【随想】太宰治『新郎』
この世界をこんなに愛しているのに誰にも伝わらない、伝えられない。何度も心を入れ替えた。真摯な気持ちで生きようと、誰も恨まず憎まず全てを愛して生きようと、何度も誓ってきた。でもその度に挫折した。自分を裏切り、他人のせいにして、社会のせいにした。そうして後悔している。また誓い直す。今度こそと、誓い直す。今度こそ愛し愛される人間になろうと、誓い直す。時代が悪いのではない。全ては独りよがり、空回り、それが原因だ。分かっている。忘れても、また思い出す、きっと思い出す。思い出してみせる。忘れないでみせる。誰も悪くない、恨む相手などいよう筈も無い。気付いている、とっくの昔に、小学二年に気付いていた。みんな戦っている。誰も憎んでなどいない。みんな同じ時代に同じ星に共に生きる奇跡のメンバーだ、もう二度とない。だから優しくしよう。そうさ。そうあるべきなんだ。この体はこの時空で生きることを契約された。破棄不可能。いい加減開き直ろうぜ。
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