て、思わず占い師の口から「あー」と、声が出た。
「ところで、そのポーチの中には何が入っているのですか?」
「『歯ブラシセット』ワニ。女性用ワニかな」
雨風が強くなってきた。
窓を叩くリズムが激しくなり、春の嵐は店の中にいる人を外から強引に閉じ込めようとしている。
「ここから最も近い石田家は20メートル先です。有料道路を利用しますか?ナビ子です」
「20メートル先で高速道路は使わないワニよ。ナビ子ちゃん、サービスエリアで何か食べたいワニか?」
ワニはあやすように膝枕の膝をポンポン軽く叩く。
「あー。焼き肉が食べたくなったワニー」
『そうですね』と、占い師は軽く返事をしながら、カードを片付けはじめる。
「ナビ子です。さすらい駅に帰る道をナビゲートしますか?ナビ子です」
ワニはくるりと膝枕に背を向けると、口に湯呑みを傾けながら、BGMに合わせてシッポをバンバン床に打ちつけた。
それに合わせて、ポーチのアゲハチョウの羽が少しだけヒラリと動いたのを、占い師は見逃さなかった。
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