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旅する少女が魅せられた場所【イワシとわたし 物語vol.4】

物足りなさを感じ、憧れの世界へと旅立った少女が
地元阿久根へと帰ってくると、
そこは彼女の知らない場所になっていた。
こんな場所あっただろうか。
旅から戻った少女はある一つのことに気づく。

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身近にあるけど何も知らない漁師町。
漠然と感じる物足りなさと外への憧れ。
キラキラ光る水平線を眺めながら夢見た海外。
世界へと旅立った彼女は、電車に揺られ、地元阿久根へと帰路に就く。

最後に滞在した南イタリアの余韻にまだ浸っていたい。
そう願う彼女の思いなど知るわけもなく、
電車は阿久根駅で彼女の揺れを止めた。

また物足りなさを感じる生活が始まる――と思っていた。
重い足取りで降りたその場所は、彼女の知らない場所だった。

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南イタリアで感じた陽気さとは異なる穏やかな空気が頬を撫でる。
静かに、そして確かな重みを持って佇む一つ一つが
彼女の視界に入るたびに全身を痺れさせた。

こんな場所だっただろうか。
こんな場所あっただろうか。

彼女は一つ一つを目の奥へと刻み、過去へと信号を送る。

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違う。あった。ここはずっとあった。

見えてなかっただけだったんだ。

見え始めた世界に全身がじんわりと熱を帯びた。
彼女の旅がこの場所を魅せたのだ。

やっと見えた。
こんなにたくさんあったんだ。

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駅の一角で見つけた旅する丸干し。

丸干しは彼女も知っている。
知っているが食べたことはない。

それに、いま彼女の目の前にある丸干しは
彼女がなんとなく知っている丸干しとは随分と見慣れない形をしていた。

――旅する丸干し。

君も旅をしたのか。

瓶に詰められた丸干しは、ドライトマトとガーリックと一緒に
南イタリアのオイルの海を泳いでいる。

彼女は同志を手に取った。

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これから何と出会えるのだろうか。
彼女は今日からこの街を旅する。
きっといろんなコトに気づいていく。


撮影:こじょうかえで Instagram(@maple_014_official)

衣装協力:LIZE Instagram(@0811lize)

撮影地協力:にぎわい交流館 阿久根駅

文章:橋口毬花 (下園薩男商店)


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