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人生は初体験を終えるたび、つまらなくなるのだろうか。

人生で一番衝撃を受けたのは、
インドへの一人旅だったと思う。

それは19歳の夏のことで、
世界の無限の広さを知る旅になった。

どう生きてもいいんだと思えた瞬間から、
自分の人生をワクワクする方へ進めようと決意した。

ワクワクすることというのは、
若者の僕にとっては未知の世界のことで、

知らない物事との出会いを無意識に求めること。

経験したことのないものを得るたびに、
人生の幅が広がっていくような気がした。

でも……同時に思うこともある。

また一つ、ワクワクを消費してしまったって。

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ファンタジーに没頭した時代が僕にもあって、
とくにハリーポッターには熱狂的にハマった。

中学3年生の受験期に最終巻の『死の秘宝』が発売されて、
塾の机の上で読み耽った。

クライマックスが近づくごとに残りのページ数を確認して、
あと少しで終わってしまう無念を噛み締める。

それでも続きを求めてページを捲ることはやめない。

人生も似たようなところがある。

新しいことを知る驚きは一回きりで、
二回目になるとどこか、冷静に見る気持ちが芽生える。

もうすでにその先のストーリーを知ってしまっているような、
渦中にいる自分自身を眺めている別の自分に気づく。

人生初めて一人旅に赴いた時の思い出は、
一日一日を鮮明に思い出せるのに、

その次の旅行のことは、
大まかな記憶しか残っていない。

どこか達観したような気持ちになることが、
どうしようもなく悲しい。

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学生の頃はバカみたいに、
あらゆるところへ足を運んでいて、

その度に特別な人に出会い、格別の言葉を得た。

高知県へ行った時に得た言葉は、
永遠に忘れられないものだと思う。

80歳になるくらいのおばあちゃんが、
僕が求めている何かを感じ取って与えてくれたもの。

「私は若い頃、いろんなことをしたよ。それこそ世界中のいろいろなところへ行って、世界遺産と言われているものも存分見てきた。そして今は地元で百姓をしているけど、私はこの生活が一番好きだと思えるの。いろんなことを経験していくと、世界遺産も田舎の小さな暮らしも、何ら変わらない価値のあるものだと思えるようになってくるよ」

だからあたなが今経験していることも無駄なことはひとつもないと、
その時あの人は僕に教えてくれた。

人生100年。
僕にはあと77年残されている。

初体験が減り続ける人生を、
どうやって生き抜けばいいだろう。

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ここはひとつ、考え方を逆にしてみよう。

いろいろなことを経験することで、人は世の中をフラットに見渡せるようになる。逆に言えば、経験したことのないことはより魅力的にみえるものだ。

その時代の流行やインターネットの情報で、
魅力的なドレスを着せられた普通のものが町中には溢れている。

田舎にいると東京のネオンの光が眩んで見えるし、
でも上京してみると、友達を思い出して人肌恋しくなる。

都会にいると田んぼの蛙の鳴き声が聞きたくなるけど、
田舎に来てみると、街中の外国かぶれしたバーが突然懐かしくなる。

ようは“ないものねだり”なんだ。

その時々の状況に立って眺める景色には必ず“偏見”があって、
遠くのものほど美しく見えるものだ。

それでも多くの経験を積み重ねていくうちに、
本当に大切なものというのがわかってくる。

そしてそれは一番近くにあるということが多い。

結局自分にとって何が一番大事なのかというのは、
いろんな物事を経験しなければわからない。

やったことのないことや、行ったことのない場所。

そういうものに惹かれているうちは、
大切なものは見えてこない。

初体験を塗りつぶす作業を終えた時、
自分の目の前の景色はどんな風に見えるのだろう。

僕には正直、まだ誘惑が多い。

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