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アイドルに恋したことはないけれど

 アイドルのライブに、生涯一度だけ行ったことがある。

 それはAKBでも、ハロープロジェクトでもなく。

 ジャニーズだった。

 

 20代の頃、私は東京ドームのアリーナ席にいた。前から10番目くらいの場所だったと思う。神席。

 私の周りには、舞台しか見えていない女の子ばかり。一瞬で飲まれた。

ヤバイ トコロ ニ キタ。

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 妻が友人からとあるジャニーズグループのドームツアーに誘われた。すごく良い席だけど、都合がつかなくなり2枚余ったらしい。「おお、良かったね~」くらいの気持ちでいたら「行く?」と聞かれた。「はい?」「いや、こんな席、二度とないよ。行こうよ!」「いや、行かないよ」「アリーナだよ!?」「あ、うん。でもさ、普通行かないよ」「いや普通行くでしょ」・・・

 そもそも世代のモー娘ですら、友達と話を合わせるために、誰が好みかをなんとなく選ぶレベルだった。AKB系も女の子というよりマーケティングやらプロデュースやらの方が良くも悪くも興味があった。同性のアイドルとなればカラオケで歌いやすいか、結婚式の余興で踊るかという「用いる」視点でしか見てこなかった。嫌いではなく、男女問わず全般好きだけど、それは「いつも頑張ってるなぁ」という意味であって、ファン心理とは程遠いところにいた。

 とりあえず、蔦屋に行くことになった。「ジャニーズのライブとは何か?」を学習するため、DVDをレンタルした。「いや、いいよ」と後ろ向きで始まった鑑賞会。

 すぐに揺らいだ。

 知っている曲は口ずさみたくなるし、知らない曲やそれぞれのソロは、その演出が楽しい。はだけてみたり、投げキッスをするとSE音のように「キャーー」が始まる。最初は苦笑した。しかし、これも立派な合いの手。同性にも関わらず、ジャニーズが肌を見せること、そして「キャーー」が来ることを次第に待つようになる。

『あ、今、Ki君ウインクした!』 
「キャーー」

 この「キャーー」の前に「キャーー」の原因を見つける快感。「なんなんだよ、これはぁ~~」とツッコミながら、楽しく過ごしてしまった。

 その後は、このグループのCDが車内BGMとなり、たくさん予習した。妻とのカラオケでも「エビバディゴー」と唄い、店員さんが来たらとんでもなく気まずい思いもした。

 そして、結局、冒頭の話。

 ついに曲やグループ全体の予習を終え、ライブ会場にいきついた。開演前、席について談笑していると、周りの視線が痛い。

「この席、どれだけ価値あるか分かってるの?」

 だれもそんなことは言わないが、そう感じるほど周りの本気度が凄い。

 私は、妻と友人の計らいで、紫のTシャツに〇を描き、その中に「宮」という漢字を書いた服を着ていた。

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 宮のつくメンバーのMくんは、推しというわけじゃない。私はメンバー横一線、それぞれの個性が好きになっていた。yくんのポンコツ具合も、Fくんのなーに気取ってるんだ具合も。浮かれた男性ファンを一番受け入れてくれるのは、本人もファンもMくんだろうという安全策でチョイスした。

 しかし、このTシャツのチカラは凄かった

 アリーナ席で、目が合う距離に男性がいる。しかも、こんな面白Tシャツを着ている。

メンバーが、しっかり気付いた。

 メインステージからサブステージにうつる通路を歩く2くん。通称ニカちゃんが、私を指差し「おおお!」という顔をして、「胸の字いいね!」というようなジェスチャーまでしてくれた。私は嬉しさのあまり、Mくんのようにヲタ芸を小さくし、妻や友人へ「今の見た?!すごいよね、すごいよね」と盛り上がった。

 次の瞬間、とてつもない殺気を感じ取った。

 そう、私は完全アウェイにいた。それは、男性という意味じゃない。このライブにかける思いの差。

 どれだけ予習しようが、それはライブを楽しむための作られた本気。同性ということは置いといて、好きだが「夢中」にはなっていなかった。本気で恋はしていなかった。

 うちわ1つでも、どんな思いで作ってきたのか。

目立つように、文字は蛍光にしよう!
ニカちゃんカラーのTシャツはマストだよね!!
あ、このグッズも絶対もっていこう!!!

 この夢の舞台に、並々ならぬ想いで参加する皆さんに対し、私は「男性」という圧倒的な特殊感でサービスを奪ってしまった。歌いながら反応するには一瞬のこと。少なくともニカちゃんのファンサービスは、このエリアは私が受けとってしまった。

 嬉しさの後の罪悪感。そこからは、メンバーの s くんや t ちゃんも「お!」という顔をしたけれど、目立たないよう控えめにした。

 そして夢のエンターテイメントショーは終わった。

 今も、彼らの番組は必ず観る・・・というほどのファンではない。ただ、テレビに映ると、応援したい気持ちでいる。この投稿でも、伏字ではあるがあだ名で書いたのは、それだけの存在である証拠。

 私は何かのオタクと言えるような趣味はない。よく講師時代の生徒さんには会計オタクと言われた。趣味よりも仕事にのめり込むタイプなんだろう(というより混同しているのかもしれない)。

 ジャニーズにのめり込む子たちは、一部心配な方もいたのは確かだけど、輝いていた

 今朝、この投稿見て、あのドーム全体の輝きを思い出した。熱中できるものっていい。それは、楽しそうでいいって単純なものじゃなく。

もしアイドルに恋をしているあなたが目の前に現れたら、その想いをあますことなくどこかに書き留めておいてほしいと伝えたい。それがやがてアイドル自身だけでなく、自分自身を守る大きな盾になるように願いをこめて。(みくりや佐代子さん)

 自分自身を守る盾。高めようとして学んで、考えて得た財産もあれば、頭じゃなく心から夢中になって、嬉しくて苦しくて揺れ動かされて得た財産もある。黒歴史だ、負債だと思うかもしれないが、本当にそうか。少なくともアイドルに本気で恋したことのない自分は羨ましく思う。

◼️◼️◼️

 我が家の三姉妹も園児ながら「インザサマーオウオウ」だの「きみはシンデレラガールララララ〜」だの「あいばくーーん❤️」だの。

 始まっている。

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 恋、するのかな。

 そんな存在になれるアイドルって、いいなぁ。(オチ)

#雑記 #note感想文 #思い出話 #色鉛筆

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