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ルソー『社会契約論』を読む(13)

 さて、今回で第三篇も終わりです。さっそく読んでいきます。


従来の社会契約説との違い

 市民は、「すべての人がなすべきことを、すべての人が命令することができる」といいます。

何びとも、自分自身が行なわないことを、他人に行なえと要求する権利を持ってはいない。〔注1〕

ここで言われる権利とは、まさしく、主権者が政府を設立するにあたって統治者に与える権利のことであって、すなわち「執行権」です。
(執行権について詳しくはコチラ

 しかし、この「執行権」をめぐって、ルソー以前の社会契約論者とルソーの間には大きな違いが存在します。というのは、「政府設立という行為は、人民と人民が選ぶ首長とのあいだの契約である」と多くの社会契約論者が主張する点に、違いが存在する、とルソー自身が言っているのです。

 ルソーは、国家には「ただ一つの契約しかない」と言い切ります。その契約とは、「社会契約」すなわち「結社」の契約です。ルソーにあっては、それ以外のいかなる契約も排除されることになります。つまり、政府の設立は「契約」によらないのです。

 いいでしょうか。ルソーは、他の論者とは違って、「政府の設立」を「契約」と捉えていない。ここが決定的な違いとなって、『社会契約論』全体を、理論的に研ぎ澄まされたものにしているのです。


政府の設立

 では、ルソーは政府の設立をどのようにとらえているのでしょうか。「主権者は、かくかくの形態のもとに政府という団体が設けられるべきことを定める」(p.208)。これが、「法を制定する行為」としてルソーによって規定されています。そして、人民は、設立された政府を委ねるべき首長たちを任命する、すなわち「法を執行する」のです。

 この法の「制定」と「執行」が、ルソーにあっては政府設立の行為とされます。

 ここまでの議論をルソーは以下のようにまとめています。

政府を設立する行為は、けっして契約ではなくて、一つの法であること、執行権を委託された人々は、けっして人民の主人ではなく、その公僕であること、人民は、好きなときに、彼らを任命し、また解任しうること、公僕である彼らにとって、問題は契約することではなく、服従することであること、彼らが国家から課せられた職務を引き受ける場合、彼らはただ市民としての義務を果たしているにすぎず、その条件についてとやかく言う、どんな権利も持ってはいないこと(p.209)


政府の運命

 政府について、ルソーはこんな悲しい(が至極当たり前な)ことも言っています。世界中のすべての政府は「ひとたび公共の権力を付与されると、この容易な手段によって、遅かれ早かれ主権を簒奪するのである」(p.210)と。

 この不幸を打開する、あるいは予防する方法はないのでしょうか。いいえ、あります。「定期集会」です。以前にも議論になったことがあります(こちらを参照してください)。

 定期的な人民集会こそ、この不幸を予防し、あるいはその到来を遅らせるのに適しているのです。この人民集会は、社会契約の維持のみを目的とする集会であり、つねに二つの議案を提出しなければならないのです。また、これは省略されてはならないし、別々に投票に付されなければならないものです。議案は以下の通りです。

第一の議案:主権者は、政府の現在の形態を保持することをよしとするか。
第二の議案:人民は、現に統治をゆだねられている人々に、今後もそれをゆだねることをよしとするか。(p.210)

では、なぜこのような議案になるのでしょうか。それは、前提条件として、「国家には廃止できないような基本法は何一つなく、社会契約でさえも例外ではない」(p.210、あるいは第一篇第七章)ということがあるからです。「もし全市民が集会して満場一致でこの契約を破棄するのであれば、この破棄がきわめて合法的であることは疑いの余地がない」(p.210)のですからね。

 ここに、ルソーの『社会契約論』の核心が垣間見えます。つまり、「合法的」というのは、「政府の行為」を意味しません。あくまでも「一般意志の声」です。一般意志が望むこと、満場一致で主権者が決めたこと、これこそ、「合法的」なことなのです。


次回予告

 さて、今回で、第三篇は終わりです。次回以降は第四篇。次で最後の篇になります。この連載も残り数回、ぜひ最後まで楽しんでいってください。※ちなみに『社会契約論』終了後は別の著作を扱う予定(まだ決まっていませんが、『エミール』か『告白』のつもり)です。


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本文中に〔  〕で示した脚注を、以下に列挙します。

〔注1〕『ルソー全集 第五巻』作田啓一訳、白水社、1979年、206頁。以下、本記事において、特に断りなく頁数だけが示されている場合は、ここにあげた白水社版『ルソー全集 第五巻』の頁数を示しているものとします。

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