女の子の人生は父親で決まる

飛行機までだいぶ時間があるので、
推しの地元に来てみた。
最寄り駅に来たらやっぱりファンらしき人がちらほらいる。みんな行くところは同じのようだ。

推しが来ていた場所の近くに、
眺めが良くて居心地の良さそうなベンチを見つけたのでのんびりしている。(虫に刺されませんように)

昨日までの席のトラウマなのか、
今朝の朝食会場でも近くに男性が来たら、
とても嫌な感じがした。
しばらくわたしの半径1メートル以内に男性は来てほしくない。


推しが好きな気持ちよりも、

男性が触れる距離にいる苦痛のほうが勝ってしまったのは、

自分でもかなりショックだった。


まさかこの世に生で推しを見ているときでも苦痛を感じることがあったなんて。
お金を払ってチケットを買ったのにあんなに嫌な思いをするなんて。
追っかけ人生20年のおばちゃんにはショック過ぎた。

わたしはもしかしたら、
男性が無理なのかもしれない。


心当たりがあるのだ。

わたしは小学校中学年〜高学年の頃、
父親にお尻を触られたり、
足が太いと言われたり、
無理やり頬に唇を当てられたりするのが、
本当に嫌だった。恐怖だったと言ってもいい。

わたしは高学年までサンタクロースを信じているような純粋な子供だったので、

自分が女として見られ始めていることをどうしても受け入れられなかったのだ。


わたしは父親がとにかく嫌で怖くてたまらなかった。
大好きな祖父でも、
たまにわたしを呼ぶときにお尻に触れてきたら、
(祖父はたぶん変な意味ではなかったと思う)
父親と根は同じなのかと思ってゾッとした。
誰を信じていいのかわからなくなった。

中学生になったわたしが、
どうしてもスカートを短くしたくなかったのも、
きっとこのせいもあるような気がする。
興味のない男に女として見られるのが嫌だった。

陰キャだからその後も異性とは全く関わりのない学生生活を送っていたけれど、
大学生になると彼氏ができた。
わたしが好きになってわたしから告白したのだ。

最初は幸せだった。
でも数ヶ月もすると、
彼は駅のベンチでキスをしたがり、
わたしは知り合いが見ていたら嫌だからと断った。

お互い実家暮らしだったので、
イチャイチャできる場所もなく、
そのまま数年が経つと、
彼氏は段々と欲求不満を口に出すようになった。
(当たり前なのだけど)

書店でセックスレスの本を指差してうちらのことだと言ってきたり、
公園で寝転がっていると近くで子供が遊んでいたりするのに上に覆いかぶさってきたり、
わたしとのデートで今までに◯十万円使ったのに、
わたしは何もさせてくれないと被害者ヅラされたこともある。
ホテルに行こうとも言われたけれど、
ホテルまで行って、
もしわたしが怖くて何もできなかったら、
何を言われるかわからないのでとても行けなかった。
まだ学生だったから旅行に行くのも何となく嫌だった。

そんな感じで段々と会う度に、

「性欲あるの?」


と下ネタみたいな話しかされなくなった。
毎回毎回苦手な話題で問い詰められていると、
またこの話題になると雰囲気で察するようになり、
わたしは悪いのは全部自分なのだと精神的にかなり追い詰められてしまい、
もうとてもそんな気分にはなれず、
最後のほうは結構メンタルもやられていて、
たぶんわたしの言動もおかしくなっていた。
それもあってメールで振られたけれど、
わたしももう彼に会いに行くのが心底嫌だったから、
メールを即返信して3年の関係は終わった。

それからわたしは売れないバンドを全国に追いかけるようになり、
そのまま数年が経った。

27歳のとき、
ずっと好きだった男(既婚)に車で送ってもらった。

彼はわたしの気持ちを知っているけれど、
奥さんも子供もいるし、
「もっと太ったほうがいい」とも言われていて、
わたしは完全に圏外なのだと思っていた。

しかし彼はわたしを車に乗せると、
住宅街にあるラブホテルの駐車場に車を停めた。

このときもかなりの恐怖だった。
最初は国道を走っていたのに、
地元民じゃなくてもわかる、
絶対に行き先とは違う細い道にどんどん車が進んでいって何かおかしいと思った。
一体彼はわたしをどこに連れて行こうとしてるんだろう。わからない。でもなんとなく怖い。
でもわたしは助手席にいるから運転中に動けないし、
ペーパードライバーだから運転も代われないし、
土地勘もない場所だし、
逆らいようがない。何もできない。
自分の意思とは違う場所に勝手に連れて行かれて、
全く抵抗のしようもないのは本当に怖くて、
だから知らない人の車に乗ったらいけないんだと、
わたしは身をもって学んだ。
ちょっと遅いけど。


ラブホの駐車場で、
わたしが「無理!!!!!」と断ると、
彼は「どうして?」と何度も繰り返した。
たぶん絶対に断られないと思っていたんだと思う。
彼は1人で車から降りて、
助手席のドアの横からこちらを見ていたけれど、
わたしは怖くてとても降りられなかった。
今思うともっと他にも断り方があったと思うけれど、
わたしは完全にパニックになっていて、
他の日本語が全く出てこなかった。
結局彼はわたしに指1本触れずに、
駐車場から車を出してくれたけれど、
その後はお互い気まずくなって音信不通になった。

こんな経験しかしていないから、
わたしは男性に触れるのが駄目なのかもしれない。
でも日常生活には全く困らないし、
接客をやっていたから普通に話すこともできるし、
わたしも地味だけどたぶん普通に人並みの恋愛経験を積んでいるようには見えているはずだ。
見るからに喪女ではない…はず。

最近は男性ばかりの現場で働いてみたり、
男性ばかりの飲み会に行ってみたりして、
少しずつ耐性を付けるようにしていたけれど、
トラックの座席は間隔が広いから気にならないし、
そういえば飲み会もおじいちゃんばかりだった。
だから昨日までの両隣を男性に挟まれるクソ狭い座席では全く効果が見られなかったのだ。

運送会社に通うようになったのも、
初日にチャラい男の子にめちゃくちゃ身体を触られたのに、
あの子は全く嫌な感じがしないのがとても不思議だったからだ。
わたしはモコモコのダウンを着ていたし、
手には軍手をしていたからかもしれないけれど、
あんなに触られても全く嫌じゃない男の人は初めてだった。

「この子、一体何者???」


と興味を持たずにはいられなかった。
あの子はめちゃくちゃチャラいから、
女性の扱いに慣れているだけなのかもしれないし、
わたしはあの子に恋愛感情を抱くことはないと思うけれど、
でも今までに見たことのないタイプの男性だし、
観察する価値はある気がする。


そして今好きな人に惚れた理由も、
声が好きだからだというのはあるけれど、
たぶんわたしの深層心理では、
彼は男っぽくないからだ。

彼はわたしより背が低くて手も小さくて声も高い。
そして女性みたいに顔や身体がムチッとしている。
正直あまり男らしい感じではない。

だから彼は見た目は全く怖くないし、
怖くないのがわたしには良いのだ。


工場で彼がすぐ隣に来ても、
好きな人だから嫌われないか怖いけれど、
男性的な怖さは全く感じない。
むしろ目線の高さが合うからなんか安心感こそある。

わたしは若い頃、
わりと大柄の男性に好かれることが多かった。
縦に大きかったり横にも大きかったり。
そういう男の人に肩とかを触られるのは怖かった。
肩を叩かれただけなのに、
無意識にゾワッとしてしまった男の人もいた。
話すときにめっちゃ見下ろされている感じもちょっと苦手だった。

もしこの人がキレたら、

わたしは殺されそうな気がする。


そんなことを考えてしまうのも、
たぶん人一倍キレやすかった父親のせいだ。

なんかもうわたしが男性と上手くいかないのは、
小学生のときから決まっていたのではないかとさえ思ってしまう。

たぶん父親にお尻を触られた瞬間に、
わたしの女としての幸せは潰されてしまったのだ。


その後にわたしがどんなに足掻こうとも、
子供の頃のトラウマは一生消えない。
またわたしは昔からとにかく子供が大嫌いで、
絶対に自分の子供なんて産みたくないから、
それもあって男性に性的な目で見られるのが嫌なのかもしれない。
よくわたしより酷い目にあった女性達が、
「今の旦那だけは違った」
と馬鹿みたいな惚気話をするけれど、
わたしの現実にそんな男性は現れない。
それが現実なのだ。

うちの両親はわたしが高校生の頃に離婚して、
それから父親には全く会っていないので、
わたしは今あいつが生きているのかどうかすら知らないし知りたくもないけれど、
ろくでもない男だったのは確かなので、

誰かわたしの代わりにアイツをブッ殺してくれないかなと思う。