桜がほの白く漂う夜気に、せせらぎの音のように溶け込んでいく意識を意識した時、ああこの世界には確かに神の力が遍満しているのだと、この愚かな人でさえ気付くことができた。僕等はどうしようもなく世界に溶けていく。それも何の厭味もなく、何の力みもなく、あらゆるものと調和するように溶けていく。何もかも予定されていたように、意識はいつの間にか脳を抜け出して、遠いような近いような何処かに集合している。ああそんな春の花夢がいつまでも続けば、僕は確実に気を違えるだろう、そして仙人になるだろう。満月より恐ろしいこの国の春の闇、直感が危険を知らせたのだろう。