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ココロ泥棒

これまでずいぶん記事を書いてきたが、満足に書けたと自信をもっていえるものが少ない。ただ、小品としてまとまっているなと思うのは「こころ泥棒」である。

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宮崎駿監督の「ルパン三世 カリオストロの城」はだれもが知っている名作だ。

名場面は数々あれど、ぼくの好きなのは最後のエピローグ的なワンシーン。ルパン一味がカリオストロ城を去ったすぐ後に、銭形警部がクラリスのもとに駆け付けてくる。銭形警部が「ルパンはまた盗みやがった」というと、クラリスはルパンは何も盗みませんでしたという。すると銭形警部は「あなたのこころを盗んだのです」という。

いやぁ、今思い出してみてもいいシーンだ。猪突猛進でちょっとおっちょこちょいなTV版の銭形警部がこのワンシーンでとても深みのある人物に変身してしまう。名画ってほんとうに素敵だ。



先日、誰かのnote(覚えてなくてすいません)で合コンの記事があった。このご時世だから合コンも少なくなり、そんなハイリスクな出会いより、より身近なマッチングアプリなどで出会いを求めるというような記事だった。

ぼくらの時代はまだ合コン文化が根強く残っていて、夜な夜なあちこちでひらかれていた。今だから恥を忍んでいうが、ぼくは当時、N先輩の合コン要員だった。

合コン要員(こういう言葉があるかは知らないが)とは、要するに数合わせの人員のことだ。例えば、相手側の女子が4人で、男性側が1人少ない3人の場合、ぼくが呼ばれることになる。

合コン要員の基準があったかどうかは定かでないが、N先輩たちのお目当ての女性を狙わない程度の人物が条件だった。それがぼくの役割である。

自慢ではないが、全くもてないぼくはその役割を遂行する自信があった(そんな自信があってどうする)。そして合コン全敗記録をひとりこつこつと更新していくこととなる。

合コン要員は男性だけかと思えば、女性も同じことを考えるようで、あるとき、派手目な女性たちの中にひとり地味な女の子が混ざっていた。

その女性をSさんとしておく。SさんはN先輩たちの目に(残念ながら)留まらず、自然な流れとしてぼくとSさんが近くの席に席替え(合コンには席替えという文化が存在した)することになった。

向こうで盛り上がっているN先輩たちと派手目の女性たちをしり目に、完全に取り残されたぼくらはお互いの自己紹介をぽつぽつとし始めた。

合コン要員を務めるくらいだから、お互い哀しいほどに不器用で、うまい会話で盛り上がるわけでもなく、ひっそりとゆっくり時間が経っていった。でもぼくはそのゆっくりとした時間が嫌いではなかった。自分のペースがあるように、相手にも譲れないペースというものがある。うまがあうというほどではないが、お互いの会話は弾むことはないものの、同じリズムでゆっくりと進んでいった。

こういうことに慣れていないぼくは、こんな場違いな場所(失礼!)にこんな子もいるのだなとこころが和んだ。もっとほかの場所で出会えていればよかったのに。

たまたま、会話の流れでどんな音楽を聴いているのかという話になった。何気ない会話だった。するとSさんは「坂本龍一が好きです」と話し出した。

(教授・・・)

名前は知っていたものの、坂本龍一さんについてのぼくの知識は「戦場のメリークリスマス」に出演した人というぐらいのものだった。その音楽性についてぼくは何も知らないとSさんに正直に告げた。すると、彼女は人が変わったように坂本龍一の音楽について熱弁しだした。リズムが変わった。

そこからは先生と生徒のように、「坂本龍一の音楽がいかに素晴らしいか」についての彼女の講義を延々と聴講する羽目になった。そこには今まであった、ちょっとした親密な空間はすでに失われていた。

そしてダメな生徒に先生が絶望するように、Sさんも元のトーンに戻っていった。おそらく彼女はぼくに失望したに違いない。自分の大切にしているものを正直に伝え、それが相手にも理解してもらえるのはとても素敵なことだ。しかし、残念なことに、ぼくにはそれを理解するほどの知識もなく、丸ごと受け止めるほどの経験もなかった。

やがて会はお開きになり、N先輩は素敵な女性をお持ち帰りして夜の街に消えていった。ぼくとSさんはそれぞれ別々の帰路に就いた。

ぼくに女性をお持ち帰りするほどの力量がないのは重々承知しているが、せめてSさんのこころを少しくらい持って帰ることはできなかったのだろうかと残念におもう。結局、Sさんとはその後会うこともなく、N先輩と素敵な女性はすぐに別れてしまった。



さて、出雲神話の中で身も心も溶かす神様の代表といえば大国主命だろう。高天原から葦原中つ国を奪うためによこした使者を2人も味方に引き入れている。なかなかこれはできない芸当だと思う。さらに、何人もの女性に愛され、仲間に恵まれた大国主命。それは国を造って当たり前だ。



ぼくもルパン三世のようにかっこよく女性のこころを盗むことができたらなと思ったこともあった。ずいぶん、昔の話だ。

ぼくはときどきSさんのことを思い出す。あの熱心に語ってくれた「坂本龍一愛」をきちんと誰かが受け止めてくれるといいなとおもいながら。


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この帰路のとぼとぼと歩いている感じが、自分のことながら寂しくていいなとおもう。

さて、今回は大国主命のことで終わるところであるが、もうひとつエピソードを加えてみたい。

イザナギイザナミの国生み以前についてである。じつをいうと(ご存知の方もいらっしゃると思うが)、イザナギ・イザナミは男・女神であるが、それ以前にも男・女神は存在している。

ウヒヂニとオオホトノベ、ツノグイとイクグイ、オホトノヂとオホトノベ、オモダルとアヤカシコネの4組の男・女神である。しかしながら、この4組は残念なことに国生み出来ずに終わっている。うまくいったのはイザナギイザナミが現れてからなのである。これはどういうことなのだろうか。

ぼくはそこに男女関係の難しさを感じる。神様達でさえ、5組に4組はうまくいかずにおわったのである。確率でいうと、1/5ということになる。

ここでいいたいのは「若者たちよ、失恋を怖がるな」ということではない。ぼくも何回も失恋をすれば、いいかげん耐性が付くものだと思っていたけれど、実際はいつも身に堪えたものだ。だから偉そうなことは言えないのだけど、「神様たちだって5回に4回は失敗しているんだから、ちょっとは元気を出してみよう」くらいはいってあげたい。

故アントニオ猪木のように立派なことはいえないけれど、「迷っても、ちょっとは前を向いていってみよう」くらいはいえるかな、この歳にもなると(苦笑)


今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。 
 
よかったら、出雲大社にもいらしてください。

大国主命はあなたの身も心も盗みますよ(ほんとうかどうかはわかりません)

お待ちしてます ♪



こちらでは出雲神話から青銅器の使い方を考えています。

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