4.「ニュージーランドとおもったら実は中国だった」は本当か?
ファクトチェック
今回の件では「農地を買うときに地権者にはニュージーランドの会社だといいながら、実際は中国資本だった」という情報が多く見受けられます。
3分30秒「あと、ニュージーランドっていうことで不動産屋さんたちが声をかけたというんですが、私が調べたところやっぱり中国資本だったっていう事実ですね」
あさぬま議員の発言は、農林水産省の「外国法人等による農地取得に関する調査結果」に同じです。
では、このE社は中国人が議決権の49%を持っている、キウイ栽培を隠れ蓑にした「中国の日本領土略奪」のための企業なのでしょうか。
親会社「JACE group」とはなにか
さて、「はじめに」でも述べましたが、E社の登記上の代表者は、ニュージーランドにあるキウイ生産企業「JACE group」の役員です。このJACE groupとはどんな企業なのか、説明したいと思います。
JACEはニュージーランドの多くの農園と同様、ゼスプリ社向けにキウイを生産・出荷している企業グループだそうです。
その規模は日本農業界の常識から考えるとあまりに桁違いでした。
管理下のキウイの生産面積は1,060ヘクタール。
ニュージーランドのキウイ業界の10%を賄うパックハウス(選果施設)と冷蔵施設を有し、その取扱量は1,500万箱(ゼスプリの基準では1箱3.6kg)です。単純計算で5万4,000トンです。
日本のデータと比べてみますと…
日本の面積1,880ヘクタールに対し、JACE一社で1,060ヘクタール。
日本全体のキウイ農園の半分以上の面積があるということです。
日本の出荷量1万7,400トンに対し、JACE一社で5万4,000トン。
日本全体の3倍以上を、一社が賄っているのです(それでもキウイ業界の10%です)
サイトの情報によると、最近は地域貢献なのか、企業のある地元の街に大型複合商業施設をつくる計画に出資をしているようです。
JACEはゼスプリ社の株主でもありますが、年次報告を見ると、株式数では上位4位という大株主です。今年の配当額は一株1.78ドルとのことで、単純計算で372万ドル(約4.9億円)になります。
うーん。
丹原という四国の鄙びた田舎に進出してきて農地を買うというから、どんな怪しい会社かと思っていたら、ニュージーランドではトップレベルのまっとうな大手農業企業でした。
例えて言うなら、どこか工業後進国の昔ながらの小さな町工場を買い取りたいという東洋人がやってきて、その国では非常識だが効率的な業務運営をはじめた、その人物の名はトヨタだった…という感じですか。
しかも、E社の代表者でもあるJACEの役員は、サイトの紹介によるとNZKGIという全国キウイ生産者団体(日本でいうキウイ専門の農協中央会みたいなもの?)の産業諮問委員会メンバーを務めたことがある、業界でも一定の信頼が置かれている人物のようです。
グループ会社からあることを推測する
JACEの子会社を見てみましょう。ニュージーランド国内6社と海外3社です。
一番最後にあるのが、今回西条市に設立された子会社です。
愛媛に先行して宮崎県に「マイキウイ」が2015年頃設立されています。宮崎県都農町でニュージーランド式の農法でキウイを生産している法人です。
さて、海外法人でもう一つ気になる子会社があります。
中国にあるという「TOL」は、キウイの果樹園開発やマーケティングを行う子会社ということです。南半球のニュージーランドと北半球の日本・韓国などで産地リレーを確立し一年中キウイを供給できるよう、アジア圏での果樹園開発を進める目的があるのでしょう。
これはあくまで私の推測ですが、E社の出資率49%の香港企業というのは、このJACEの子会社「TOL」ではないか?と考えます。事業内容に「果樹園開発」とあるので、そのための出資などを担っているのかもしれません。
もしその推測が正しければ、E社に出資している外資とは実態としては「ニュージーランドから」のものであり、「中国マネー」は一切関係なく、Twitter上で「中国資本が!」と憤っている方々はとんだ勘違いをしていたことになります。
かつてニュージーランドは、キウイの新品種を中国に盗取された苦い経験があります。そのキウイは中国国内でニュージーランド以上の量が生産され、
業界にとっては中国は不倶戴天の敵とも言えるでしょう。
JACEという企業の資力・業績の高さから、グループ外の中国人の出資に頼るより、自前のグループでお金を回してしまう方がリスクは少なく、配当もグループ内に留まるのでよいと考えるのではないでしょうか。
土地取得者の関係者情報を知る権利を認めるべき
ファクトチェック「ニュージーランドとおもったら実は中国だった」ということですが、書類上は中国(香港)法人ではあります。ただ、それがイコール中国共産党であるとも限りません。日本人や西洋人が中国で会社を興せば、それも中国法人です。
こればかりはE社が公表を認めないかぎり部外者に知る方法はありませんが、土地取得に関する出資者・議決権者が誰なのかをすべて公表できるような法改正が望まれます。
そうした対策ができるまでは、地域社会の不安の声がある以上、監督官庁がE社の事業運営について厳しくチェックしていく必要があります。
2/26追記 2/23付愛媛新聞記事で概要が判明
このように、私が立てていた「香港の出資法人は、そもそもJACEを親会社とした傘下企業である」という推測は、概ね正しかったようです。
3/4追記 JACE groupのサイトから子会社「TOL」のロゴ表示が削除されています
3/4に改めてサイトを見てみるといつの間にか変更されていました。
どのような意図での変更か、その真意はわかりません。
私個人の推測では、子会社とはいえ書類上は中国の法人だという事実を元に「中国の日本侵略」と捉える一部の人々から敵視されていることが表面化したことから、あらぬ誤解を招かぬようロゴと説明文を非表示にしたのではと思います。
しかし、この変更は却って「やましい事があるから中国隠しするのだ」という批判にだって繋がりかねないので、あまりいじらない方が良いのでは、と思います。
3/12追記 香港の子会社の情報
こちらの市民団体が、おそらくE社に直接説明を求めたらしく、香港で登記されている子会社が「エンデバー フレッシュ ジャパン」という名前だという情報が出てきました。
私はJACEのサイトに載ってあった「TOL」という会社だと思っていましたが、正しくなかったようです。
この点については訂正してお詫びいたします。