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【随想】宮沢賢治『双子の星』

 「お日さまの、
  お通りみちを はき浄め、
  ひかりをちらせ あまの白雲。
  お日さまの、
  お通りみちの 石かけを
  深くうずめよ、あまの青雲。」

宮沢賢治『双子の星』(童話集『新編 銀河鉄道の夜』)新潮社,1989

(天の川の西の岸に小さな小さな二つの青い星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星様でめいめい水精でできた小さなお宮に住んでいます。
 二つのお宮はまっすぐに向い合っています。夜は二人ともきっとお宮に帰ってきちんと座ってそらの星めぐりの歌に合せて一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様たちの役目でした。)

同上

 彗星は、
「あっはっは、あっはっは。さっきの誓いも何もかもみんな取り消しだ。ギイギイギイ、フウ。ギイギイフウ。」と云いながら向うへ走って行ってしまいました。二人は落ちながらしっかりお互の肱をつかみました。この双子のお星様はどこ迄も一緒に落ちようとしたのです。

同上

「為すべき事を為せ」、その通りだ。だから為すべき事を知りたい。何もしなくてもいつも誰かが勝手に道を示してくれる、そんな人生を歩む人もいる。道に迷い道を失い外道に堕ちる人もいる。藪を開き道を敷き人々を導く人もいる。為すべき事とはきっと道を歩む道程そのものを指している。しかし今歩いているこの道が、どこから来てどこへ行くのか、誰が何の為に作った道なのか、それが分からない。分からないから思い悩む。目を隠して歩くのはとても怖い、大きな勇気強い心強い体が必要だ、世界は危険に満ちている。どこかに座したい、二度と動かなくていい所に座したい、そこで何もかも完結するような場所にいつまでも座していたい。そうしていつの間にやら脂は溶けて肉は渇き骨は粉々になって風に散ってしまいたい。そして次の誰かがそこに座してくれたなら、もう満足、これ以上求めるものはない、もう何もかもいらない。意味もなく発生して意味もなく消滅するそんな現象になりたい。だから為すべき事を教えてくれ。それが無意味だと、無意味だからこそそうすべきなのだと、この体で証明してみせるから。

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