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居酒屋韓国 003 -優しさは翌日まで続く 初めての味、エイ-

【これは『居酒屋韓国』というエッセイ集の一つの記事になります。韓国で韓国人の友人たちとの交流を通して経験したことや知ったこと、韓国語についてなど色々と書き綴っています。】

 例えば、海外から滅多に会えない友人が訪ねてきたとします。その時に、日本でしか食べられないようなものをご馳走しようと思うのは、ごく自然なことだと思うのです。それが例え、日本独特の食べ物、納豆であったとしても。ご馳走する側は、良い思い出になればと思っているのですから。
 韓国に行ったあの時、いつもとは違い久しぶりに会った友人から「何か食べたいものある?」とは聞かれませんでした。美味しいお店があると言われ、連れて行かれました。私は、食べたいものを聞かれずにお薦めを食べさせてくれようとするその気持ちが嬉しくて、文句もなく友人の後をついて行きました。それに、私が知っている韓国料理の数などたかがしれているので、こうやって知らないものを教えてもらえるのは本当に嬉しいことでした。
 行ってみると、そのお店は内装が特徴的で、店内には甕が飾られており、古風で雰囲気のあるお店でした。そこで出されたのがスジェビ(수제비)という料理。検索してみると、韓国風すいとんと書かれていました。

スヂェビ

 もっちりとしていて、牡蠣が一緒に入っており非常に美味しくいただきました。このスジェビはこの時に存在を知った料理で、まだまだ知らない料理がたくさんあるんだなと思わせてくれた思い出の料理です。色々な場所で食べられますが、私のお薦めは(私はソウルしか分からないので、私のお薦めは基本、ソウルにあるお薦めになります)仁寺洞にあるお店です。仁寺洞には数件、美味しいお店があるので近くに寄られた際にはぜひ検索して興味のあるお店に行ってみて下さい。(その中でも私のお薦めは、仁寺洞スジェビ[인사동수제비]です。)
 さて、前にも少しお話ししましたが、韓国の友人と韓国で会うときは、大抵2次会もしくは三次会まであるのが普通です。この時も私たちはスジェビを食べた後、二件目に向かいました。スジェビが美味しいと絶賛したせいだったのか、二件目も「何が食べたい?」とか「行きたい場所ある?」とは一切聞かれず、知っているお店に連れて行かれました。そこで出てきたのがこれです。


見た目はただの美味しそうなお刺身なんですが……

 日本人には馴染みのある見た目、特に問題はなさそうでした。簡単に説明はされたのですが、韓国語がまだほとんど分からなかった頃なので、軽く頷いてから軽い気持ちで口に運びました。見た目がお刺身に近かったからか、タレの味に興味が傾いていたせいなのか、私は何の疑いも、不安も感じてはいませんでした。しかし、それは突然、私に襲いかかります。
 安心しきっている私の舌に、鼻に痛烈に襲いかかってきたのはアンモニア臭。そうです、味もへったくれもありません。私はアンモニアを食べたのかと思ったほどに、アンモニア臭しか感じる事ができませんでした。それを感じた瞬間、私にとってこの瞬間が一生忘れることができない瞬間になったと感じました。
 そんな私を見ながら「やっぱり無理だった?」みたいな会話。私は、二口目には感覚が変わるかもしれないと、もう一度挑戦。二度目の味は、……間違いない、変わらない、揺るぎないアンモニアの刺激臭。この時点で私はギブアップ。そして友人がお手洗いに行っている隙に、これが何者なのかをちゃんと検索してみると。
 フォンオ(홍어)、ガンギエイだという事が分かりました。エイです。日本でも食べられることがあるのかもしれませんが、私は初めてでした。この話を後日、違う韓国の友人にしたところ、韓国人にとって上級者向けの食べ物だということ。上級者向けってどういう意味?と思いつつも、韓国人でも苦手な方が多い料理のようで、「よく食べたね」と言われました。
 しかし、これを食べに連れて行ってくれたのは優しさだと私は思います。美味しいとか不味いとかではなく、せっかく韓国に来たのだから韓国を少しでも感じられる場所へと連れて行ってくれたのです。ですから、私も最後まで食べることができませんでしたが、あの時のことをこうして覚えていますし、大切な思い出として今でも感謝しています。
 ただ……翌日ジャケットを着るとアンモニア臭を感じる事に。どうやらジャケットにアンモニア臭がついてしまったみたいで、友人の優しさは翌日まで続いていました。

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