見出し画像

【寄稿】『職場でのカウンセリング~心理職のための手引き』の著者の1人である弁護士が職場のメンタルヘルスについて考えてみた話|五十嵐沙織

小社より新刊『職場でのカウンセリング』が発売になりました。先日、編者の財津康司先生のエッセイを掲載いたしましたが、今回、第6章の「知っておくべき法律知識と他職種との連携」をご執筆いただいた五十嵐沙織先生からもご寄稿いただきました。
本書には、企業内のメンタルヘルス活動の現状と問題点が具体的かつわかりやすく描かれています。心理士の方だけでなく、企業で働かれている方ならどなたが読んでも気づきが得られる本です。五十嵐先生は特に本書を読んでいただきたい方として、「スタートアップの経営者」を挙げておられます。

 本書の編者である財津先生のnoteでも言及されていましたが、私も、本書を、社員のメンタルヘルス対策を担うスタートアップの経営者等に是非とも読んでいただきたいと思っています。

メンタルヘルス対策の重要性とは

 私は、これまで、複数のスタートアップにて、企業内弁護士や監査役として、会社のメンタルヘルスへの対応を見てきました。
 その経験上、メンタルヘルスの問題は人事や労務等の各部署に任せられ、コーポレート部門を統括する長や管掌役員等においては、メンタルヘルス問題への意識や取り組みが二の次となっているケースが多いのではないかと感じています。
 確かに、通常は、メンタルヘルスの問題が経営上の大きなリスクとなりうるケースは稀であり、リソースが限られているスタートアップなどにおいては、資金調達や目下の業務改善等の方が優先順位は高くなりがちであることは理解できます。
 しかし、メンタルヘルスの問題は、日頃から適切な対策を講じていないと、突如として降りかかって来て、会社に多額の損害を生じさせることもありますし、さらには、企業価値の棄損や信用の低下を招くような事態にもなりかねません。
 つまり、メンタルヘルス問題は、いうまでもなく、重要な経営課題なのです。

メンタルヘルス問題へのあるべき対応とは

 弁護士という立場上、私のところに相談が来る時には、すでに会社と社員との間で、紛争の芽が発芽しつつあるようなケースが多いです。
 しかし、重要なことはそのような状態になる前から、会社としての対応方針やルールを定め、それに則って運用をするということです。
 本書でも紹介したように、社員の休職・復職をめぐっては、トラブルが生じやすいので、注意が必要です。
 特に、スタートアップなどの若い会社や社員数の少ない会社では、社員ごとに個別対応をしがちです。例えば、Aさんは優秀で会社に貢献してくれているので、特別に休職期間を延長するが、Bさんはパフォーマンスが低いので休職期間を満了したら退職してもらうといったようなものです。
 しかし、個別対応をすれば、柔軟に会社にとって都合のよい対応が可能になる反面、社員間に不公平を生じますし、会社は恣意的な対応が可能となり、内部統制の観点からも好ましくありません。

ルールの整備について
 ルールを整備するにあたっては、経営層がそれぞれの論点について議論し、会社としてのスタンスを明確にしておくことが重要です。
 会社の規程類の整備においては、他社事例を参考にされることが多いと思いますが、他社事例を参考にして同様の規程を整備しても、実際に運用をしてみたら、会社の実情に合わずに、結局、規程と異なる運用がなされてしまうなんていうことも少なくないと思います。
 そのため、他社事例については参考程度にとどめ、それぞれのルールが本当に会社にとって必要なのかを十分に検討することが重要です。

メンタルヘルス対策と連携

 それでは、会社としてのルールや仕組みを整備する際には、どのような点を意識すれば良いでしょうか。
 本書では、カウンセラー、産業医、臨床医、人事担当者、弁護士というそれぞれの立場から執筆し、他職種との連携の必要性についても焦点を当てていますが、私は、あるべきメンタルヘルス対策として、「連携」が一つの重要な要素であるように思っています。
 なぜなら、先ほどの休職・復職の例について考えてみても、社員が復職できる状態にあるか否かについては、主治医の診断結果や産業医の見解がなければ人事担当者も判断ができませんし、会社としての対応を決定するにあたっては、リスクを回避するため、弁護士の法的な見解を踏まえて検討することが望ましいからです。
 つまり、あるべきメンタルヘルス対策を実践ためには、他職種との連携が不可欠なのです。

まとめ

 本書は、会社のメンタルヘルスに関わるそれぞれの立場から執筆されており、スタートアップの経営者が経営的視点でメンタルヘルスについて考えるきっかけとなりうる書籍であると思います。是非一人でも多くの経営者の方にお手に取っていただけたら嬉しく思います。

五十嵐沙織(いからし・さおり)
広尾有栖川法律事務所 代表弁護士。
1986年生まれ。中央大学大学院 法務研究科修了。使用者側労働案件を中心に扱う法律事務所での勤務を経て、株式会社野村総合研究所にて、経営コンサルタントとして、組織・人事制度改革等のプロジェクトに従事。その後、freee(フリー)株式会社に転職し、企業内弁護士として、法務・労務の幅広い業務を経験。現在は、広尾有栖川法律事務所を開業するとともに、複数のスタートアップ企業において監査役に就任し、スタートアップ支援、労働事件、医療事件に注力している。

☟☟☟五十嵐沙織先生ご執筆の小社新刊がこちら☟☟☟


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?