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理学療法士とジョブ型雇用

今回の記事では、最近参加したPT(=理学療法士)協会の指定管理者研修のグループワーク内で聞いた話をきっかけに、採用担当者や経営者目線でPTを採用する際に気をつける点について少し考えをまとめてみたいと思います。

終身雇用が良いか悪いかは置いておくとして、
年功序列で給料が上がるのではなく、こなしている業務内容によって給料が変わるジョブ型雇用にとても賛同している立場の人間です。
#これが前置き

ちなみに終身雇用や年功序列なんかについて書いているのが以下の記事

ジョブ型雇用について

こなしている業務内容によって採用したり給料が変わる、というのは何度聞いても良い制度だなと思っていて、
転職が当たり前の時代では少なくても年功序列の賃金制度と比べて「公平感」はあると思います。

リハビリテーション業務の中にも様々な業務が存在していて、実際に患者さんをみるリハビリ直接業務から、書類を作ったり会議に出たり回診についたり自宅調査に出かけたり、はたまたリハビリスタッフの人員配置や勤務シフト・労務や面談などのマネジメント業務など、多岐に渡ります。
どの業務にどれだけの給料を分配するのかは各病院や会社等によって異なっていて当然だとは思いますが、それがあらかじめ決まっていて、求人票にも記載があって、労使合意で契約されていれば良いですよね。
人を採用する前に、今の事業の中のどの業務にあたれる人材が欲しいのか?についてはしっかりと吟味しておく必要があると思います。
#無駄な人件費をかけれるほど余裕が無い
#即戦力が求められる

ちなみに個人的には、こういったジョブ型雇用に加えて従来からの年功序列で昇給する仕組みが合わさったハイブリッドな形が好きです。

PTやOTへの入職後に必要な教育の範囲

あまり詳細には言えませんが、最近参加したPT協会の指定管理者研修のグループワークで6人に分けられ、職場も病期も様々な立場の方々から色々と話を聞くことが出来ました。
その中で、とあるデイサービス施設長をされているPTさんの話では、そのデイサービスのスタッフにPTが1人いるようで、そのPTはまだ経験年数が浅く、歩行介助に自信が無い状態だったそうです。この施設長さんは歩行介助も大事な業務だからとPTのスタッフに対して指導をするようですが、これがなかなか上手く出来るようにならず、いつまでもその歩行介助という業務が出来るようにならなかったそうです。怖い、自信が無いという状態で、どのようにこのPTスタッフに対して教育をすれば良いか?というのがこのグループワーク内で話し合われたのですが、これは皆さんがその施設長の立場ならどうしますか?
私の答えはズバリ、「そういった知識やスキルを教える業務って、そもそも管理者(この場合は施設長)の仕事では無い」です。
#さすがにグループワーク内では言えない
#管理者が抱え込みすぎ

リハビリテーションを行うPTやOT(=作業療法士)は国家資格者であり、この時点ですでに「知識やスキルを持っている」と社会から認識されます。
しかし、特にPTはその有資格者がどんどんと増えており、その質が下がっているとも言われています。つまり、PTだったらここが出来て当たり前というような社会の認識よりも、もっともっと知識もスキルも足りていないPTが存在するということです。これは経験年数の少ない若いPTのことだけではなく、経験年数の多いおっさんPTの中にも存在すると思います。
#意識の差
#地域によってPTの価値が変わっている

求人票に書くべき内容

そんな中で、リハビリテーション人材を採用しよう、求人をかけようとする場合に気をつけなければならないことは、
その業務内容をしっかりと明記しておく、ということが大事かなと思います。
・当院では長下肢装具を使った歩行練習を積極的に取り入れており・・・
・当デイサービスでは介護予防悪化を防ぐために普段は歩行が出来ない方に対しても個別に対応した歩行練習を行なってもらいたい・・・
上記のような求人募集内容であれば、歩行が不安定な方に対するリハビリを苦手だと思っているPTはそもそも応募してこなくなるのではないでしょうか?
#動作分析や歩行分析が出来ない理学療法士がいる
#それでも理学療法士になれる時代
デイサービスは主な利用者が要介護1とか2であって、「歩行が不安定」というのが必ずと言って良いほどくっついてくると思われます。それなのに介護施設で1人職場でのんびり働けそうだから・・・といって歩行リハに苦手意識のあるPTが入職してしまうというミスマッチが生じている、というのが私の見解です。

訪問リハビリなんかも同様で、1人で車で各利用者宅を回って記録を書いて終わり、みたいなイメージで求職されるPTの方がいますが、はっきり言ってそれは甘すぎます。
#少なくてもうちの事業所では要らない
訪問リハビリでは、医師の指示があり、関わるケアマネさんや介護のスタッフさんがおり、他にも家族、看護師、行政、ボランティアなども含めたその地域で包括的にケアを行う仕組み(=地域包括ケアシステム)があり、その一つとして訪問リハビリがあるわけです。多職種連携という言葉はよく聞かれる言葉ですが、簡単に言えば「報告連絡相談」のことです。これらの業務なくして訪問リハビリは出来ませんし、地域包括ケアも成り立ちません。
つまり、訪問リハビリの業務内容には、それぞれ利用者様宅を回ってリハビリテーションを提供する、という業務のほかに、関係各所の方々との報告連絡相談業務は必須であり、この後者の業務をなるべく具体的に求人票に記載すべきかなと思っています。
#訪問リハに限らず病院でも施設でも報告連絡相談は大事
#報告連絡相談が不足していてもスルーされる現場もある

命題に戻りますが、上記のような例も含めて、PTやOTはそもそも専門職であってジョブ型雇用が行いやすい業種なのかなと思います。今まで固定概念で思っていたような、PTは動作分析や歩行分析に長けている、ということはいったん捨て、採用する側がきちんとその業務内容(ジョブ)を明記して採用するべきだと思います。とりあえずPT(人)を採用してその後でどんな業務が出来るか?を擦り合わせる、という方がとんでもなく大変(期待外なことが多いの)で、このあたりは採用担当者・経営者は気をつけてみてはどうでしょうか。
#新卒一括採用の時代は終わり
#人材の良いマッチングが大事

自分の感想

有資格者が急増している中でPTの質が落ちてくるというのはずいぶん前から言われていますが、
・動作分析が苦手(出来ない)
・歩行介助が苦手(出来ない)
・痛みに対する理学療法に向き合わない(怖い)
みたいな声が身近なところから聞こえ始めていて、改めてたしかにPTの質が落ちていると実感している部分があります。

別にそんなPTがいても不思議ではないし、それをどうこうしたいというわけではないですが、社会全体から見られたときに「同じPT」として括られるのはなんか辛いです。これをなんとかしたいなと思っています。

今回取り上げたジョブ型雇用で振るいにかけられるも良し、
PT協会の卒後ステップである登録理学療法士をもっと前面に出すも良し、
たくさん存在するPTの中でもっともっと格差が広がれば良いなと感じます。残酷な世界になるとは思いますが、それでも私たちPTの存在意義は一つの医療職として患者さんや利用者さんにどれだけ還元できるかに尽き、無能なPTほど退席してもらう世の中がベターなのではないかと思います。

一般の人たちからでも見て明らかに違いが分かって、自分に必要なPTを選べるような時代になれば良いなと真摯に思います。決して患者さんや利用者さんに媚びるということではなくて、PTとして出来ること・可能性を伸ばすことをきちんと見せられるようにしていきたいと思っています。