より深く傷付けば、治癒したときの喜びはより大きい。大きな失敗は成功の輝きを何倍も強くする。こうして人は嵌まっていく。飛翔には助走が必要だと、創造は破壊の後にしか行い得ないと、夢は現実に打ちのめされる為にあるのだと、そういう風に体で覚えて、人は光がつくる闇を探すようになっていく。闇に入っては、視力を失い、耳を塞ぎ、乾き切って何も言えなくなるまで口を開け続けるのだ。そうして救いを待つ。ひたすらに待つ。待つという意識さえも失うまで待つ。永遠に来ない救世主を待つ。脳が固まり完全な絶縁体と化したとき、それは完成する。謂わば一本のねじ、謂わば四肢の生えたタンパク質、謂わばアノニマス。