舟崎泉美
【小説】シンデレラはいつだって
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【小説】シンデレラはいつだって

舟崎泉美

 おとぎの国に住むシンデレラは母が亡くなり悲しみの日々を過ごしていました。そんなある日、父は再婚。継母と義姉二人が家に来ることになったのです。しかし、再婚後、まもなく父も亡くなってしまいました。
 シンデレラに残された家族は継母と義姉二人。どちらもわがままで自分勝手。シンデレラの気持ちなんてちっとも考えていません。しかし、シンデレラはわかっていました。この世で生き残れるのは、美人で優しくて素直な女の子だけだって。ご飯を作れて、お裁縫ができて、お洗濯にお掃除もできて、男性に尽くすことができる女性が幸せになれるって。だから、継母と姉二人にこき使われる状態を花嫁修業として楽しむことにしたのです。そうすれば、いつか王子様が迎えに来てくれると信じていたから……。

 ある日、シンデレラが目を覚ますと見知らぬ部屋にいました。ここはどこ? 私は誰? こんな展開、おとぎ話のシンデレラにあったけ? そんなことを考えていると扉がノックされます。
 恐る恐る開けると、見たこともない服装をした小太りの女性が目の前に立っていました。
「あなた新堂さんよね? 私、林っていうの。あなたのお世話係。寮の入り口で八時に待ち合わせだったけど、来るのが遅いから部屋まで迎えに来たのよ。新堂さん、まだ準備してないの? 初日から遅刻とはなかなかやるわね」
「しんどう? 私はシンデレラですけど……」
「はあ? まだ寝ぼけてるの? 新堂さん」
「私の名前はシンデレラです」
「新堂絵羅さんでしょ?」
「シンデレラです」
「確かに似てるけど……って、ふざけてないで早く着替えて会社行くわよ」
 シンデレラは、部屋にあったワンピースを慌てて着て、困惑したまま林さんについて行きました。会社って何かしら? それに、このおばさん誰? 継母なみに強敵そうだけど……。

 会社に到着したシンデレラは、林さんから仕事を教わります。
 しかし、シンデレラはちっともわかりません。ワード? エクセル? どれもこれもがちんぷんかんぷん。
「何も知らないのね……じゃあ、何ならできるの?」と林さんに聞かれたシンデレラ。
「お料理とお裁縫が得意です。お掃除にお洗濯もできます。結構、なんでもこなせるんですよ」と自信満々に返事をします。
「新堂さん、今の時代、家のことだけできても駄目なのよ。あなたみたいなキレイな人はニコニコ笑ってご飯を作って家で待ってれば、稼いでくれる旦那もいるかもしれない。でも、そのままでいいの? もっと、社会に出て自分らしく生きないと本当の幸せなんて巡ってこない……それに、年をとると美貌は消えちゃうのよ」と、あきれ顔の林さん。
「でも、王子様はこんな私が好きなはずですから、このままでいいんです」
 林さんはシンデレラの顔を見て大きなため息をつきました。
 シンデレラはこれも試練。このおばさんの冷たい態度にも負けず、毎日、過ごしていればそのうち王子様が迎えに来てくれるはず。そう信じていたのです。

「ねえ、お昼一緒に食べよう」そう言って、シンデレラに腕組みをしたのは瑠香でした。
「あそこが、券売機で……」と説明すると不思議そうにするシンデレラ。
「けんばいき?」
「そう。あそこで券を買って、食堂の係の人に渡すのよ」
「ああ、あそこにいる食堂のおばちゃんですね?」
「おばちゃん? あなた失礼ね」
「そうですか? それにしても社食って素晴らしい。料理人があんなにたくさんいるんですね。私のいた世界とは違います」
 シンデレラの反応を見て瑠香は、恐る恐る聞いてみました。
「んっ? あなた、もしかして日本人じゃないの?」
「日本? って、ここですか? この世界のこと?」
 その反応に瑠香は、遠い国から来たばかりなのだと思うしかなかったのです。
「お金、持ってる?」
「お金?」
「通貨! マネー!!」
「持ってないです」
「わかったわよ。もう、おごりね」
 この国に慣れてないのだから仕方ない。長女でお姉さん気質の瑠香はそう思いシンデレラの面倒を見ようと決めたのです。
「わあ、このご飯すごくおいしいですね。この野菜も、お肉もおいしい」と、笑顔のシンデレラ。彼女は継母と義姉二人とともに、質素な暮らしを送っていたので豊富なメニューがある社食にものすごく感動してしまいました。
「あなたとっても貧しい国から来たのね」と、どんどんおかわりをするシンデレラを見る瑠香。その時、スマホが鳴り素早くメールをチェックして大きく溜息をつきます。
「新堂さん、今晩、空いてる?」
「特に、予定はないですけど……」
「じゃあ、良かったら一緒に合コン行かない? 一人キャンセルが出ちゃった」
「合コン?」
 シンデレラは合コンを何か知りませんでしたが、おいしいお酒とご飯が食べれると言われ瑠香についていくことに決めました。

「今日は、医者に弁護士にエリート商社マンにハイスペック男性ばかりよ」
 合コン会場の飲食店に向かう途中、瑠香は浮かれたように話します。
「おいしいお酒とご飯じゃないんですか?」
「男もおいしいお酒とご飯のうちよ。素敵な王子様に出会いたくないの?」
「王子様には出会いたいですね!」
 合コン会場に着くとアンティーク調のオシャレな個室に、いかにも高そうな服を来た男性が四名。そして、高価ではなさそうだけれども着飾った女性が二名いました。
「遅れてごめんー」と瑠香は真ん中に座ります。シンデレラは遠慮がちに端に座ります。合コンというのはこの時代の舞踏会なのかもしれないと感じたシンデレラ。王子様と出会うチャンスを逃してはならないと思いました。
 挨拶も終わり合コンがはじまると、瑠香をはじめとした三人は積極的に王子様候補に話しかけます。しかし、王子様に好かれるためには献身的になるのが一番と思ったシンデレラは、料理をとりわけるのはもちろん、男性がワイングラスを倒し割ってしまった時には、ガラスの破片を拾い、テーブルにこぼれたワインを懸命に拭きました。
 合コンの帰り道、シンデレラは大手商社に勤める男性から声を掛けられます。それは、ワインを倒し、グラスを割ってしまった鈴木さんです。
「また、会いたいんです……」
 この人が王子様だと確信したシンデレラは咄嗟に「ごめんなさい」と走り去りながら、さりげなくポケットに入っていたハンカチを落としたのです。それは、おとぎ話で王子様がガラスの靴を拾ったように、ハンカチを拾った彼がもう一度シンデレラの前にあらわれると信じていたから……。

 翌日のことです。林さんにいろいろ仕事を言い渡されぐったりしながら会社を出たシンデレラ。そこに、鈴木さんが待っていました。「これ」と言ってハンカチを差し出されたシンデレラは黙って受け取ります。
「もう一度、会いたくて、あの後、瑠香ちゃんに新堂さんの電話番号聞いたんだ。でも新堂さんは遠い国から来てスマホを持っていないっていうから……よかったらこれ使って」鈴木さんはスマホをシンデレラに渡しました。二台持っていて一台は解約しようとしていたと言いますが、新たに契約したのでしょう。彼は心底、シンデレラに惚れてしまったようです。
「これ、なんですか?」というシンデレラに対して、彼は「ご飯でも一緒に」とデートに誘いスマホの使い方を教えてあげました。
 その日から二人は、頻繁に連絡をとりあうようになります。やはり、どの世界でもキレイで完璧に家事をこなせる女性が王子様と結ばれると確信を持ったシンデレラは、彼の家まで行き、料理も洗濯も掃除も家のこと全てをするようになりました。しかし、しばらくしたある日、シンデレラは突然、鈴木さんにフラれてしまうのです。
 彼がシンデレラをフッた理由は「仕事はいい加減なのに家事は完璧だなんて、お金を持ってる人と結婚さえすればいいって考えてるように見えて、俺の価値はお金なのかなって思った」というものでした。
 シンデレラは彼をお金とは思っていませんでした。しかし、王子様と結婚できれば万事OKだと思っていたことは事実です。シンデレラは自分の考えに疑問を持ちはじめました。
 シンデレラは社食でご飯を食べながら瑠香に相談します。
 しかし、瑠香は冷たく言い放ちます。
「男も稼ぐのは大変な世の中だから、自立した女性に魅力を感じるのよ。だから、私は仕事でも手はぬかないわ。もちろん王子様探しも手を抜かない。でも、新堂さんは家のことしかできない。あとは美貌だけ。今の時代の人じゃないわね」
 家で男性を待ってるだけじゃなくて、女性も社会に貢献しなきゃいけない時代なのね。いつまでも保守的じゃいけない。継母やお姉さまにもやり返すような強気の女性のほうがいいのかもしれない。王子様を待つのは悪とは言えないけれど、それしか幸せになる方法を知らないのは不幸。自分が幸せになる方法は一つじゃない。いろんな方面にあるはず。
 シンデレラは仕事ができないばかりに雑用ばかり頼まれていました。でも、林さんに頼まれたシュレッダーをかけながら、いつまでもこんな仕事ばかりしているとこの時代に乗り遅れてしまうと考えるシンデレラ。

そこに林さんが通りかかります。
「あなた彼氏にフラれたそうね。これで仕事にもやる気がでた? 王子さまに出会うために生きるって考えはやめて、女だからって遠慮せずに自分の力で幸せを勝ち取りなさい」
 本当にその通りだと思ったシンデレラ。
「きっと今の時代は王子様も自立した女性が好きですよね。これからは、自分で幸せをつかみます!」と力強く言うと、林さんはにっこり微笑んでくれました。
そして世界はまわりはじめます。ぐるぐると……天井が周りやがては暗闇に……。

◆◆◆

 シンデレラが目を覚ますとお城の舞踏会の真っ只中でした。何がなんだかわからない状態ですが、シンデレラは待っているだけじゃダメとおとぎ話にあるガラスの靴のくだりを飛ばして、その場で王子に結婚を申し込んだのです。

 2018年現代おとぎの国——。
 女子高生の憧れの歴史上の人物には「シンデレラ」の名前があがります。その理由は「女性の生き方を多様化させたから」というものが多いです。シンデレラは舞踏会で王子様に逆プロポーズをして姫の座を手に入れ、その後、王子以上に働き女王になりました。そして、男女差別や階級制度のない国を作ったのです。
 また、現代ではシンデレラだけでなく継母も憧れの人物として挙げられます。彼女もシンデレラが女王になった後、自ら事業を起こし大富豪になったのです。継母の打算的な性格は男女平等の世の中で見事に発揮されることになったのでした。
 現代は自分の頑張り次第で幸せになれる時代。みんなが王子様であり、シンデレラなのです。

小説:舟崎泉美 イラスト:目黒雅也

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この物語は雑誌「クリネタ」35号に掲載されていたものを加筆・修正したのものです。

初出 シンデレラはいつだって 雑誌「クリネタ」35号 2016年9月

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舟崎泉美
小説家・脚本家・ライター。 小説『ほんとうはいないかもしれない彼女へ』(学研プラス)にて、第一回本にしたい大賞を受賞しデビュー。 小説や脚本を書いたり、作詞をしたり、映画を作ったり、アナログゲームを作ったりと、さまざまなクリエイティブに挑戦中。