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【Celesアート】をオーダーしてみた【前編】

推し香水でも有名なCelesがアート作品を対象としたセレクトサービスを期間限定で提供していると知り、これは是非ともやってみたい! と。

自分の食指の範囲内で好きそうなものをキャッチし、それをどうしたって最終的には自分のやり方で咀嚼していると、確実に好みだが予定調和感がある。これは香水に限らないことだけれど。
かと言って嗜好はかなり強めに偏っているほうだし、嫌いなものは嫌いだし、多数決で選ばれたものを疑ってかかるタイプ。面倒くさい性格だ。助けてプロの人。

どの作品にするか、がすんなり決まるはずもなく

先に言っておくと、この記事で『結局どの絵でオーダーしたか』までは書けていないんですよ。
その辺のことは【後編】(未公開)にまとめます。この【前編】も最後までお付き合いいただけたら嬉しいけれど。

さて、どの絵にしようかと。
[好きな絵]と[観た時に感じる香りのイメージが香水として好きそうな絵]は全然別物だが、そもそも その絵が好き からスタートしているのでどれもよさそうな気がしてくる。
そして無限に候補があるので考え込んだら終わりだ。

パッと思い浮かんだのが5点、そこからイメージをざっくり書き出してみて一旦は1つに絞った。
その作品がこれ。

エドヴァルド・ムンク作《夏の夜、人魚》 1893年 93.5×118.0
ノルウェー国立 ムンク美術館蔵

今のところムンク作品の中で一番好きな絵だ。
北欧の短い夏の短い夜。あたりは薄青に染まり、月光が水面に伸びている。水浴を楽しむ人々の傍らで、人魚になぞらえられた女はどこか虚ろげなまなざしを向けている。
冴えた月光とフィヨルドの水、[人魚]というモティーフが想起させる不吉さや悲しみはやわらかなブルーと混ざり合い、香りのイメージとなって脳内に立ち上がってくる。
一般的な水辺イメージ系の香りが肌に合わない私でも、この作品ならば香水として楽しめるような気がした。これからの季節にも良いでしょうしね。

私がこの絵に出会ったのは2018年のムンク展だ。
[夏の夜 ‐孤独と憂鬱‐]と題された展示室にかかっていた。
水辺が描かれた作品が多く集まり、夜闇と水面のブルーにひたひたと満ちているような一角だった。

《夏の夜、人魚》のことをもっと書いてもいいかな

書くけども。
この絵で人魚と呼ばれている女は、ムンクの初恋の相手で数年に渡って関係を持ったミリー・タウロウがモデルだと言われている。3歳年上で既婚者の彼女は社交界の華と呼ばれた有名な美人だったようだ。当時彼女の結婚生活は破綻していたらしいが、離婚が成立していない以上は不貞である。
さらに悪いことに彼女はフリッツ・タウロウの弟の妻だった。
フリッツ・タウロウは画家。ムンクの16歳年上で、その頃既にノルウェーでも評価を得ていた。酷評続きのムンクの画才を認めていた貴重な先輩で、ムンクにパリ留学の費用を提供し、しかも親戚(曾祖父同士が兄弟)。
道ならぬ恋 というと陳腐だが、母や姉からの愛情も早くに絶たれていた22歳のムンクの煩悶は想像して余りある。
かくしてミリーの姿は他の女性たちと同じく、ムンクの作品のあちらこちらに現れるのだ。

この作品(と、この作品に出会った展示室に並んだ他の絵たち)が描かれたノルウェーのオースゴールストランはムンクお気に入りの避暑地だった。フィヨルドに面した静かな町で、ムンクはここで多くの夏を過ごし、後年物件も購入してその家は生涯所有し続けた。
この《夏の夜、人魚》はムンクの大テーマである[愛欲][トラウマ]を描いた作品として、また断続的ながら“オースゴールストラン連作” と呼べるであろう作品群のうちのひとつとしても観ることができる。

オーダーシートを前にして

ひとしきり作品に想いを馳せ、オーダー画面を開いた。
画像URLとタイトルを記入したあとの、最後のこの設問が非常に重要になってくる。

②作品について、ご記入ください。
作品に対してご自身のイメージや強調したい点などがございましたらご記入ください。②が未記入の場合①の作品のイメージを重視しセレクトいたします。(文字制限なし)

Celesアート オーダー画面より

自分のイメージを的確に言葉にして、なるべく解りやすく。
多くの香りの中から1つだけに絞るのだから、イメージが散漫では選ぶほうも困るだろう。そういったブレはおそらく結果的に自分の満足度も下げる。

作品に関する『事実』はあっても、その作品を見知った人がその『事実』を踏まえるのか・踏まえないのかも違うし、さらに主観の感想やフィーリングはもっと違ってくるので、絵画観賞(鑑賞)は結局自己との対話とか内省の作業を含むことになる。今回はその辺をよく精査しないと[なんか違った]の原因になるぞ……ということで、私は迂闊にも私蔵のムンク関連書籍を手元に集めて開いてしまったのである。そっちは沼だぞ。

もっとも、その作品に対する一般的な解釈やイメージを香りとして選んでもらいたい場合は、画像とタイトルの添付のみでもいいかも知れない。

迂闊すぎて沼入り

この《夏の夜、人魚》はムンクの大テーマである[愛欲][トラウマ]を描いた作品として、また断続的ながら“オースゴールストラン連作” と呼べるであろう作品群のうちのひとつとしても観ることができる。

これは私見

と上で書いたが、どの切り口を採用するかでこの作品に対する香りのイメージは結構変わってくる。図録などで『事実』の方の確認をとりつつ検討したのだが、どの方向とも決められず思考の川幅がどんどん増してしまった。
ミリーとの関係がおそらく終わって間もない頃の作品であり、トラウマへの囚われを濃厚に感じ、尚且つ情景は美しく清らかですらある。ああ不可分。

文献を参照したことで、香りのイメージはより多くの要素が浮かび上がり、これは自分のnoteに妄想香水として書くべきでは? という気がしてきた。
つまり既存の香りと擦り合わせるというより、オーダーメイド向きの作品なのではと。自分の思い入れがやや重すぎた感じでね。ここまで書き忘れていたけれど、ムンクは卒論の候補に残った画家でもある。

振り出しに戻った

というわけで《夏の夜、人魚》でのオーダーは諦めたのである。

【Celesアート】をオーダーしてみた【後編】へ(未投稿)


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