超時空薄幸児童救済基金・11

#小説 #連載小説 #ゲーム #SF #ファンタジー

(はじめに)

 マガジンの冒頭でも簡潔に説明していますが、奇妙な慈善団体に寄付をし、異世界で暮らす恵まれない少女の後見人となった「私」の日記です。

 私信(毎月、少女から届く手紙)と、それを読んだあとの「私」の感想部分が有料となっています。時々、次の手紙が届くまでのインターバルに、「私」が少女への短い返事を送るまでの日記(Re)が書かれることがあります。こちらは、基本的に全文が無料となります。

(バックナンバーについて)
 マガジンのトップで一覧を見てください。
 時系列の若い順に並べてありますから、文末にある前後のリンクで流れを追って読むことができます。

※もともとは現実の時間に合わせて月一回の更新をしていましたが、本業の執筆が遅れたため、現在は半年ほどずれてしまっています。

では、奇妙な「ひとりPBM」的創作物の続きをお楽しみください。

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「大変です! どうやら、砦で大きな事件があったようです!」

 応対に出るなり、ドアのすき間から中に押し入ってきた連絡役の男は、こう切り出した。彼がこんなに慌てているのを見るのは、初めてかもしれない。

「事件って……どんな?」

 私が聞くと、男は不安そうな顔で首をふった。

「わかりません。ただ、一時期、砦との連絡が途絶えたようです」

 彼の緊張した声の調子に、私も不安になってくる。
 差し出された独特の書簡に入っている少女からの手紙と、訳文のシートは、いつもと変わりないように見えるのだが……。
 しかし、砦と連絡が取れなくなったとは、たしかに尋常ではない。あちらの世界での超時空薄幸児童救済基金の担当者は、辺境のコトイシ砦にいるわけではなく、文明地(もしかしたら都?)にいるのだろう。少女の手紙にあった「信頼のおける行商人」が、その人物という可能性もある。こちらの世界から派遣されたのか、あるいは現地の人間が雇われているのか……。
 あの獣の群れがコトイシの城壁に押し寄せたときでさえ、連絡役の男は「事件」と称したりはしなかった。その彼が、今は「砦に何かが起こったらしい」と取り乱している。
 よほど不測の事態なのだろう。

「……きみは、この手紙を読んでいるのか?」

「いいえ。我々は信書を勝手に見たりはしません。原文を目にするのは訳者だけですが、もちろん内容の秘密は守られています。しかし、あちらで大きな事件があった――との報告は受けているのです。少女からの手紙が遅れていたのもたしかですからね。私としても心配で……」

「ああ……」

 まったくだ。彼女は無事なのだろうか……。
 毎月、月の半ばまでには届いていた従騎士の少女からの手紙が、丸々ひと月たっても送られてこないのはどうしたことか……? と、私も気を揉んでいたところだったのだ。
 そこへ、いきなり「事件」との報せとは……。
 私は、いやなことを想像して小さく息をのんだ。

「待ってくれ。今回のこの手紙、本当に彼女からのものなんだろうか。代筆者が書いたりとか……してないよね?」

「さあ……。私もそこまでは……」

 手紙が届いたからといって、安心できないのではないか?
 少女の身に何かがあったことを、後見人に報告する書簡――という可能性だってあるんじゃないのか?
 もしそうなら、彼女の身になにか災難が降りかかったのかもしれない。
 私は、原文のほうの便箋を手にとって、つぶさに調べた。
 さっさと、訳文のほうを読めばすむことだ――と思われるかもしれないが、もし悪い結果だったらと、すぐに結果を知るのが恐ろしくもあったのだ。

「差出人は……彼女だ。名前が書いてある。本人が書いたみたいだ」

「読めるのですか?」

「なんとなくだけど、名前ぐらいは覚えたよ」

 ザッと見回して、本文の中に「T.A.」の文字も見つけた。このことを知っているのはあの娘だけだ。間違いない、この手紙は彼女からだ……と、心の底からホッとする。

「少なくとも、手紙を書けるぐらいには元気なようだ」

「届いたのが数日前ですから、一ヶ月以上、手紙を書き送るような状況ではなかった――ということですかね」

「かもしれない」

 言いながら、またしても不安になってくる。
 もしかしたら、この手紙が書かれたのは一ヶ月くらい前のことで、その後、彼女の身になにかあって、後になって書簡が発見されて届けれられたとしたら……? その可能性だってあるではないか。

「できれば、手早く本文を確認して、彼女の安否だけでもお教え頂けませんか? あくまで個人的なお願いですから無理強いはできませんが……」

 男がなかなか帰らなかった理由に気づいて、私はうなずいた。
 そう。
 訳文を読めば、それはすぐに確認できるのだ。

「わかった。読んでみよう」

 そう言って、私は手紙を読み始めた。

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