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親知らずの抜歯

 今週は親知らずの抜歯などについてご紹介したいと思います。
 親知らずは歯並び良く生えてくれれば良いのですが、多くの人が真っ直ぐに生えずトラブルの元になってしまいがちです。
 真っ直ぐに生えてこられなかった親知らずは、骨の中で横向きに埋まっていたり、斜めに頭を出して隣の歯を押して傷めたり、隣の歯との隙間にプラークが溜まってむし歯や歯周病の原因にもなりかねません。この様な状態の親知らずはトラブルを引き起こす前に抜歯することを推奨しています。
 親知らずが原因のむし歯や歯周病で治療が手遅れになると隣の奥歯が痛んでしまったり歯並びが変わって奥歯で噛めなくなったりすることもあります。歯ぐきから舌の下、頬や首に炎症が広がり蜂窩織炎(ほうかしきえん)を起こして入院に繋がるおそれもあります。親知らずのトラブルは周りの歯ぐきが腫れるだけではなく前述のトラブルに繋がるということを知っておいてください。

 深刻な状態になる前に親知らずを抜いて、お口の中から炎症の原因を消し去って、ご自身のお口と体の健康を守るようにしましょう。
 さらに、年齢が高くなるほど歯と顎の骨の癒着が起きやすく、抜歯するのも大変になります。抜くならなるべく若いうちがお奨めです。
 ちなみに、疲れた時に奥歯がうずいて痛いというのは慢性的な炎症があるサインです。放置しても自然治癒することはありません。悪化する前に、できるだけ早期に歯科医院を受診しましょう。
 なお、炎症を起こして腫れるには理由があります。原因を取り除かないまま、腫れたり腫れが引いたり繰り返すことで一時的に腫れただけと抜歯を先送りしたり、気が付かなかったりするうちに更に炎症が広がって起こるのが頬が腫れるなどの「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」です。
 蜂窩織炎とは、皮膚やその下の組織に起きる細菌性感染症です。特に親知らずの炎症は油断禁物で、舌の下、頬、下顎、そして首へと周囲の軟組織の隙間伝いに急速に拡大しやすいという特徴があります。発熱して入院などということも珍しくありません。口の周りの咀嚼筋にも炎症が起こるので口が開けにくくなったり、食事を飲み込みにくくなったりします。さらに重症化すると気道閉塞や敗血症に繋がることもあります。
 また、問題のある親知らずを放置していると増えるのが口の中の噛み傷です。スペースの無い所に無理に生えるため隣の頬粘膜を繰り返し噛んでしまって潰瘍になってしまうこともしばしば。当初は擦れて気になる程度でも徐々に親知らずが生えるにしたがって痛みが起きてしまいます。親知らずを抜いてしまえば噛むことも無くなり、次第に治ります。
 親知らずが痛みだした後、たとえ痛みが消えたり痛みを我慢したりしても自然治癒することはなく、トラブルの元を抱えたままで、そのうちまた悪化してしまうだけです。痛む前に少し擦れるかな、最近頬をよく噛んでしまうかなと感じたら、まずは早期に歯科受診を行って治療の相談を行うようにしましょう。
 また、上記以外にも親知らずを抜いたほうが良い方がいらっしゃいます。それは矯正治療を行おうとされている方です。矯正治療を終えて歯並びがきれいになっても、その後に親知らずが生えて来て歯並びが乱れてしまってはせっかくの矯正治療が台無しです。歯並びを乱すおそれのある親知らずがある方は矯正治療を始める前に抜歯しておくようにしましょう。
 ここまで親知らずを放置した際に起こるトラブルをご紹介しましたが、次に抜歯方法と抜歯後の状況をご紹介します。
 親知らずの抜歯後に痛みや腫れが起きるのはトラブルの元だった親知らずが骨の中に深く埋まったままのことが多いからです。斜めに生えていたり、歯ぐきの中に埋まったままだったりする親知らずを抜くには、まず歯ぐきを切開し骨を削って親知らずの頭を出さねばならず、これが痛みや腫れを引き起こす原因です。
 原因を取り除くためには親知らずを抜歯しないとなりませんが、トラブルを引き起こすような親知らずは、深く埋まっている、歯根が抜きにくい形状に曲がっている、骨を抱え込むようになっている、歯根のすぐ先に太い神経が通っているなど抜歯の難易度も高くなることもしばしば見られます。
 ただ、蜂窩織炎が起きているなど強い炎症が起きている最中は炎症によって生じる酸が麻酔の効果を打ち消してしまい、麻酔が効きにくくなるため抜歯はできません。また、炎症がある中で抜歯をすると治りが遅く、二次的な感染症を引き起こしやすく痛みや腫れがひどくなってしまうこともあります。この様な時は抗菌薬を服用して炎症を抑えてから抜歯を行います。
 「ひどい炎症が起きているから思い切って抜いてもらおう」、「腫れがひどいから抜いてもらおう」と思われてもその状態のままでは抜けません。なので、このような状態になる前にトラブルを引き起こすような親知らずは早めの抜歯を推奨しています。
 最後に抜歯が終わった後の治り方をご紹介します。

 親知らずに限らず抜歯を行うと当然そこには歯を抜いた穴(抜歯窩)ができ歯槽骨がむき出しになります。すると術後直ぐに歯槽骨からじわじわと血が染み出して穴の中に溜まります。
 翌日になるとその血が固まってきて血餅(ゼリー状)になってむき出しになっていた歯槽骨を保護する役目を帯びます。
 2週間ほど経過すると穴の上が粘膜に覆われて塞がり、下からは新しい歯槽骨ができ始めてきます。
 3ヶ月ほどするとまだ軟らかいですが新しくできた骨で穴が塞がります。個人差はありますが、回復が順調であれば概ねこのような経過で治癒していきます。
 ただ、翌日くらいからできてくる血餅が取れてしまうと「ドライソケット」という症状になって痛みが出始めたり、痛みが増してきたりすることがあります。ドライソケットにならないように抜歯当日はブクブクと強いうがいは避けて水を口に含む程度にしてください。また気になるからといって舌で触るのも厳禁です。もしも痛みが増してひどいようなら歯科医院に連絡して受診するようにしてください。生理食塩水で洗浄し、局所麻酔薬の軟膏を塗布したり、痛み止めや抗菌薬を服用したりすることで1~2週間ほどで治まってきます。

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