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妻はゼミ生2:「これいいな」と感じることを選べばよいと思うのです

ゼミの決まり

妻はゼミ生を18年くらいやっています。もちろん、本当のゼミ生ではないですよ。私のくどい話を聞き続けて18年ということです。そして、「プラトン以降、とくにメタ・フィジクスで世界を見ようというあの視点がこの課題の起点・・・ぶつぶつ」という話しが本当にしつこいと思った時は、「ここにね、シナモンをかけると美味しいのよ」「ツッカーノ・ブルボンで浅煎りが一番好きだわ」と返してくるのです。

これが出たらね、ゼミは終了です。そして、「シナモンシュガーも美味しいよ」という返事をしないと、その後、一週間口をきいてもらえなくなるという地獄を味わうことになります

同じ本を買ってくる

結婚前から、2人は結構同じ本を買ってきたりしました。同じ本が転がっているんですよね。たまに。東京都立大学の宮台真司さんの著書などもそのうちのいくつかです。妻も20代のころから手にとっているので、会話の中に宮台ワードの「クズ」とか「クズ社会」とか「ブタ」とか口が悪い言葉が出てきても、自然に読み替えができるように変換機能が備わっています。でも、これをお洒落なカフェとかでやってしまうと、周囲からはヒソヒソと囁かれてしまうことになります。

ここで言う「クズ」は「恋愛、友情、結婚などを自分にとってのコスパで考えちゃう人(損得マシーン)」という意味で、「クズ社会」というのは「生身の感情を失ってしまった人たちが考える合理的で良い社会」という意味に置き換わるのです。怖い響きの言葉ですが、内容はとても人間思いで優しいのです。

損得を超えて

宮台先生は、カウンタブル、計算可能性に基づく合理性による損得Seekerを「クズ」と呼んだのだと思います。近代化は、計算可能性に基づいて作られた社会のシステムと、それを動かす「合理的な人」によって推し進められたのです。150人の集落ではなくて、これだけ多くの人間が暮らす社会ですから、これはこれで大切だと思います。ただし、、人間が作ったシステムがフッサール的に生活世界に浸潤してくると、やがて人間は理論合理的なシステムに歩調を合わせて働くことになります(既になっている気もしますが)。人間が生物のシステムにも属していることを忘れ始めると、やがて、合理性にとってノイズとなる人間を外した方がよくね?合理的なシステムは判断するかもしれません。古いところでは「ターミネーター」とか「マトリックス」とか「サマーウォーズ」もそんな話ですよね。

人間が理論合理的なシステムの奴隷になるということについては、19世紀にマックス・ウェーバー(1864-1920)が心配していたわけですが、ウェーバーは目の前の仕事を頑張ろう!ということで対応しました。ニーチェ(1844-1900)は、このままでは西欧社会はシステムの奴隷になっちゃうよ。もっと、人間らしくパッション持たなきゃ。プラトン以前のギリシャを思い出せよ!と言い、ハイデガー(1889-1976)は、技術で安全・安心・快適な明るい未来を作ること考えたけれど、結局、技術を使う人間が技術に使われる人間の姿を見てしまう。イギリス産業革命の時のラッダイト(打ちこわし)運動は、人間の生活世界の中に異彩を放って現れた機械だったわけで、人間は打ち壊したい欲求にかられたのでしょう。この辺の話は、故・木田元先生の「反哲学」がわかりやすく概観していると思います。


閉塞感を打ち破る

マルクス(1818-1883)は、労働における搾取する側と搾取される側を浮き彫りにしていた。システムの奴隷であることに閉塞感を感じるようになるという、ウエーバーらの心配したことが起きているのが、「いま」である可能性は高いと思う。

先ほどの宮台先生の「クズ」の話ですが、「それ僕(私)が助けて、私に得はあるの?」「結婚はコスパが悪い」「別れるんだったら、今まで奢った分を返してよ」「僕の家事分担の担当は食器を洗うことと書いてあるよね。拭く、乾燥させるは入っていないから」というのは、ある合理性から見ればそういうこともあるのでしょう。計算可能性で作り出されたシステムの「内側」の理屈から判断すれば、きっとそうなるのでしょう。でも、システムの「外側」の世界が広がっているわけです。宮台先生とウェーバーが出てきたので整理しなおすと、このシステムは「鉄の檻」となって、鉄の檻の内側でコスパや損得のみ追及するものを「クズ」と呼んでいたことが分かります。

いや、映画「マトリックス」だわ。「マトリックス」で言えば、カプセルの中でチューブに繋がれているマトリックス(コンピューター内での共同幻想)の世界と、ネオ(キアヌ・リーブス)等が「実在」するチューブから外れた世界。裏切者の「サイファー」は、AIと交渉して、「モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)」を引き渡す見返りに、「マトリックス」の中での良い地位(良い仕事、良い収入など)を求めていました。ひょっとしたら、システムの内側の方が外側より「快楽」がもたらされる可能性もありますね。

「それをするメリットを教えてください」という質問

しかし、少し怖いのは、宮台先生が損得マシーンと言っていることが、ごく普通に社会に見られるまでしみ込んでいること。

1.この科目を履修するとどんな良いことがありますか           2.私があなたと付き合うことでどんな得がありますか                         3.算数勉強してなんか役に立つのですか                       4.時間かけて勉強して無駄になったらどうしますか         5.告白して断られたらどうしますか                 6.結婚した後でもっと良い人が現れたらどうしますか              7.結婚するとどんな良いことがありますか               8.どちらの人と結婚すればよいですか                9.食べ放題プランAと食べ放題プランB、どっちが損しないですか     10.それをするメリットを教えてください

一見スマートに見えることもあるのですが、前広にインプットとアウトプットが提示されていて、無駄ではないと納得しない限り着手しないというようにも見えます。極度に、「(自分が思う)無駄」を恐れているようです。予測可能性が高い時代の価値を内面化しているのかもしれませんが、世の中がだんだんと不確実性を高めている中では、苦労するかもしれません。

子どもたちへの遺言

うちの子どもたちへの遺言。これいいなと思うことをしたら良いのではないかと思います。「おもろそうやな、やってみなはれ」です。私の経験だけなので、統計的にロバストでも何でもないですが、結婚決めた時の「私の損得バロメータ」は壊れていましたよ。あまり機能していませんでした。まあ、どこの国で暮らしても、何の仕事で食べていても、この人だったら面白くするんじゃないかなという直感のみでした。お相手の「損得バロメータ―」も壊れていたんじゃないでしょうか。その頃の私、どこで何の仕事をしていくかも決まっていなかったので(笑)



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