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【読書マップ】2022.02 いつの日か消えてなくなる時までは街へと出よう、人にも会おう

2022年2月の読書マップです。
先月の読書マップは以下の記事をどうぞ。

まちを楽しむ

スタートは先月の雪朱里「もじモジ探偵団」(グラフィック社)。ヒグチユウコさんが描く猫探偵の二人が、まちなかにあふれる文字の秘密を徹底的に究明する。スーパーネコの日のあった2022年2月にもふさわしい一冊ですね。

スズキナオさん「遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ」(スタンド・ブックス)は、2021年8月の読書マップで取り上げたパリッコさんの本と同じく、行動が制限された宣言下で、身近なまちを捉え直す一冊。
地元の銭湯にデイリーポータルZの鏡広告を出稿したことが縁となった、手書き文字職人の方へのインタビューが、とりわけ貴重な記録です。

zinbei「ほろ酔い道草学概論 インドアな私が酒と街歩きにハマるまで」(ワン・パブリッシング)は、社会人女性の二人が、日本酒やクラフトビールなど地域に根ざしたお酒を飲み歩きながら、ゆるく街歩きを楽しむ漫画。
路上観察というほどでもないものの、何気ない街の良さを楽しむ描写が秀逸です。

「ワンダーJAPON」(スタンダード)は普通の観光とは一味違った視点で全国各地をめぐるムック、はやくも新創刊のVol.4。建物の壁面を手書き文字で埋め尽くす〈モジダラケ〉の世界は、さすがにちょっとこわい。
第一特集の福岡・佐賀の変な場所には、いつかまた訪れてみたいところです。

すごい人の話を聞く

インタビュー、対談集がけっこう好きなのですが、取材する側もされる側も、それぞれの分野で活躍する第一人者であるというのが、やはり一番面白いと思います。

加藤文元「人と数学のあいだ」(トランスビュー)は数学者の加藤さんと、文学や脳科学など、異分野で活躍する人々の対談集。
川上量生さんとの章では、法制度をプログラミング的な複雑度で評価するという話題が上がります。
これだけ膨大で複雑な法律が矛盾なく成立しているのか、最適化できないのかを解析する法令工学という分野があるそうで、法律と数学という対極のような世界がつながることに驚き。

荒俣宏「すごい人のすごい話」(イースト・プレス)は、博物学者・荒俣さんが「すごい」と思った人の話を聞きに行く連載をまとめたもの。
20年ほど前の刊行で、まえがきでさえ「リアルタイムの話題ではない」とありつつ、ウイルス学者との対談や、生と死を見つめるお遍路さんなど、いま読んでこそ新たな発見があります。

SFとディストピア

西島大介「電子と暮らし」(双子のライオン堂)はSF漫画家の西島大介さんが、自著を電子出版するまでの軌跡を述べた日記的エッセイ。
版元の本屋さんのオンラインイベントで知りましたが、電子書籍をテーマにする本をあえて紙で出す、しかも表紙に画像だけではわからない仕掛けがほどこされている、など、気になるフックがたくさん。

SF漫画つながりで、福井健太編「SFマンガ傑作選」(創元SF文庫)は、1970年代のSFマンガを収録しています。冷戦時代を反映してか、なんとなくディストピア(終末的)な世界観の作品が多い印象です。
手塚治虫による鉄腕アトムの裏エピローグ的な作品から筒井康隆、萩尾望都、高橋葉介など、現代まで活躍する作家まで。
えっ筒井康隆? そう、筒井さんの原作小説の漫画化ではなく、筒井さん自身が絵まで描かれているのです。
前者の意味での筒井マンガをまとめた「筒井漫画瀆本」(実業之日本社文庫、全2巻)にも収録されています。

筒井康隆「残像に口紅を」(中公文庫)は昨年も話題になった、一章ごとに50音がひとつづつ消えていくという超絶技巧で紡がれる小説。10年以上前に読んで戦慄した記憶が蘇ります。
世界から言葉が消えたなら、そこに残るものは、人の想いとは。

新井素子「影絵の街にて」(竹書房文庫)は星新一さんの激賞でデビューした新井素子さんの短編集。元本が何冊にもわたるため、新井作品名物の〈あとがき〉も何本も楽しめるというお楽しみつき(そ、そんなもん楽しみにしてどーするっ)。
新井素子さんといえば「新井素子の未知との遭遇」( 講談社文庫)も、「すごい人の話を聞く」につながるものがありそう。ずいぶん前に読んだ本ですが、ちょうど最近hontoにて電子化されたようです。

ラストは、世界から突然人類が消えたなら、という仮定のもと何万年後までの地球の姿を描く、アラン・ワイズマン「人類が消えた世界」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
地球温暖化も、大量絶滅も、プラスチックごみも、これだけスケールを大きくしてみれば、また違った感慨があります。

いまある日常も、ある日突然消えてしまうかもしれない。
少なくとも、2020年代を生きる我々は、すでにそれを体感しています。
それでも、それだから、わたしたちにできることは、いまを生きること。
街に出て、世の中を見ること、人に会うことの大切さを、もう一度見つめ直したくなります。


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