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【随想】太宰治『清貧譚』

「私は、君を、風流な高士だとばかり思っていたが、いや、これは案外だ。おのれの愛する花を売って米塩の資を得る等とは、もっての他です。菊を凌辱するとは、この事です。おのれの高い趣味を、金銭に換えるなぞとは、ああ、けがわらしい、お断り申す。」

太宰治『清貧譚』(短編集『お伽草紙』)新潮社,1972

 成長とは優先順位の低いものから順々に失っていく過程だと言えるかも知れない。人は全てを持って生まれる。この粘りつく泥沼のような世界で生きていく為には、不要なものをどんどん捨ててなるべく身軽を目指していかねばならない。いつまでも全てを抱えていては人はやがて自分の重さに一歩も動けなくなってしまうだろう。
 捨てるべきものを捨てず捨ててはいけないものを捨ててしまう、そうした選択の失敗を極力抑える為にこそ知識や技術は必要なのであり、即ち教育が必要なのだ。
大切なのは物を捨てることではなく、思考を磨き心を洗練させていくことである。

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