見出し画像

1979年頃のニール・ヤング

 〈聞くやつが、読むやつがどう思うかは知らない。けれど、文句は言わせない。「おまえも、やれば?」ってね、言ってやる。〉(『矢沢永吉激論集 成りあがり』)

 〈第一級の詩人、役者、音楽家、画家、歌手や、偉大な舞踏家、情愛こまやかな恋人、真の信心家といった、狂熱的で情念に満ちた人びとはすべて感受することにおいて強烈で、反省することにおいては微弱である。〉(『俳優に関するパラドックス』 ドゥニ・ディドロ)

 1968年についての議論はいまだ絶えず、1980年代について語るにはより相応しい人々がいるし、1973年のピンボールについては既に書かれているという理由で、日本人がビージーズやYMOをウォークマンで夢中になり始めた1979年にカナダ出身のロック・ミュージシャン、ニール・ヤングが発表したアルバム『ラスト・ネヴァー・スリープス(Rust Never Sleeps)』を論じようとするわけではなく、ただこのアルバムの重要性がいまだに理解されていない現状の中、私論を示すことで、良い音楽は生まれないにしても雑音が少しでも減ってもらえたらいいという淡い期待を抱いているのではあるが、早々と結論を述べてしまえば、この時ニール・ヤングはロック・ミュージックに対する批評を拒絶したのだと批評することになるこの文章に意味があるのかという疑念を孕みながら、だからこれを“試論”として賭けてみたい誘惑を抑えきれずに書き綴っているのだが、当然ここまで文字を目で追ってきた読者が気になっている文体の選択は、文学を論じる際に使われる文体でロック・ミュージックも論じられるだろうという多少の悪意のようなものもあることは隠し切れないでいるのだが、取り合えずここらへんで前置きは終わるとしよう。

 まず、『ラスト・ネヴァー・スリープス』でパンク・ロックへのオマージュ、特にセックス・ピストルズ(Sex Pistols)のヴォーカリスト、ジョニー・ロットン(Johnny Rotten)(=ジョン・ライドン(John Lydon))が言ったといわれている「ロックは死んだ」という言葉のアンサーソングと受け止められた最初と最後の曲「マイ・マイ・ヘイ・ヘイ」と「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ」を以下訳出してみよう。「マイ・マイ・ヘイ・ヘイ」の最初のフレーズは1951年4月19日、アメリカ議会上下両院合同会議での演説の締めくくりで、アメリカの元師で連合国軍最高司令官だったダグラス・マッカーサーが口にした「老兵は死なず、ただ消え去るだけ(Old soldiers never die, they just fade away.)」というフレーズが元ネタだと言えば日本人にはわかりやすい。

「My My, Hey Hey(Out of the Blue)」
Words & Music by Neil Young & Jeff Blackburn

My my, hey hey
Rock and roll is here to stay
It's better to burn out
Than to fade away
My my, hey hey

Out of the blue and into the black
They give you this, but you pay for that
And once you're gone you can never come back
When you're out of the blue
And into the black

The king is gone but he's not forgotten
This is the story of Johnny Rotten
It's better to burn out than it is to rust
The king is gone but he's not forgotten

Hey hey, my my
Rock and roll can never die
There's more to the picture
Than meets the eye
Hey hey, my my

「マイ・マイ・ヘイ・ヘイ(アウト・オブ・ザ・ブルー)」
ニール・ヤング/ジェフ・ブラックバーン

俺の”ヘイ(My hey)”(と呼ばれるカントリーダンスは古臭いが)
ロックン・ロールはここにある
ロックン・ロールは衰えるくらいなら
燃え尽きるべきなんだ
(俺はこのカントリーダンスを円舞する)

突然(out of the blue)恩恵を得た(into the black)
ミュージシャンたちはおまえにそれ(ロック)を与えるが
おまえはそのために苦しむ
おまえが突然成功する時
一度おまえが売れてしまえば二度とおまえは元には戻れない

天下をとった人間が死んでも誰も彼を忘れはしない
これはジョニー・ロットンの話だ
さびるくらいなら燃え尽きるべきなんだ
天下をとった人間が死んでも誰も彼を忘れはしない

そうだろう?
俺のロックン・ロールは死ぬことはできないんだよ
ロックン・ロールは見た目以上にリアルなものなんだ
そうだろう?

 何故ニール・ヤングが自分のロックを”ヘイ(hey)”という8の字形の輪になって大勢で踊る昔のカントリーダンスに例えているのかは言うまでもない。パンクが生み出した、同じ場所で一人でジャンプを熱狂的に繰り返すポゴ・ダンス(pogo dance)を意識しての上なのだが、この曲はパンク・ロックだけに向けて歌われたわけではない。1977年8月16日のキング・オブ・ロックと呼ばれたエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)の死がなければ、この曲は生まれなかっただろう。

「Hey Hey, My My(Into the Black)」
Words & Music by Neil Young

Hey hey, my my
Rock and roll can never die
There's more to the picture
Than meets the eye
Hey hey, my my

Out of the blue and into the black
You pay for this, but they give you that
Once you're gone, you can't come back
When you're out of the blue
And into the black

The king is gone but he's not forgotten
Is this the story of Johnny Rotten?
It's better to burn out 'cause rust never sleeps
The king is gone but he's not forgotten

Hey hey, my my
Rock and roll can never die
There's more to the picture
Than meets the eye

「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ(イントゥ・ザ・ブラック)」
ニール・ヤング

どうだい?(Hey hey)
俺のロックン・ロール(my rock and roll)は死ぬことができないんだ
ロックン・ロールは見た目以上にリアルなものなんだ
そうだろう?

突然恩恵を得た
おまえはその(ロック)ために苦しむが
(そんなことを知らない)おまえのファンたちはおまえに称賛をおくる
おまえが突然成功する時
一度おまえが売れてしまえば二度とおまえは元には戻れない

プレスリーは死んでも誰も彼を忘れはしない
これはジョニー・ロットンにも当てはまる話なのか?
”ラスト(さび)“は決して眠らないからそれは燃え尽きるしかないんだ
プレスリーは死んでも誰も彼を忘れはしない

そうだろう?
俺のロックン・ロールは死ぬことができないんだよ
ロックン・ロールは見た目以上にリアルなものなんだ

 実はパンク・ロックにいち早く反応したのはニール・ヤングではなく、1976年10月、セックス・ピストルズがデビューシングル「アナーキー・イン・ザ・UK(Anarchy in the UK)」をレコーディングしていた同じスタジオでレコーディングしていたクイーン(Queen)だった(ちなみに自伝で、クリスチャン・スクールの先生たちにとって、天敵リストの第一位はクイーンと書いているのは、ヘヴィ・メタル・バンドのマリリン・マンソン(Marilyn Manson)のヴォーカリスト、ブライアン・ワーナー(Brian Warner)である)。セックス・ピストルズがデビューアルバム『勝手にしやがれ!!(NEVER MIND THE BOLLOCKS)』を出した1977年10月、クイーンは6枚目のアルバム『世界に捧ぐ(News Of The World)』を発表し、その中から「ウイ・ウィル・ロック・ユー(We Will Rock You)」というパンクな曲を発表する。この単調でリズムと曲展開は『勝手にしやがれ!!』のどの曲よりもパンクで、かつ今もなお毎日のように世界のどこかのスタジアムで流れている。しかし残念ながら「ウイ・ウィル・ロック・ユー」はパンクっぽくはあってもパンクではない。何故ならクイーンは何をしようと結局はロック界の”エリート(上流階級)“だからである。例えば、ザ・フー(The Who)のデビュー曲「アイ・キャント・エクスプレイン(I Can't Explain)」と比べるならば、ザ・フーの演奏の方が圧倒的に迫力がありパンクっぽいと言われるが、ぞれは当然の話であって、ザ・フーは4人全員がミュージシャンとしてエリートなのだから、ミュージシャンとして「素人」のピストルズと、ミュージシャンとして比べることが間違っているのだが、この「間違い」を引きずり出したことが、つまりロックを「非エリート」に取り戻したことがパンク・ロックの意義なのである。
 しかしここでパンク・バンドは矛盾を抱えることになった。いくら素人のミュージシャンであっても何度も演奏を繰り返せば必然的に上手くなり、やがて彼らは彼らの嫌いなエリートになってしまうのである。多くのパンク・バンドはそのように上手くなっていきエリートとなったが、セックス・ピストルズはまるでエリートになることを避けるように、ベーシストで曲作りの中心にいたグレン・マトロック(Glen Matlock)が抜けて、代わりにベースが弾けないシド・ヴィシャス(Sid Vicious)がベーシストとして加入し、特異なヴォーカリストのジョニー・ロットンが抜けると、彼の代わりに列車強盗で指名手配されていたロナルド・ビッグス(Ronald Biggs)や素人同然のエドワード・チュ―ダーポール(Edward Tudor-Pole)を加入させたりしながらも結局は消滅してしまう。このことがファンから顰蹙をかったとしても、セックス・ピストルズが同時期のパンク・バンドの中では言動も含めて一番パンクだったのではないだろうか。ジョニー・ロットンはピストルズを脱退すると改名し、パブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd)というロック・バンドを結成する。この有限会社のようなバンド名は”マイ・ジェネレーション“として組織できないパンクとしてのロック・バンドの不可能性と、その後のビジネス化を暗示させる。
 このようにセックス・ピストルズはパンク・バンドとして成功したことで失敗した。1979年、ニール・ヤングはパンク・ロックとエルヴィス・プレスリーの死を歌うことで、1980年以降のロックミュージシャンの”ラスト化“を断言した。この断言は1976年にイーグルスが発表した「ホテル・カリフォルニア(Hotel California)」におけるカウンターカルチャーとしてのロックの敗北宣言に匹敵するものがあったが、「ホテル・カリフォルニア」のようには大衆に理解されなかった。しかしこのニール・ヤングの断言を理解し、ロックの”ラスト化“に抵抗したロックミュージシャンがいた。その試みを仮に”パンク・パンク“と呼んでみたい。あえてパンクには見せず、ほとんどの人に気づかれないのであるが、実際はパンクしているというアプローチである。
 1980年5月、イギリスのプログレッシヴ・ロックバンドのジェネシス(Genesis)の創設メンバーでヴォーカリストだったピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)はソロとして3作目の『ピーター・ガブリエルⅢ(Peter Gabriel III)』を発表した。ジェネシス時代から独特の音楽を模索してきた彼は、ここでもプロデューサーのスティーヴ・リリーホワイト(Stephen Lillywhite)と共にスネア・ドラムにゲイト・エコー処理などを施しながら新しい音を提供している。今でこそ名盤として扱われているこのアルバムだが、発表当時は所属レーベルのアトランティックから評価されなかったために、マーキュリーから発売したという経緯を持つ。しかしここでは音ではなく詞に注目したいと思う。ちなみにこの曲が収録されている『ピーター・ガブリエルⅢ』と1990年にリリースされたベストアルバム『シェイキング・ザ・トゥリー(Shaking the Tree: Sixteen Golden Greats)』では詞が一部違っているのだが、オリジナルを尊重して『Ⅲ』の方のヴァージョンを取る。

「Games Without Frontiers」
Words & Music by Peter Gabriel

Jeux sans frontières
Jeux sans frontières
Jeux sans frontières
Jeux sans frontières

Hans plays with Lotte, Lotte plays with Jane
Jane plays with Willi, Willi is happy again
Suki plays with Leo, Sacha plays with Britt
Adolf builds a bonfire, Eorico plays with it
 - Whistling tunes we hide in the dunes by the seaside
 - Whistling tunes we're kissing baboons in the jungle

It's a knockout

If looks could kill they probably will
In games without frontiers - war without tears
If looks could kill they probably will
In games without frontiers - war without tears
Games without frontiers - war without tears

Jeux sans frontières
Jeux sans frontières
Jeux sans frontières

Andre has a red flag, Chiang Ching's is blue
They all have hills to fly them on except for Lin Tai Yu
Dressing up in costumes, playing silly games
Hiding out in tree-tops, shouting out rude names
 - Whistling tunes we hide in the dunes by the seaside
 - Whistling tunes we're pissing baboons in the jungle

It's a knockout

If looks could kill they probably will
In games without frontiers - war without tears
If looks could kill they probably will
In games without frontiers - war without tears
Games without frontiers - war without tears

Jeux sans frontières
Jeux sans frontières
Jeux sans frontières
Jeux sans frontières......

「ゲーム・ウィズアウト・フロンティアーズ」
ピーター・ガブリエル

キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム

ハンスはロッテと遊び、ロッテはジェーンと遊ぶ
ジェーンはウィリーと遊び、ウィリーはまた楽しい
スキはレオと遊び、サシャはブリットと遊ぶ
アドルフが焚火をたくと、エンリコはそれで遊ぶ
 口笛を吹きながら、僕たちは海沿いの砂浜でかくれんぼ
 口笛を吹きながら、僕たちはジャングルのヒヒとキスをしている

それはとても素敵なこと

もしも容貌が人を参らせてしまうことができるのなら、たぶんそうするだろう
境界の無いゲームにおいて ー 涙を必要としない争い
もしも容貌が人を参らせてしまうことができるのなら、たぶんそうするだろう
境界の無いゲームにおいて ー 涙を必要としない争い
境界の無いゲーム ー 涙を必要としない争い

キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム

アンドレは赤い旗をもっていて、チャン・チンには青い
彼らはお互いの旗を攻撃するため丘をつくる
リン・タイ・ユを除いて
軍服に身を固め、愚かなゲームをする
樹木のてっぺんに身を潜め
罵詈雑言を浴びせる
 口笛を吹きながら、僕たちは海沿いの砂浜に身を潜める
 口笛を吹きながら、僕たちはジャングルにいる腕力自慢のバカに小便をかける

大打撃だ!

もしも容貌で人を殺すのなら、たぶんそうするだろう
境界無視のゲームにおいて ー 情け無用の戦争
もしも容貌で人を殺すのなら、たぶんそうするだろう
境界無視のゲームにおいて ー 情け無用の戦争
境界無視のゲーム ー 情け無用の戦争

キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム
キョウカイノナイゲーム......

 この歌の前半の連は様々な国の子供たちが遊んでいる様子が描かれており、後半の連は戦争が描写されている。もちろんここで述べたいことは、アンドレが旧ソ連のKGB議長・共産党書記長で、1968年8月、旧ソ連がチェコスロバキアへ侵入し、”プラハの春“と呼ばれた同国の民主化を圧殺したチェコ事件の影の指導者であったアンドロポフを暗示しているとか、チャン・チンは、もちろん1966年から中国で始まる、権力奪還のために青年たちを集めて紅衛兵を組織し、文化大革命を指導した毛沢東の夫人で、毛沢東の死後、権力闘争に敗れ、四人組の一人として逮捕され獄中で自殺した江青であるとか、リン・タイ・ユはアメリカ在住の中国の学者で中国を紹介していたLin Yutang(林語堂)と考えられるという歌詞のメッセージ性よりも、以下のように一つの同じフレーズの一文字が変わっただけで文脈が正反対の意味になりうるということである。

Whistling tunes we're kissing baboons in the jungle

口笛を吹きながら、僕たちはジャングルのヒヒとキスをしている

Whistling tunes we're pissing baboons in the jungle

口笛を吹きながら、僕たちはジャングルにいる腕力自慢のバカに小便をかける

 ここで私たちは、フランスの作家のレーモン・ルーセル(Raymond Roussel)の小説『アフリカの印象(Impressions d'Afrique)』(1910年)の、一文字を変えただけで意味が全く変わってしまうあの余りにも有名なフレーズを想起せずにはいられない。ピーター・ガブリエルはこの曲でわざわざフランス語を使っているのだから。

Les lettres du blanc sur les bandes du vieux pillard

年老いた強盗団に関する白人の手紙

Les lettres du blanc sur les bandes du vieux billard

古ぼけたビリヤード台のクッションに沿って記された白色の文字

 同じ1980年、それまでベルリンで実験色の濃い『ロー(LOW)』、『ヒーローズ(HEROES)』、『ロジャー(LODGER)』という3枚のアルバムを制作しながら新たなサウンドを模索していたデヴィッド・ボウイはアルバム『スケアリー・モンスターズ(SCARY MONSTERS)』を発表する。その中から「アッシェズ・トゥ・アッシェズ」を訳出してみる。

「Ashes To Ashes」
Words & Music by David Bowie

Do you remember a guy that's been
In such an early song
I've heard a rumor from Ground Control
Oh, no, don't say it's true
They got a messege from the Action Man
I'm happy, hope you're happy too
I've loved all I've needed to love
Sordid details following

The shrieking of nothing is killing me
Just pictures of Jap girls in synthesis
And I ain't got no money and I ain't got no hair
But I'm hoping to keep that the planet is glowing

 Ashes to ashes funk to funky
 We know Major Tom's a junky
 Strung out in heaven's high
 Hitting an all time low

Time and again I tell myself
I'll stay clean tonight
But the little green wheels are following me
Oh, no, not again
I'm stuck with a valuable friend
I'm happy hope you're happy too
One flash of light but no smoking pistol
I've never done good thing
I've never done bad thing
I've never done anything out of the blue
I want an axe to break the ice
I want to come down right now

 Ashes to ashes funk to funky
 We know Major Tom's a junky
 Strung out in heaven's high
 Hitting an all time low

My mama said to get things done
You'd better not mess with Major Tom......

「アッシェズ・トゥ・アッシェズ」
デヴィッド・ボウイ

あなたは覚えていますか?
初期のこのような歌に出ていた男を
僕は地球管制塔からある噂を聞きましたが
まさか本気にしていないでしょうね
(管制塔の)彼らはこの活発な男からあるメッセージを受け取りました
私は幸せです。あなたたちにも幸せであって欲しいんです
私は愛する必要があるもの全てを愛してきています
厚かましくも詳細に次に続きます

存在しない者の金切り声が、(切り刻まれた)写真を
張り合わせた中に写っている日本の少女たちのように
私を殺そうとしています
そして私にはお金もなければ髪もありませんが
地球が光り輝き続けることを望んでいます

 灰がトネリコ材の野球のバットへ
 憂鬱が素晴らしさへ
 つまり薬物中毒のトム少佐は
 メジャーリーガー気分
 天上では興奮状態ですが
 地上ではいつも凡打ばかりなんです

また私は自分に言い聞かせています
今夜は薬なしでいられるだろうと
しかし活きのいい”弱虫“たちが私の後を追ってきます
またか......勘弁してくれ......
私は”優等生“の友だちを押し付けられているようです
私は幸せです。あなたたちも幸せであって欲しいんです
一つの閃光は(運よく)銃口からではありませんでした
私は良いことなどしたこともないし
悪いこともしたことはありません
急いては事を仕損じるってわけです
私はこの難局を打破するための”バット“が欲しいんです
今すぐ薬が切れて欲しいんです

 灰が野球のバットへ
 憂鬱が素晴らしさへ
 つまり薬物中毒のトム少佐は
 メジャーリーガー気分
 天上では興奮状態ですが
 地上ではいつも凡打ばかりなんです

私の母は(善し悪しにかかわらず)行動を起こせと言いました
あなたはトム少佐と付き合ってはいけませんよ

 この歌の中でデヴィッド・ボウイは素晴らしい”詩技“を見せている。「アッシェズ・トゥ・アッシェズ」は詩自体が薬の禁断症状を呈していて難解であるが、フレーズ自体は以下の文章から引用されている。

 We therefore commit his body to the ground ; earth to earth, ashes to ashes, dust to dust.
(今そのしかばねを地にゆだね、土を土に、灰を灰に、ちりをちりに帰すべし)「The Book of Common Prayer」

 これは葬式の際に使われることでよく知られている言葉であるが、デヴィッド・ボウイはこの言葉を換骨奪胎することで、薬物中毒で死にかけ、まさに葬られようとしていたトム少佐(=デヴィッド・ボウイ自身)を甦らせたのである。

 さらにデヴィッド・ボウイの新たな試み、”パンク・パンク“はここだけに止まらなかった。1983年、アルバム『レッツ・ダンス(Let's Dance)』を発表したデヴィッド・ボウイはその一曲目「モダン・ラヴ」で、甦らせたトム少佐に行動を起こさせるのである。「モダン・ラヴ(Modern Love)」の最初のフレーズは「アッシェズ・トゥ・アッシェズ」の最後の「私の母親の言葉」を受けている。

「Modern Love」
Words & Music by David Bowie

On I went to go out
I went to stay in
Get things done

I catch a paper boy
But things don't really change
I'm standing in the wind
But I never wave bye-bye

 But I try I try

There's no sign of life
It's just the power to charm
I'm lying in the rain
But I never wave bye-bye

 But I try I try

Never Gonna Fall for
 Modern love walks beside me
 Modern love walks on by
 Modern love gets me to the church on time
Church on time terrifies me
Church on time makes me party
Church on time puts my trust in God and man
 God and man no confession
 God and man no religion
 God and man don't believe in modern love

It's not really warm
It's just the power to charm
Still standing in the wind
But I never wave bye-bye

 But I try I try

Never Gonna Fall for
 Modern love walks beside me
 Modern love walks on by
 Modern love gets me to the church on time
Church on time terrifies me
Church on time makes me party
Church on time puts my trust in God and man
 God and man no confession
 God and man no religion
 God and man don't believe in modern love

Modern love……

「モダン・ラヴ」
デヴィッド・ボウイ

わかってる、飛び出そうとしたいし
引きこもろうともした
行動を起こそう

僕は新聞配達人を掴まえて(新聞を読んだ)
しかし物事は何も変わっていない
(強)風の中に立たされても
僕は決して諦めはしない

 でも僕は試すんだ! 努力するんだ!

人生に足跡など存在しないけれど
それが存在しないことが(僕たちを)魅了するパワーになるんだ
(豪)雨の中で寝かされても
僕は決して諦めはしない

 でも僕は試すんだ! 努力するんだ!

決して騙されはしない
 懺悔も宗教もない神と人間を、僕を脅かしてパーティーを開かせ信じさせる
 定期的に通う教会に、僕のそばを歩いて通り過ぎ連れて行く現代の愛を
 神と人間は信じていないから

それは冷酷なことだけれども
そのこと(過去の栄光や未練を顧みない)が(僕たちを)魅了するパワーなんだ
いまだに(強)風の中に立たされているけれど
僕は決して諦めはしない

でも僕は試すんだ! 努力するんだ!

決して騙されはしない
 懺悔も宗教もない神と人間を、僕を脅かしてパーティーを開かせ信じさせる
 定期的に通う教会に、僕のそばを歩いて通り過ぎ連れて行く現代の愛を
 神と人間は信じていないから

 『レッツ・ダンス』というアルバムのタイトル通り、この曲のコーラス部分でデヴィッド・ボウイは詩を”円舞“させるという離れ技を見せる。
 このような離れ技を見せたのはデヴィッド・ボウイだけではなかった。1972年、デヴィッド・ボウイのプロデュースで『トランスフォーマー(Transformer)』という傑作アルバムを世に送り出したルー・リード(Lou Reed)も、現代音楽を学んでいたジョン・ケール(John Cale)と組んでヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)というバンドで1967年、アンディ・ウォ―ホル(Andy Warhol)のプロデュースでデビューして以来、実験色の濃い曲を作り続けているミュージシャンだった。1989年、彼は『ニューヨーク(New York)』というアルバムを発表する。その中の一曲、「ダーティ・ブルヴァード(Dirty Blvd.)」を訳出してみる。

「Dirty Blvd.」
Words & Music by Lou Reed

Pedro lives out of the Wilshire Hotel.
He looks out a window without glass.
The walls are made of cardboard newspapers on his feet.
His father beats him 'cause he's too tired to beg.

He's got 9 brothers and sisters.
They're brought up on their knees.
It's hard to run when a coat hanger beats you on the thighs.
Pedro dreams of being older and killing the old man,
 but that's a slim chance he's going to the boulevard.

He's gonna end up on the dirty boulevard
He's going out to the dirty boulevard
He's going down to the dirty boulevard

This room cost 2.000 dollars a month you can believe it man it's true.
Somewhere a landlord's laughing till he wets his pants.
No one here dreams of being a doctor or a lawyer or anything
 they dream of dealing on the dirty boulevard.

Give me your hungry, your tired your poor I'll piss on 'em.
That's what the Statue of Bigotry says
Your poor huddled masses, let's club 'em to death
And get it over with and just dump 'em on the boulevard.

Get 'em out on the dirty boulevard
Goin' out to the dirty boulevard
They're going down on the dirty boulevard
Goin' out

Outside it's a bright night, there's an opera at Lincoln Center.
Movie stars arrive by limousine.
The klieg lights shoot up over the skyline of Manhattan.
But the lights are out on the mean streets.

A small kid stands by the Lincoln Tunnel.
He's selling plastic roses for a buck.
The traffic's backed up to 39th street.
The TV Whores are calling the Cops out for a Suck

And back at the Wilshire Pedro sits there dreaming.
He's found a book on Magic in a garbage can.
He looks at the pictures and stares at the cracked ceiling.
"At the count of 3" he says
"I hope I can disappear"

And fly fly away from the dirty boulevard
"I want to fly from the dirty boulevard"
"I want to fly from the dirty boulevard"
"I want to fly from the dirty boulevard"

「ダーティ・ブルヴァード」
ルー・リード

ペドロはウイルシレー・ホテルの外で暮らしている。
彼はガラスの無い窓から外を見ている。
部屋の壁は彼の足元に落ちていた段ボールや新聞紙でできている。
人に施しを乞うことにうんざりしている彼は父親に殴られる。

彼には9人の兄弟姉妹がいるんだ。
彼らはこのように人への嘆願を上に育てられたのだ。
コートのハンガーで股を殴られたらあなたでも逃げることは無理だろう。
ペドロは大きくなってこの年老いた男を殺す夢を見ているが、そのチャンスはほとんどないだろう。

この汚れた大通り(ブルヴァード)で人生を終える者もいるだろうし
この汚れた大通りから出て行く者もいるだろうし
この汚れた大通りにたどり着く者もいるだろう。

この部屋はひと月2000ドルかかる。信じられるか? でもこれは事実なんだ。
どこかの亭主は笑いが止まらないから尿道がゆるんじまったらしい。
ここにいる奴らは誰もが医者や弁護士なんかになろうなんて夢見ちゃいない。
彼らはこの汚れた大通り(ダーティ・ブルヴァード)で采配をふるえることを夢見るだけだ。

あたしにお前の空腹さや疲れや貧しさを貸してみな、しょんべんひっかけてやるからよ、って偏狭な自由の女神が言っている。
あなたの群がっている卑しい庶民どもを死ぬまでバットで殴って、
片づけて、大通り(ブルヴァード)に投げ捨てようって。

この汚れた大通りから奴らを追い出そう
この汚れた大通りから出て行こう
この汚れた大通りにたどり着く奴らもいる
出て行こう

外は明るい夜、リンカンセンターではオペラが行なわれている。
映画スターたちがリムジンで乗り付けている。
マンハッタンのスカイラインが映画撮影用のアークライトで照らし出される。
でもその光はこのみすぼらしい道には届かない。

小さな子供がリンカントンネルのそばに立っている
彼は1ドルでプラスチックのバラを売っている。
39通りまで交通が渋滞している。
服装倒錯の売春婦たちが一回の”吸引“のことで警官たちと揉めているのだ。

そしてウイルシレーホテルの裏でペドロは夢想しながら座っている。
彼はゴミ箱の中から魔法のかかった本を見つけたのだ。
彼は本の絵を見て、そしてひび割れた天井をじっと見つめる。
「3つ数えると」と彼は言った
「僕はここから消え去れるような気がする」

そしてこの汚れた大通りから飛び去るんだ
「僕はこの汚れた大通り(ダーティ・ブルヴァード)から飛び立ちたいんだ」
「僕はこの汚れた大通りから飛び立ちたいんだ」
「僕はこの汚れた大通りから飛び立ちたいんだ」

 この救いようのない内容の詩のどこにも離れ技が隠れているのかわかってもらえるだろうか。詩の最後をもう一度読んで欲しい。「僕はここから消え去れるような気がする(I hope I can disappear)」の次に「飛ぶ(fly)」と言う単語を口にした瞬間、汚れた大通り(dirty boulevard)から飛び立つ、汚れてはいるけれど幸福を象徴する青い鳥(dirty blue bird)が見えないだろうか。
 しかしこのような”パンク・パンク“の試みは1990年代以降、影を潜めてしまう。いや、もしかしたら気がつかないだけなのかもしれない。成功することで失敗するパンクと、誰にも気づかれない”パンク・パンク“の板挟みになり、かと言って”ラスト“として生き延びる気もなく、1994年4月8日に自死した男がいる。”グランジ“と呼ばれるロックを作り上げたバンド「ニルヴァーナ(Nirvana)」のカート・コバーン(Kurt Cobain)である。奇しくも彼はセックス・ピストルズで始まり、ニール・ヤングで最期を遂げている。彼の1991年9月のメジャーデビューアルバムのタイトルはセックス・ピストルズのデビューアルバムのタイトルと同じであり(『ネヴァー・マインド』+素っ裸の男児が潜水しているジャケット写真=『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス(睾丸)』)、彼の遺書には「It's better to burn out than to fade away」とニール・ヤングの歌詞が書かれていた。細々と生きていたパンクはおそらくこの時、彼によって”殺され“、ロックは完全に”ラスト“として生き延びることとなった。ニール・ヤングもデヴィッド・ボウイもルー・リードも、そして再結成したセックス・ピストルズも今では立派な”ラスト“だ。2002年、キング・オブ・ロックであるエルヴィス・プレスリーのベストアルバム『30ナンバー・ワン・ヒット(Elvis: 30 #1 Hits)』は全米アルバム・チャート初登場一位になり、キングとしての彼の相変わらずの強さを示したが、その一方で、セックス・ピストルズのデビューアルバムも1992年にアメリカでプラチナ・ディスクになったことなどを考え合わせてみると、命がけで「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン(God Save the Queen)」を歌わざるを得なかった当時21歳のジョニー・ロットンの苦しみは十分に理解できていたはずのニール・ヤングがアルバム『ラスト・ネヴァー・スリープス』において彼に言いたかったこととは結局何だったのだろうか。「ロックは死んだ」という言葉と、「ロックは死なない」という言葉は”ラスト“という同じ罠にはまってしまっているように思われてならない。要するに、死んだのも死なないのもロックではなく、そう言っている”おまえたち“ではないのか。
 ニール・ヤングの歌詞はボブ・ディラン(Bob Dylan)とは違う意味で”難解“である。聞き流しているぶんには問題は感じられないが、本気になって意味を捉えようとすると微妙に”ズレ“が生じ、掴み損ねるのである。「ハート・オブ・ゴールド(Heart of Gold)」(1972年)や「ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド(Rockin' in the Free World)」(1989年)のようなヒット曲が彼にはあるのだが、ここでは「ライク・ア・ハリケーン」(1977年)を訳出してみる。

「Like A Hurricane」
Words & Music by Neil Young

Once I thought I saw you
In a crowded hazy bar
Dancing on the light from start to start
Far across the moonbeam
I know that's who you are
I saw your brown eyes
Turn and watch the fire

 You are like a hurricane
 There's calm in your eyes
 And I'm getting blown away
 Somewhere safer where the feelings stay
 I wanna love you
 But I'm getting blown away

I am just a dreamer
But you are just a dream
You could have then anymore to me
Before that moment you touched my lips
That perfect feeling when time just slips
Away between us and our foggy trips

 You are like a hurricane
 There's calm in your eyes
 And I'm getting blown away
 Somewhere safer where the feelings stay
 I wanna love you
 But I'm getting blown away

You are just a dreamer
And I am just a dream
You could have then anymore to me
Before that moment you touched my lips
That perfect feeling when time just slips
Away between us and our foggy trips

 You are like a hurricane
 There's calm in your eyes
 And I'm getting blown away
 Somewhere safer where the feelings stay
 I wanna love you
 But I'm getting blown away

「ライク・ア・ハリケーン」
ニール・ヤング

混雑して煙がかったバーで
遥か遠くの月の光越しから
星雲間を交差する光の上でダンスする君を
見たように思った瞬間
僕はそれであなたが誰だかわかった
君の褐色の瞳はが移ろい
炎を見つめているのを僕は見た

 君はハリケーンのようだ
 君の目の中は穏やかなのに
 僕は吹き飛ばされそうだよ
 気持ちが落ち着ける、より安全などこかで
 僕は君を愛したい
 でも僕は吹き飛ばされそうなんだ

僕はただの夢想家
でも君はただの夢
その時僕にとって君は他の誰かであってもよかったんだ
君が僕の唇に触れる前までは
僕たちの靄が立ち込めたような僕たちの熱中の間に
瞬間に過ぎ去った時のあの素晴らしい情熱の前までは

 君はハリケーンのようだ
 君の目の中は穏やかなのに
 僕は吹き飛ばされそうだよ
 気持ちが落ち着ける、より安全などこかで
 僕は君を愛したい
 でも僕は吹き飛ばされそうなんだ

君はただの夢想家
でも僕はただの夢
その時僕にとって君は他の誰かであってもよかったんだ
君が僕の唇に触れる前までは
僕たちの靄が立ち込めたような僕たちの熱中の間に
瞬間に過ぎ去った時のあの素晴らしい情熱の前までは

 君はハリケーンのようだ
 君の目の中は穏やかなのに
 僕は吹き飛ばされそうだよ
 気持ちが落ち着ける、より安全などこかで
 僕は君を愛したい
 でも僕は吹き飛ばされそうなんだ

 一度聞いた限りでは良い歌ではある。実際に良い歌なのだが、ここでよく考えてみて欲しい。ハリケーンのような女性とはどういう女性なのだろうか? 内面が穏やかなのに外側が、人が近寄れないくらい荒れている女性とは? もしも逆だったならば考えられないことはない。本気になって意味を捉えようとすると微妙に”ズレ“が生じ、掴み損ねるとはこのようなことである。「僕はただの夢想家/でも君はただの夢」という理解で済ます以外に考えられるだろうか? このようにニール・ヤングの歌詞は意外と理解しづらいし、だからロック・ミュージシャンのトム・ウェイツ(Tom Waits)に「小学校3年生の作文みたいな歌を書き散らして、まったくニール・ヤングって男はたいしたもんだよ」と言われてしまうのだが、この”小学校3年生“と”エリート“が組み合わさったことでニール・ヤングはパンクにも共感できたとも考えられる。そして1979年、ニール・ヤングは”ズレ“過ぎたことで却って当時のロックの状況を「マイ・マイ・ヘイ・ヘイ」と「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ」で表現できたのではないだろうか。ちなみに1979年は、ニール・ヤングが、まだ幼かった我が子が不治の病に罹っていることを知った年でもある。
 ここで今一度クイーンに登場願うとしよう。1991年10月、ニルヴァーナのメジャーデビューと同じ頃、クイーンはアルバム『イニュエンド(INNUENDO)』を発表する。そのアルバムの最後に収録されている曲「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン(The Show Must Go On)」は「ラスト・ネヴァー・スリープス」の強い肯定形ではないだろうか。そしてクイーンのヴォーカリストのフレディ・マーキュリーはこの曲を残して1991年11月24日に”燃え尽きた“。

「The Show Must Go On」
Words & Music by Queen

Empty spaces - what are we living for
Abandoned places - I guess we know the score
On and on, does anybody know what we are looking for
Another hero, another mindless crime
Behind the curtain, in the pantomime
Hold the line, does anybody want to take it anymore

 The show must go on
 The show must go on
 Inside my heart is breaking
 My make-up may be flaking
 But my smile still stays on

Whatever happens, I'll leave it all to chance
Another heartache, another failed romance
On and on, does anybody know what we are living for
I guess I'm leaving, I must be warmer now
I'll soon be turning, round the corner now
Outside the dawn is breaking
But inside in the dark I'm aching to be free

 The show must go on
 The show must go on
 Inside my heart is breaking
 My make-up may be flaking
 But my smile still stays on

  My soul is painted like the wings of butterflies
  Fairytales of yesterday will grow but never die
  I can fly - my friends

 The show must go on
 The show must go on
 I'll face it with a grin
 I'm never giving in
 On - with the show
 I'll top the bill, I'll overkill
 I have to find the will to carry on
 On with the show -
 The show must go on......

「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」
クイーン

何もない空間 僕たちは何のために生きているのか?
見捨てられた場所 僕たちは譜面を理解しているはずだ
休みはない 僕たちが何を探しているのか知っている者はいるだろうか?
別のヒーロー そして新たな愚かな罪が
秘密裏に茶番劇として
限度というものがあるだろう
誰がそんなものをもっと欲しがるだろうか?

 劇は続けられる
 劇は勝手に続いていく
 内側で僕の心は打ち裂かれ
 僕の化粧は剥げ落ちているだろうが
 微笑みだけは絶やさない

何が起ころうと僕はその全てを運にまかせるだろう
別の心痛 別の出来損ないの物語
休みはない 僕たちが何にために生きているのか知っている者はいるのか?
僕は学んでいるとは思う 今は気力もあふれている
僕の態度はすぐに改まる 間もなくだ
外で夜は明け始めている
しかし内側では真っ暗な中
僕は自由を渇望している

 劇は続けられる
 劇は勝手に続いていく
 内側で僕の心は打ち裂かれ
 僕の化粧は剥げ落ちているだろうが
 微笑みだけは絶やさない

  僕の魂は蝶の羽根のように彩られ
  昨日の「おとぎばなし」は膨らみこそすれ絶えることはないだろう
  僕は飛ぶことができるんだよ、友よ

 劇は続けられる
 劇は勝手に続いていく
 僕は破顔一笑でその劇と対面するだろう
 僕は決して屈服しない
 この劇で、僕は主役となり、過剰にやり通すだろう
 この劇において僕は苦境に負けない意志を見つけなければならない
 劇は勝手に続いていく......

 ニール・ヤングの”ラスト“というのは、ここでいう劇(ショー)ではないだろうか。”劇“は”ラスト“の実力いかんに関わらず勝手に続いていくもので、”ラスト“が批評を拒絶した、つまりロックは恩恵や意欲や運であって学習ではない以上、問題は”劇“が起きるか起きないかにシフトしていくことになるが、パンクっぽいものはあってもパンク自体が存在しない今、既に始まっている”劇“はともかく、新たな”劇“(=事件!?)は起こり得るのだろうか。
 1996年3月、セックス・ピストルズはオリジナルメンバーで再結成され、同年11月には日本武道館でもコンサートが行われた。そこで、肥満した体の幼稚園児のような恰好をして「アナーキー・イン・ザ・UK」を歌うジョン・ライドンを目撃した誰もが彼に喝采を送ったに違いない。1996年のセックス・ピストルズにとって、1976年のセックス・ピストルズは4人全員がミュージシャンとして”エリート“と化していたのだから、ミュージシャンとして明らかに衰えて素人同然の1996年のセックス・ピストルズと、ミュージシャンとして比較することは間違っていることはファンなら分かっていたのだから。ジョン・ライドンはバカな振りをするだけ聡明ではあるのだが、これは新たな”劇“たりえただろうか?
 新人のロックバンドがヒットチャートを賑わせることがなくなってどれほど経つだろうか? しかし新人のロックバンドにとって音楽環境はますます厳しくなっており、サブスクの出現で新人のロックバンドはビートルズ(The Beatles)やレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)と同じスタートラインから競わなければならなくなった。個人的にはこのことで新人のロックバンドの曲は明らかに「聴き劣り」していることで最新のヒットチャートに登場できない状況に陥っていると邪推している。最近のロック関係の”劇“といえば2016年にボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことだが、それはベテランのボブ・ディランがいつものように巻き起こしている”劇“の一つに過ぎない。それでもなお気骨のある若手のロック・ミュージシャンが”劇“を起こす可能性はゼロではないだろうが、昨今の新曲の洪水に飲み込まれて感性が摩耗してしまって全く気がついていないかもしれないので、是非ご教示願いたい。

#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門