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【随想】太宰治『美男子と煙草』

 私は、独りで、きょうまでたたかって来たつもりですが、何だかどうにも負けそうで、心細くてたまらなくなりました。けれども、まさか、いままで軽蔑しつづけて来た者たちに、どうか仲間にいれて下さい、私が悪うございました、と今さら頼む事も出来ません。私は、やっぱり独りで、下等な酒など飲みながら、私のたたかいを、たたかい続けるよりほか無いんです。

太宰治『美男子と煙草』(短編集『グッド・バイ』)新潮社,1972

 天使が空を舞い、神の思召により、翼が消え失せ、落下傘のように世界中の処々方々に舞い降りるのです。私は北国の雪の上に舞い降り、君は南国の蜜柑畑に舞い降り、そうして、この少年たちは上野公園に舞い降りた、ただそれだけの違いなのだ、これからどんどん生長しても、少年たちよ、容貌には必ず無関心に、煙草を吸わず、お酒もおまつり以外には飲まず、そうして、内気でちょっとおしゃれな娘さんに気永に惚れなさい。

同上

 信念、信条、哲学、美学、座右の銘、どうとでも好きに言えばいいのだけれど、もしそういうものがあるのなら大切にしよう。自分を制限することそれ自体に善し悪しは無い。何でも使い方次第だ。
 使う。ただ所有するのではなく、使う。見ることも聞くことも寄りかかることも飾っておくことも全部使い方の種類。意識から排除することもまた使わないという使い方。使うことは難しいことではない。

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