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小さな欠けのお直し

うつわの破損状態は大きく分けると、「欠け」「割れ」「ひび」の3種類あります。今回は、その中でも一番簡単に出来る「欠け」のお直しについてです。
「はじめての金継ぎA」と「はじめての金継ぎB」でお伝えしている技法です。
(レッスンのコースについて、詳しくはこちらをご覧ください。)

先ずはじめに、欠けた箇所を繕う大まかな作業の流れを簡単にお伝えします。
作業は次の3行程。①欠けを埋める ②漆を塗る ③金を蒔く
とてもシンプルな行程なのですが、全ての行程が1度では終わりません。同じ作業を何度か繰り返しながら、少しずつ進めていきます。

それでは、実際の作業を①から順にお伝えしていきます。
材料と道具は全て、レッスンを受けられる方に購入して頂いている金継ぎセットを使用しています。

①欠けを埋める


横幅1㎝弱の小さな欠け

埋めていくのは、こちらの欠けです。
欠けた箇所に、油汚れがあったりすると、作業で用いる漆を弾いてしまう可能性があるので、作業の前に、洗剤で軽く洗っておくと良いです。


サビ漆を盛るところ

漆を用いたパテ(サビ漆)を作り、竹ヘラを用いて欠けた箇所にサビ漆を盛ります。一度に全てを埋めようとせず、少量をヘラの先に乗せ、欠けているところに擦り付けるように竹ヘラを動かします。

この「サビ漆」は、金継ぎの作業においてとても重要で、繰り返し作ることになりますので、別で作り方を詳しくお伝えします。

サビ漆を盛ったところ

この状態で、梅雨時期だと2~3日、それ以外だと4~5日かけて固めていきます。
漆を固めるのに適した環境は、気温18~20度、湿度60~70%と言われてますので、
そのような環境を作ります。段ボールに霧吹きで水を吹きかけ湿度を与たうえで、器を入れて固めるのが、一番手軽な方法です。

数日かけて固めたところ

数日後、表面を触ると硬くなっているのが見た目にわかります。
これで、次の行程にいきたいところなのですが、欠けた箇所を埋めたサビ漆は、
固まる過程で水分が抜けて、少し痩せてしまっています。
なので、表面を少し整えて、再度サビ漆を盛る作業を行います。

先ずは、表面の大きくボコボコしたところにカッターの刃を当て削っていきます。

カッターであらかた削り終えたら、今度はサンドペーパー800番に水をつけ、
表面を研いでいきます。

そうすると、1度目で埋めきれていなかった箇所が見えてきますので、そこに、再度サビ漆をすり込ませていきます。
ヘラを器にこすり付けるように、ヘラのしなりを利用して、少し力を入れるのがポイントです。そして、前回同様、数日かけて固めていきます。

この、サビ漆を盛って、固めて、研いで、盛って、を繰り返しなから、欠けを埋めていく作業は、欠けが深くなればなるほど、回数が多くなります。
一度で埋めてしまいたいところですが、沢山盛ってしまうと、表面だけ固まって中は固まっていません。。

なので、焦らず気長な気持ちで取り組んでみてください。
そうやって丁寧にプロセスを踏んでいくことで、強くて美しい下地が出来上がります。美しい下地が出来ると、次に塗る漆も美しく塗れますし、最後の仕上げ、金粉を蒔いた時に必ず報われますよ。

②漆を塗る

前回の行程を何度か繰り返して、欠けた箇所が完全に埋まったら、
最後は表面が滑らかになるよう1200番のサンドペーパーで研ぎ整えます。
そして、この箇所に漆を塗り重ねていきます。

黒漆を筆に含ませ、ゆっくりと筆を動かし、錆漆の箇所を塗っていきます。
どこから塗っても良いのですが、先ずは真ん中に筆をおろし、左右に塗り広げてゆき、周りを塗っていくと均一に漆を塗ることが出来ます。
縁のも忘れずに塗ってください。

塗り立ては表面が艶っとしています。
この状態で、再度、段ボールの中で湿度と温度を与ながら時間をかけて漆を固めます。表面が固まっていても、中が固まっていない場合もあるので、
気長に、4〜5日かけて固めましょう。

この、漆を塗る行程も、回数を重ねることで、仕上がりの美しさが断然異なってきます。漆を塗り、固めて、サンドペーパー1200番で研ぎ、さらに漆を塗り、固めて、を何度か繰り返します。その際、黒漆の次は、絵漆(弁柄漆)を塗ることで、塗りもれがなくなります。

③金を蒔く

塗った黒漆が固まったら、サンドペーパーの1200番で表面全体を軽く研ぎます。

そして、今度は弁柄漆(絵漆)を塗ります。
筆に漆を含ませ、厚塗りにならないように板の上で漆を拭います。

黒漆と同様、全体に均一に塗れるよう、ゆっくり筆を動かして全体を塗ります。
この時、真ん中から塗り広げていくと、塗りやすいです。
塗り終わったら、しばらく置いて、漆の表面を固めます。

表面が固まってきたところ(固まる一歩手前)で、真綿に金粉をつけて金を蒔きます。漆を塗った箇所に真綿を当てて、優しく上からポンポンと粉をのせていくイメージです。

この金を蒔くタイミングの見極めはとても難しいです。器の素材や、その日の気候により異なるのですが、10分おきに漆の状態を観察してみると、少しずつ表面の様子が変わってくるのがわかります。塗りたての漆の表面がギラギラした感じが落ち着き、表面に少し膜が見えてきたら蒔きどきです。

金が全体に蒔けたら、その状態のまま、4,5日かけて固めます。
その後、水で周りの金粉を洗い流したら完成です。

④まとめ

以上が小さな欠けのお直しの行程です。
①欠けを埋める、②漆を塗る、③金を蒔く、のシンプルな3行程を、気長に繰り返して仕上げていきます。

この、気長に繰り返すという時間がポイントだと思っています。
デジタル機器に触れていることの多い現代において、
天然素材と向き合いゆっくりと手を動かしていると、不思議と心が整っていくのを実感するからです。

ちょっと時間を作って、そんな気長な時間も楽しんでもらえると嬉しいです。
最後までお読み下さり、どうもありがとうございました。

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