【生活を豊かにする方法を行動経済学的に考えてみた】003〜おカネに色を付ける

心理学と経済学の両面から人間の行動を読み解くのが行動経済学です。
いまもっとも注目を集めているこの研究の視点から、日々の生活を見直してみるnoteです。
第3回目は、おカネに色を付ける、です

 「おカネに色はない」とよく言われますが、完全に嘘っぱちです。確かにお札や硬貨には特別な色はついていませんが、それを持っている人間がばっちり色を付けてしまっています。
 クルマでも服でも構いません。高価なものを買うときのことを想像してみましょう。たとえばコートを買うとします。デザインや色がとても気に入った7万円と、他人と変わり栄えのしない地味な5万円。一定程度の収入があるときであれば、2万円の値段の差はあまり気にしませんよね。
 その帰りに、百貨店の前に店を構える老舗そば屋に入ります。いつものそば屋とは随分雰囲気が違っていて、天ぷらソバが1700円もします。「いやぁ、高いなぁ」と思ったあなたは900円のもりそばで空腹を満たします。

 よく考えたら奇妙です。コートを選ぶときは、気分や感覚で3万円を使うことが比較的簡単に決められるのに、そば屋の800円は惜しくて使えない。こういう行動は、多かれ少なかれあなたも同じはず、気持ちはよく分かるのではないかと。


 こういう人間心理を、行動経済学が説明しています。メンタル・アカウンティングという考え方です。
 ざっくりいえば、人間は心の中でお金の出し入れをする際に複数の経理処理(アカウンティング)を行っていて、同じ金額のカネでも、収入ルートや支出項目によってとらえ方が変わるのです。
 家を売買するときは、高額な物件の場合は100万円、安い物件でも10万円を最低単位で値段が決まります。でも、家具を買うとき、家電製品を買うときに10万円は大きな値段の差ですよね。いざ住み始めたら、光熱費は1000円単位で気になってくるはずです。
 入ってくるカネの場合も同じです。毎月の給与は1万円でも慎重に使うはずでしょうけど、ギャンブルで当てたとか、思わぬ収入があった場合は、1万円なんて躊躇せずぱっと使ってしまうものですよね。
 人間の心理では、おカネに「生活費」「家を買う」「あぶく銭」と色を付けてしまっているのです。おカネを手にしたり使ったりする場面において、人間は多重人格になってしまうのです。


 ここに工夫のポイントがあります。おカネの入口出口の場面において、日常生活で使うカネという「色」を付けてしまうのです。
 まずは収入。予期せぬ収入、つまりあぶく銭も、いったん給与振込口座に入れてしまいましょう。給与と一緒にすることで、あぶく銭の匂いが消え、日常生活の色がつき、冷静な感覚で使えるようになります。
 使う場面ではどうか。大きなものを買うときに即断即決しないことです。いったん呼吸を入れて、買おうとしているものの値段を、別のものに置き換えてみるとさらに効果的です。付けられた値段を、別の色に塗り替えてしまうのです。
 心の中でおカネを何かに置き換えるときのお薦めは卵です。卵10個ひとパックは200円。2万円のものを買う、あるいは価格差を検討するときに、2万円を卵1000個、あるいは10個入りパックが100個並んだ光景を想像してみるのです。少し慎重になるはずです。
 あるいは、価格交渉をする場合は、相手のペースに合わせずに、細かい単位までこだわることです。たとえば不動産を買う場合、交渉の価格は10万円100万円単位になります。つまりそれ以下の単位がカネであるという意識が薄れています。あなたは「あと10万」「あと5万円」の条件を引き出すのです。金額に対する意識が鈍っている相手には、比較的簡単に条件をのませることができます。その「あと一声」で得た分は、いったん現金にして改めて生活資金の口座に入れます。こうして、不動産取引の「色」を消してしまうのです。


 最悪なのは、逆のパターンです。たとえば、もらったばっかりの給料を握りしめて乗り込んでいった公営ギャンブルで一発勝負に勝った、といったあぶく銭です。日常生活で使うべきカネを、ギャンブルのあぶく銭の色に変えてしまっちゃっているのです。給与の色が消えてしまい、大胆に使ってしまうからです。
 おカネに付いた色を変えてしまうことで、無駄を消し去ることができるのです。

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