【寄稿】『職場でのカウンセリング~心理職のための手引き』の著者の1人である弁護士が職場のメンタルヘルスについて考えてみた話|五十嵐沙織
本書の編者である財津先生のnoteでも言及されていましたが、私も、本書を、社員のメンタルヘルス対策を担うスタートアップの経営者等に是非とも読んでいただきたいと思っています。
メンタルヘルス対策の重要性とは
私は、これまで、複数のスタートアップにて、企業内弁護士や監査役として、会社のメンタルヘルスへの対応を見てきました。
その経験上、メンタルヘルスの問題は人事や労務等の各部署に任せられ、コーポレート部門を統括する長や管掌役員等においては、メンタルヘルス問題への意識や取り組みが二の次となっているケースが多いのではないかと感じています。
確かに、通常は、メンタルヘルスの問題が経営上の大きなリスクとなりうるケースは稀であり、リソースが限られているスタートアップなどにおいては、資金調達や目下の業務改善等の方が優先順位は高くなりがちであることは理解できます。
しかし、メンタルヘルスの問題は、日頃から適切な対策を講じていないと、突如として降りかかって来て、会社に多額の損害を生じさせることもありますし、さらには、企業価値の棄損や信用の低下を招くような事態にもなりかねません。
つまり、メンタルヘルス問題は、いうまでもなく、重要な経営課題なのです。
メンタルヘルス問題へのあるべき対応とは
弁護士という立場上、私のところに相談が来る時には、すでに会社と社員との間で、紛争の芽が発芽しつつあるようなケースが多いです。
しかし、重要なことはそのような状態になる前から、会社としての対応方針やルールを定め、それに則って運用をするということです。
本書でも紹介したように、社員の休職・復職をめぐっては、トラブルが生じやすいので、注意が必要です。
特に、スタートアップなどの若い会社や社員数の少ない会社では、社員ごとに個別対応をしがちです。例えば、Aさんは優秀で会社に貢献してくれているので、特別に休職期間を延長するが、Bさんはパフォーマンスが低いので休職期間を満了したら退職してもらうといったようなものです。
しかし、個別対応をすれば、柔軟に会社にとって都合のよい対応が可能になる反面、社員間に不公平を生じますし、会社は恣意的な対応が可能となり、内部統制の観点からも好ましくありません。
ルールの整備について
ルールを整備するにあたっては、経営層がそれぞれの論点について議論し、会社としてのスタンスを明確にしておくことが重要です。
会社の規程類の整備においては、他社事例を参考にされることが多いと思いますが、他社事例を参考にして同様の規程を整備しても、実際に運用をしてみたら、会社の実情に合わずに、結局、規程と異なる運用がなされてしまうなんていうことも少なくないと思います。
そのため、他社事例については参考程度にとどめ、それぞれのルールが本当に会社にとって必要なのかを十分に検討することが重要です。
メンタルヘルス対策と連携
それでは、会社としてのルールや仕組みを整備する際には、どのような点を意識すれば良いでしょうか。
本書では、カウンセラー、産業医、臨床医、人事担当者、弁護士というそれぞれの立場から執筆し、他職種との連携の必要性についても焦点を当てていますが、私は、あるべきメンタルヘルス対策として、「連携」が一つの重要な要素であるように思っています。
なぜなら、先ほどの休職・復職の例について考えてみても、社員が復職できる状態にあるか否かについては、主治医の診断結果や産業医の見解がなければ人事担当者も判断ができませんし、会社としての対応を決定するにあたっては、リスクを回避するため、弁護士の法的な見解を踏まえて検討することが望ましいからです。
つまり、あるべきメンタルヘルス対策を実践ためには、他職種との連携が不可欠なのです。
まとめ
本書は、会社のメンタルヘルスに関わるそれぞれの立場から執筆されており、スタートアップの経営者が経営的視点でメンタルヘルスについて考えるきっかけとなりうる書籍であると思います。是非一人でも多くの経営者の方にお手に取っていただけたら嬉しく思います。
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