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レコードプレイヤーで聴いてますか?

先日、Twitterの相互フォローさんがこんなアンケートをとっていて、結果が出た。

想定の範囲内な感じなので全く驚かなかったが、この数字を見て「レコードが再流行」と何年も前から音楽業界内外で言われ続けているこの状態に懐疑的だった私の疑念がより一層深まった。

じっくり聴く人以外に扱えるフォーマットではない

アナログ・レコードのLP盤は片面20分程度がMaxの記録時間である。つまりアナログで音楽を聴こうと思ったら15-20分おきに最初から針を落とし直すか、ひっくり返すか、別のタイトルに取り替えるか、どれかの動作を求められる。じっと音楽を聴く時間がない人が6割を超える中、その動作を苦にせずできる人口っていったいどれくらいいるのよという話である。

「CDよりアナログ・レコードの方が数字で比較しても音がいい」とか「ぬくもりのある音が再評価されてる」とか、絶対違うと思う、何か別の理由で人気再燃してるはずだと、私は長年考えてきた。

アナログ・レコード再評価の波は00年代から始まっていた


というのも私自身、今のようなアナログ再評価トレンドが世界レベルに広がる以前の、米国の都市部でアナログ・レコード人気復活と言われていた00年代から、新作のCDを買って聴いて、気に入ったものでアナログ・レコードもリリースされているものだったら後からアナログを買っていたからだ。買っていたけどレコードプレイヤーでは全然聴いてなかった。開封すれば中にデジタル・ダウンロード・コードが入っているので、そのコードでmp3ファイルをダウンロードして聴いていた。レコードプレイヤーは持っているけどそれこそ、じっと音楽だけを聴く時間はそんなにないし、アナログレコードはCDと違ってとても繊細なメディアだ。爪で引っ掻き傷を作ったらもうそれだけで一発アウト、聴けなくなってしまう。気に入った作品だから繰り返し聴いて、そのせいで傷をつけてしまって聴けなくなった経験が過去に何度もあるからこそ、アナログは取り出さない、針を落とさない派となってしまった。多分私のような人は少なくないと思うのだ。

音楽を所有するということ


今のアナログ・レコード再流行には「音楽を所有すること」とその在り方が変わってきたことが関係していると思う。iTunes やAmazonデジタル・ミュージック・ストアでデジタル・ダウンロードで買う人が急増した00年代、狭い部屋をより狭くするCDの山から解放されるコンパクトなHDDにアルバム何千枚分も入るデジタル・ダウンロード、足を棒にして探し回らなくてもオンラインでサクッと買えるデジタル・ダウンロードは音楽好きな人にとっては画期的なスタイルだった。それと同時に、手に取れるものがなにもないデジタル・ダウンロードでの購入に対して「好きな音楽を買うってどういうことなんだろう?」と音楽ファンが考え始めた時期でもあり、アナログ・レコード再評価は実にそのタイミングで始まっている。

20年代だからこそ

日本は欧州、北米と比較するとCDでの購入率がとても高いまま今の時代を迎えた。00年代には欧州、北米のレーベルはCDの販売と並行してデジタル販売にも力を入れてきた。そんな時代に於いても、日本のレコード会社はiTunes StoreやAmazonデジタル・ミュージック・ストアでの販売には積極的ではなく、頑固にCD販売にこだわった。それはリスナー側からも批判されてきたが、20年代に入った今、欧州、北米のレーベルやアーティストはCDやアナログ・レコードの製造販売に注力する方向に回帰している。サブスク時代に入って、「音楽を買ってもらう」ことが難しくなった。どう買ってもらうかを考えた時に、「所有してもらう」そして「音楽を所有するということ」を考えるとCDやアナログ・レコードなどの物理メディアで所有する実感を持ってもらうことの大切さに気付いたんだと思う。

アナログ・レコードは本当に流行っているのか?

各国のレコード会社がアナログ・レコードのリリースに力を入れているのは事実だし「アナログも出したいんだけどレコード人気がすごくて生産が追いつかないから順番待ちがすごくてねー」とレコード会社の人たちは言う。それを聞いた人たちは「アナログ・レコードって流行ってるね」という認識を強固にしていくわけだが、それは単純に製造できる工場が世界中で不足しているから、需要と供給が一致してないから簡単に製造できないだけであって、音源購入者におけるデジタル・ダウンロード、CD、アナログ・レコードのそれぞれの割合で考えたらアナログ・レコードはごくわずかなのだ。

流行ってるのにアナログ・レコードを買わない人々

「音楽は好き、推しもたくさんいるので好きなアーティストが新作を出す時はちゃんと買う、でもアナログ・レコードでは買わない」という人が、世の中にはたくさんいる。何故買わないのかと言えば「レコードプレーヤーを持っていないから」または「持ってないし、聴き方がわからない」という人も多いと思う。

持ってるだけでいい


そんな人たちには「とりあえず買ってみて触ってみて(でも指紋は付けちゃダメなのよ)」と言いたい。CDよりも大きなサイズだから場所をとる気がするけど、CDより薄い、パッケージもCDケースより薄いので体積的にはCDより場所塞ぎなわけではないし、なにより買った時の所有欲求の満たされ方が、大きくなった直径分、大きくなります。プラスチックラップで密封されているのをバリッと破くのではなく、横側の取り出し面にカッターでまっすぐプラスチックラップだけを切って、紙ジャケを傷つけないように開いていけば中身だけ取り出せるようになります。そうすれば紙ジャケは長期保存しても汚れなくて済むのでプラスチックラップは剥がさないようにしましょう。2枚組などの場合はパッケージの内側にも歌詞やクレジットが印刷されていたりするのでその場合は剥がすしかないですが。

タワー・レコードにはアナログ・レコードたくさん売ってる。コンビニ受け取りにすれば1枚からでも送料もかからない。


聴くのはダウンロードでもサブスクでもいい

レコードプレーヤーで聴きたいという人を止めはしませんが、作り手としては買ってもらうのも重要だけど、繰り返し聴いてもらうことも同じくらい重要です。「レコードプレーヤーで聴くと1回聴いて終わりになっちゃう。ひっくり返したりするの面倒だし、プレーヤーの上に放置しておけないし」となるくらいならダウンロードでもサブスクでもいいから繰り返し聴いてもらった方がいいし、その音楽の良さを知るには咀嚼する時間が必ず必要です。繰り返し聴くことで本質にたどり着くということは往々にしてあります。レコードプレイヤーで聴くのが手間だと感じるのは多分、圧倒的多数の人がそう思っていて、それは音楽への思い入れとは関係ない部分です。アナログレコードで買ってサブスクで聴く。これで充分、アナタの推しは喜んでくれます。

記念盤としての存在意義

近年よくリリースされているのは人気のあるアーティストの新作と、キャリアの長いアーティストのヒット作の「○○周年記念盤」というもの。既にCDで買ってる人たちに向けたリリースという見方もできる。限定記念盤を所有する、アートワークがより大きい、壁に飾っても見栄えするアナログレコードは「所有する」「飾る」という面での満足感は特に大きい。アナログ・レコードは「持つためのもの」「飾るためのもの」でいいんです。部屋に飾って眺めながらSpotifyやAppleMusic、AmazonMusicで繰り返し聴く。20年代はそれでいいのではないでしょうか。


Arctic Monkeysの新作The Carの限定盤


テイラー・スウィフトの新作Midnightsの限定盤ブラットムーン


レッチリのReturn Of The Dream Canteen限定盤



Bjorkの新作Fossora限定盤



RideのGoing Blank Again限定オレンジヴァイナル


BjorkのファーストDebut 180g重量盤

ビョークの「Debut」はロンドンに住んでる頃、発売日にアナログ・レコードで買って、もちろん今も家にある。90年代当時のロンドンではCDとレコードを買う人、半々に近い状態だった。レコードの方が安かったからお金のない若者はレコードを買っていた。

今日の1曲


今日のパンが食べられます。