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夢に欲情する

ゼリービーンズのこぼれた朝
セロハンよりも青い風が
指のあいだを吹きぬけていった
ぼくはその指で
鏡にこびりついたおびただしい
歯磨の粒をひとつひとつ剥がしていた

空から羊が顔を出す午後
液晶の海から光が散乱すると
約束通りに演算子が出航する
おん おふ おん おふ おん おふ おん おふ

黄昏に磨りガラスは
杏子色に燃えて
美しい
ほんとうに絶望したひとはいない
ほんとうに?
ほんとうに希望したひとはいない
ほんとうに?

明滅する光の雫が
か細い夜の葉脈を彩り
闇の踵を蹴たてる最終列車は
紫色の悲鳴をあげる

青い箱に揺られながら
酔いどれた父親となって
夜を滑降する
百兆ビットの脳細胞として
DNAと呼ばれる二重らせんとして
はじかれたアニオンあるいはカチオンとして
挙動不審の粒子あるいは波動として
ぼくは
夢に
欲情する

 (詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第5章「秋の瞳」より)


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