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累犯刑務所を出入り禁止とされた件

2017年の冬のことですが、薬物乱用防止の教育のため、累犯刑務所に行ってきました。

 
合計2時間のプログラムのうち、1時間目はスマープ(SMARPP)、Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program:せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム)です。


 「第6回目 あなたの中にある引き金について」
という表題で、「内的な引き金」について話し合いました。

 私は、お酒だろうが、覚醒剤だろうが、自分の問題の置き換えてその感情の取り扱いを考えます。だから、スマープは覚せい剤に限らず、感情のコントロール全般に使えるプログラムです。

 依存症者に有名な言葉に「HALT(ハルト)」というのがあります。
 HUNGRY(空腹)(HAPPYを加えることもある)、ANGRY(怒り)、LONELY(孤独)、TIRED(疲労)があると危機的状態になりやすいということです。
 危機的状態になると、薬物使用、飲酒、過食、拒食、窃盗、自傷、自殺、犯罪などに至りやすくなります。

 
 さて、難しい説明よりも、その場で起きたことを少々。

 最初の設問があり、
「どんなときにあなたは怒りますか?」


 と聞かれ、それぞれの受刑者が答えます。
「電車で足を踏まれたとき。」
「妻が浮気していたとき。」
「夜中に報知機を出しても刑務官が素通りしたとき。」

などなど、
「あー、あるある。」
という相槌ができるような言葉が出てきたのですが、私の隣の方が、
「怒ったこと? ないなー。 んー、ない。」
と言っていました。

 私はその人が
「怒ること」
は、
「短気な人のする浅はかな表現」
と思っているように思いました。

 彼等は日々、刑務所で静かに暮らしていて、怒りを必要としないかもしれません。
 刑務所の静謐な時間が、平坦で安定した生活をもたらしているように思いました。

 そんな受刑生活が、怒ることを忘れさせたのかもしれません。
 怒ることを思い出せなくなる、感情の出し方すら忘れているようで、悲しい気持ちになりました。

 そして、ふと受刑生活を振り返ります。
 まず、刑務官を「先生」と呼ぶこと。
 自分が服従する姿勢です。

 呼びやすくはあるけど、それが日常の刑務所の空間です。
 看守が受刑者を管理する社会です。
 
 さて、2時間目は「釈放前の教育(通称 シャクゼン)」の一環で、30分の自由に使っていい時間をいただき、質疑応答で自分の体験を話してきました。
 その経験の中で、私の職業(秘密(∩_∩))に質問が偏り始めたのです。
「国家資格ですか?」
「何日かかりますか?」
「どこで受けられますか?」

 これは、私の経験の話ではなく、誰もが調べればわかる答えがあります。
 こういった目先の質問のみでこの時間を終えては勿体無いので一旦仕切り直しです。
 
同じ刑務所を出て、再犯に至る人はどういう道を辿ったか、それからどうやって身を守って今まで生活してきたかを話してきました。
 今回の、職業について矢継ぎ早に質問をする人は、発達障害がある人のように思いました。


 しかし、しばらく経って考え直すと、私自身がそうであったように、「拘禁反応」に過ぎないのではと思いました。

 その受刑者にとってみれば、限られた時間の中でしか会話が許されない生活ゆえ、話せる機会に沢山話したいという思いが先立っているようでした。

 これに限らず、何年も続く受刑生活が、社会で暮らしていたルールを削ぎ落とし、受刑者としての暮らしに置き換わっていくのです。

 「刑務官と目を合わせてはいけない。」
 「作業中は交談禁止。」
 「手紙は一日一通以上発信できない。」
 「タオルを肩にかけてはいけない。」

 刑務所には、一般の方が想像できない多種多様な制限があります。
 この、入所時に起きたカルチャーショックが、日を追うごとに慣れて、常識へと置き換わっていきます。
 
 今日の話で私が一番に伝えたかったことは、出所に際し、まずは
「リハビリが必要」
ということに尽きます。
 世間から離れていたにも関わらず、前科を隠し、就職し、普通の社会人に戻ること。
 これは難しいことでした。履歴書の書き方、税務申告など、社会人経験が少ない分、今でも苦手なことがあります。
 受刑中の方も、それを自覚し、自分の苦手なことを把握して乗り越えていってほしいと切に願いました。

 さて、前置きが長ーーくなりましたが、表題にある累犯刑務所を出入り禁止とされた件です。

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