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非在は不在ではない

荒川べりを歩く
河川敷に建てられた仮設小屋
空は青いドームである

仮設小屋に入る
スチール製の折畳椅子と会議机
飲みさしの茶碗
拡げられたままの設計図
外されたままの受話器
机の隅の俎板では
鯖が眼を凝らしている
男たちは誰もいない

外に出る
扉が風に吹かれて
開いては閉じる
非在を告げる鳩時計のように

支流に立ち並ぶ
鋳物工場や化学工場も
誰もいない
無記名の視線をめぐらせているのは
私と呼ばれる枠組である

近くと遠くを同時に視ると
空がすぼまり 一点になる
どこにもない場所に迷いこむ
消えた人々に遇えるかも知れない

(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第3章「遁走する春」より)



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