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妻はゼミ生4:愛が~いちばん、レポート。

はじめに

妻はゼミ生を18年くらいやっています。もちろん、本当のゼミ生ではないですよ。私のくどい話を聞き続けて18年ということです。そして、「ニーチェはアンチ・ヒューマニズムなんだよ。ニヒルじゃないよ。人間中心主義にイラっときてるんだよ・・・」という話しが本当にしつこいと思った時は、「ルイボスをエスプレッソした、レッド・ラテが一番好きだわ」と返してくるのです。

これが出たらね、ゼミは終了です。そして、「Illyで淹れたラテも美味しいよ」という返事をしないと、その後、一週間口をきいてもらえなくなるという地獄を味わうことになります。

今日の話題は「レポート」です。レポートって誰のための文章なの?

レポートの季節

今年もレポートの季節がやってきました。100人、200人分のレポートを読むには気合が必要です。私の場合は2度読みます。何故なら、初めの方に読んだレポートは辛口な採点になってしまうからです。そうならないように、2度チェックします。

さて、レポートの読者は誰でしょうか。レヴィナス研究の内田樹さんが次のように書いています。

レポートは「これだけ勉強しました」ということを教師にわからせればいいんです。査定者である教師だけに向けて書けばよくて、教師以外の誰かが読むということは考慮する必要がありません。

そうですね。レポートの目的が教科の単位を取るためと考えれば、読者は評価者である私です。そして、もう一人、これは期待を込めてですが、書き手の学生ですね。何度も読み返して推敲していただいて、ゆめゆめ、「白いスペースがなんかの文字で埋まっていたら良し!」とは考えずに、自らの学びを振り返り、改めて知識を整理する機会にしてほしいです。

読む人への愛

内田樹さんは、次のようにも述べていました。

学術論文に必要なものというのは「読む人への愛」です。
学術論文は、一人でも多くの読者に、少しでも長い期間にわたって「読み継がれる」ということ、それこそが学術論文の価値を構成するのです。
まだ見ぬ読者に向けて書くこと。その心構えに学術性のアルファからオメガまでが含まれます。きちんとしたデータを示すのも、典拠を明らかにするのも、合理的でていねいな論証をするのも、すべて「読者のため」です。
あなたが学術論文を読む必要ができた時に、どのような論文を読みたいですか。優れた学術論文は初学者の時に「ぜひ読みたい」と思うし、「読んでよかった」と思える論文です。書いてくれた人にありがとうと感謝を述べたくなる論文を書きましょう。

レポートの愛

もう一度、レポートに戻りましょう。

レポートは「これだけ勉強しました」ということを教師にわからせればいいんです。査定者である教師だけに向けて書けばよくて、教師以外の誰かが読むということは考慮する必要がありません。

もう一度確認するべき重要なポイントは、教師に「わからせればいい」という点です。というのは、レポートの中には、教師に何をわからせたいのか、さらに言えば、自分が何がわかったことを誰に伝えたいのかが、わからないものがあるということです。

対象は「まだ見ぬ読者」ではなく、知ってる「こいつ」であります。ですので、この「おじさん」の話していたことや、問いの意図を読み解いて、自分がよく理解したということを、自分が咀嚼した様子を見せていただけると嬉しいのです。

「(貧しい国がある中で)豊かな日本に生まれたことを感謝します」
「(危険な国がある中で)安全な日本に住めることを感謝します」
「(貧しい国がある中で)大学に通わせてくれた両親に感謝します」

などのように、感謝を表明するレポートが少なからずあります。感謝をすることは、とても大切です。しかし、大学に通わせてくれたことへの感謝は、私ではなく、ご両親にちゃんと伝えるべきです。

さて、レポートの読者は、提出されたレポートの中から「授業で紹介したことのそのままの箇所」「日本に生まれてよかった」「感謝の気持ち」などを削っていきます。そして、残った部分から「わたしにわからせたいこと」を読み込んでいきます。

文字数が成績と比例していないことの理由は明らかです。

一方で、学生には提出物は「表現の舞台」と言い、減点法では見ない、「やってみなはれ」と伝えています。問いを踏まえたうえでの「挑戦」はウェルカムです。

レポートも贈り物

内田樹さんは次のようにも述べています。

論文は「未来への自分」から「現在の自分」への贈り物になるように書かねばならない。

レポートも、自分そして読む相手への贈り物であるように心がけると良いでしょう。こちらから贈与したことへの「貰いもの、受け取りましたよ💗」のメッセージが読み取れるレポートは実際、よく書けていることが多いのです。

知識や人に対する開放性(openness)や好奇心(inquisitiveness)は、次世代を想う心・贈り物(generativity)を強めます。そして、inquisitivenessとgenerativityは幸福度を高めます。そして、その幸福感は、きっと相手にもポジティブな影響を伝えるでしょう。

学びから生まれたポジティブな幸福感のおすそ分け、お待ちしています。

引用文献:内田樹『街場の大学論 ウチダ式教育再生』角川文庫



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